日本IBM(大歳卓麻社長)は、国産ISV(独立系ソフトウェアベンダー)の海外進出を支援する事業を5月から開始した。進出国の通信プロトコルや法制度に対応した機能などを同社が組み込み、技術検証などを行う。現地化した製品は、同社のミドルウェアを組み込み、各国IBMが紹介する現地販売会社などを通じて販売する。国産ISV単独では、海外進出のための資金や技術に不安があり、現地でのチャネル開拓などの障壁も大きい。同社は技術力の高い国産ISV製品を発掘し、海外展開することで、ミドルウェアの販路拡大につなげる。今年度(2006年12月期)は、10社の製品を海外企業へ導入することを目指す。
技術検証や販路構築も行う
第1弾はクラステクなど4社
海外進出支援策は、日本IBMのISV支援部隊など10人程度で組織した新設の専門チームが担当する。大和事業所(神奈川県大和市)の開発要員と連携して製品を開発する。IBMには「Partner World ISV」という技術・販売両面を包括的にバックアップするISV支援プログラムがすでにある。これをベースに国産ISVに適した国内独自の仕組みとして提供する。
専門チームは、海外のIBMを通じて、販売地域でニーズの高いソフトやツール類の市場調査を実施。このデータなどに基づき、特定の業種・業態に優位性のあるISVを募る。製品は、大和事業所で現地の通信プロトコルやSOX法といった関連法、SOA(サービス指向アーキテクチャ)など、国別、業種・業態別の技術トレンドに対応した製品にカスタマイズして技術検証する。
海外向け製品に仕立てるための開発・技術検証費は、ISVが負担する。その費用は案件により異なるが、コンサルティングを含め200万円程度になる見込み。初年度は、海外拠点を構えているか、設置する予定のISVを有力候補にする方針だ。
販売に関しては、現地のIBMと国産ISVの海外拠点が連携して、販売施策を検討していく。日本IBMとISVは、市場調査をもとに、両社で販売目標・計画値などの「ビジネスプラン」を確定させる。「当社を通じて製品を海外に展開させれば、ISVの業績は国内の10倍以上に伸びる可能性がある」(古長由里子・ソフトウェア事業ISV&デベロッパー事業推進部長)と試算している。
海外展開支援の第1号製品としては、クラステクノロジーの生産管理ソフト、ジャストシステムのXML開発・実行ツール、リアルコムのナレッジツール、日本人が設立した米国法人のIPロックスのセキュリティ製品が決定している。同社の情報共有ツール「ノーツ/ドミノ」と連携する製品や日本固有の帳票システムなどは「比較的、海外へ持ち込みやすい」(古長部長)と判断している。
情報サービス産業協会などの調査によると、04年のソフト輸出額(ゲームソフトを除く)は、前年比3倍強の320億円。このうち、業種・業務ソフトは約260億円を占めている。輸入額の3646億円に比べれば、10分の1程度の規模だ。同調査に回答した318社のうち、海外実績があるのは約23%の74社。現地のニーズを知る機会や販路に乏しく、容易に進出できないという事情がある。
国内の外資系プラットフォームベンダーにも、日本IBMと似た仕組みはあるものの、ほとんど実績がない。日本IBMが支援開始するクラステクノロジーの目標売上高は年間20億円強。単純計算すると、同社は、ISV10社の海外進出を支援することで、200億円近くの売上高を見込めることになる。国産ISVの製品は、世界的に通用するレベルにあるといわれて久しい。世界展開するIBMの技術力やチャネル網を借り、海外進出することで、国産製品が世界で認められる機会が生まれる可能性がある。