前回はマイクロソフトとアップルコンピュータ本社を訪問した様子をレポートした。その後、われわれ視察団はアップルと同じくカリフォルニア州クパチーノに米国オフィスを構えるトレンドマイクロ米国オフィスをはじめ、ヒューレット・パッカードなどIT最先端企業を訪ねた。(吉若 徹●取材/文)
米国の元気なIT企業を歴訪
確固たる経営哲学を貫く企業は強い
セキュリティ大手の考え方は-脅威の完全防御は不可能-
トレンドマイクロは、情報セキュリティ事業を積極的に展開している。同社は基本的に、外部からの脅威は完全に防御することはできないと考えており、その不安はユーザー自身も常に持っているとして、ウイルス、スパイウェア、スパム、そしてハッカーなどの外部からの脅威に対し、ニーズにあったソリューションの提供を展開していくとしている。
同社は、情報セキュリティ対策のPDCAサイクルとして、Monitor(監視)、Enforce(強化)、Prevent(予防)、Recover(復旧)のルーチンを提唱している。特にモバイルやワイヤレスの普及により新たなぜい弱性も出てきており、大企業、中小企業にとどまらず、コンシューマを含めたコンピュータユーザー全般を対象として適切な対応策を展開するという。
トレンドマイクロは、ルータメーカーとして確固たる地位を築いているシスコシステムズと提携しているが、両社の提携はインターネットの普及による情報セキュリティの脅威に対し、ハードメーカーとソフトメーカーの協業による情報セキュリティ脅威防止のチャレンジといえる。
出荷台数トップに返り咲いたHP-モノづくりの原点回帰が奏功-

10月18日、早朝よりヒューレット・パッカード(HP)本社を訪問した。
今期売上高900億ドルとなる同社は「HPを世界でトップのIT企業にしよう」という合い言葉のもと(1)事業の焦点をITに絞り込んで成長していくこと(2)適切な投資をすること(3)生産性を向上させることの3点を経営指針に絞り、事業を展開している。
その事業展開の中心にいる人物が最高経営執行責任者マーク・ハード氏である。同氏は、経営資源を研究開発と営業展開の2点に集中させ、良いものをつくって販売するという、モノづくり企業の原点に戻り、収益構造を改善させた。その結果、2005年の売上高870億ドルが06年には9か月で670億ドル以上となっており、10月末の第4四半期終了後は、通期で900億ドル超えとなる原動力となった。
同社はエンタープライズ、PCクライアント、イメージ分野を中心に、ハードウェア、ソリューションを展開しているが、モバイル市場が今後大きな市場に成長すると予測し、モバイル市場に対し、積極的に展開していくとしている。
米国調査会社ガートナーによると、06年7-9月期の世界PC出荷台数の市場シェア調査で、HPがデルを押さえ、トップの座に返り咲いたとのことである。HPが首位となったのは03年10-12月期以来で、7-9月期の世界シェアは16.3%、デルの16.1%を小差で上回ったとしている。
同社は企業向けばかりでなくコンシューマ市場にも注力しており、同社の社内資料からもHPの勢いが最近増していることがうかがえた。
グラフィックスの王者が動く-PDFとFlash技術の融合を実現-

アドビシステムズは、アップルコンピュータの新しいインテルMacに対応させた「Photoshop」とパブリッシングソフトウェア「Creative Suite」を来春にもリリースするという。
アップルコンピュータのインテルMacに対する同社製品の検証は急ピッチですすめられているが、「Creative Suite」のカスタマーはMacユーザーが多く、アドビシステムズとしてもインテルMacに対して「Creative Suite」をリリースし、カスタマーのリプレースを促進したい考えだ。
アドビシステムズはこの11月にAcrobatの新たな製品ラインアップ「Acrobat8」を展開する。Acrobatのアップグレードとともに、「Acrobat Connect」と呼ばれるホスティングサービスの提供も始める。
同サービスは、PDFファイル内のボタンをクリックすることで、ウェブ会議を開けるというものだ。ウェブブラウザを介して第三者にドキュメントを閲覧させたり、デスクトップ全体を見せたりすることができる。
同社では、個人向け、企業向けにASPによるAcrobat Connectのサービス提供を11月17日に開始する予定だ。
グラフィックスの世界では、もはやデファクトとなっている「Adobe Photoshop」「Adobe Illustrator」「Adobe Acrobatファミリー」で確固たる地位を築いているアドビシステムズだが、マクロメディアを買収したことで新たにFlash技術を提供することが可能になったのだ。
マクロメディア買収の最大のメリットはアドビシステムズのPDF技術とマクロメディアのFlashの融合である。PDFにFlash技術を加えることで、グラフィックスがより豊かな表現力を持つようになるという。
アドビシステムズのマクロメディア買収は、グラフィクスの世界で新しいデジタル環境を創世する可能性を秘めている。
・第3回に続く