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2006年を振り返る IT業界国内10大ニュース
2006/12/18 14:53
週刊BCN 2006年12月18日vol.1167掲載
2006年は「金融商品取引法」の成立や「会社法」の施行を受け、企業向けシステムを提供するIT業界全体が“内部統制”の渦に巻き込まれた。また、「SaaS」など、システムの提供方法のオンデマンド化が急速に進行。SIerはこうした新しい提供方法を含め、トータルなサービス体制を築く必要性に迫られ、それに押されるように経営統合や再編が相次いだ。新領域では、UHF帯の「RFID」やNGN(次世代ネットワーク)の「元年」となった。一方、「Winny(ウィニー)」悪用による情報漏えいやパソコン電池の不具合など、ITのぜい弱性を露呈する事件が相次いだ1年でもあった。
“内部統制”に揺れた1年
(1)SIerの経営統合、再編活発に
SIerの経営統合や再編が相次いだ。今年10月1日には旧伊藤忠テクノサイエンスがデータセンター事業を得意とする旧CRCソリューションズと経営統合。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)に社名変更して再スタートした。4月1日には野村総合研究所(NRI)が同じくデータセンター事業を得意とするグループ会社・NRIデータサービスを吸収合併している。
ブロードバンド通信網が普及し、ソフト・サービスのオンデマンド化が急速に進行。旧来のデータセンターは顧客のサーバーやストレージを預かることが主な役割だったが、今は情報サービスを提供する重要なプラットフォームへと位置づけが大きく変わった。CTCやNRIは経営統合や合併を通じてデータセンター事業の強化を狙った。SIからオンデマンドまでトータルなサービス体系を築くことで付加価値の増大を図る。
一方、人手不足や新しい技術を補うための買収も相次いだ。景気好転でIT投資が拡大するなか、SE・プログラマの需要が逼迫。中小ソフトハウスを傘下に収めることによる、人材や新しい技術の取り込みが活発化した。
(2)「金融商品取引法」が成立
IT産業界にとって、今年成立したもっとも重要な法律が「金融商品取引法」だろう。内部統制に関する一部の内容を「米SOX法」になぞらえて、「J-SOX法」や「日本版SOX法」と呼んでいる法律で、今年6月に成立した。
金融商品取引法は、株式や金融先物などの売買に関するルールを包括した法律だが、注目を集めているのは内部統制の義務化だ。内部統制とは、業務の効率性や財務報告の信頼性、コンプライアンス(法令遵守)を実現するための仕組みを指す。上場企業やその子会社など対象企業は、この内部統制を整備し外部監査を受けなければならない。3月決算の企業であれば、2008年4月1日までに内部統制を実現しなければならなくなった。
内部統制を整備するための具体的方法を記述した「実施基準(ガイドライン)」の案が当初の予定よりも大幅に遅れたことで、対象企業の取り組みは遅れているといわれている。
内部統制を実現するためには、セキュリティ対策やアクセス管理、情報システムの可視化など、さまざまなツールの販売およびシステム構築需要が期待されており、IT産業界でも注目を集めた。
(3)続出した「Winny」被害
今年春、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を悪用したウイルス「Antinny(アンティニー)」による防衛庁の機密情報漏えい事件が相次いで発覚した。そこで浮き彫りになったのは現場の職員に私物パソコンの使用を認めていたことだった。
防衛庁は情報漏えい防止対策として、50億円ほどともいわれる費用を投じて業務用パソコン5万6000台を新たに発注し、私物パソコンの使用を禁じた。安倍晋三官房長官(当時)は「情報漏えいを防ぐために、Winnyを使わないことを国民の皆さんにお願いしたい」と訴えた。
相次ぐ情報漏えいに、セキュリティベンダー各社は続々とWinny対策ソフトを発売。また、防衛庁の被害をきっかけに対策関連製品を持つ企業が人気を集め、株価は軒並み上昇した。
だが、その後も被害は収束せず、最近、NTT西日本で顧客情報3140件、電話番号21万件の流出が発覚した。社員が私物パソコンに業務データを保存していたことが事故の原因だ。
11月に発表されたIPA(情報処理推進機構)の「企業における情報セキュリティ事象被害額調査」(調査対象期間2005年)によると、情報漏えいの分析調査、対外説明などで人件費・外注費が2000万円以上かかった企業もあるという。
(4)大手電機のトップ交代が相次ぐ
日立製作所と松下電器産業、NEC、三菱電機の大手電機メーカー4社が、こぞってトップ交代を行った。
松下電器は、6年間にわたって続いた中村夫体制に終止符を打ち、大坪文雄氏が社長に就任。日立は、情報・通信グループCEOなどの経験を持つ古川一夫氏が庄山悦彦氏からバトンを引き継いだ。
NECは3月15日に急きょ、副社長だった矢野薫氏が4月1日付で社長に就任する人事を発表した。それまで社長を務めていた金杉明信氏が健康を害し(11月8日に逝去)、業務を遂行するのが難しかったというのが理由だ。三菱電機も、4月1日付で社長交代。新社長には、執行役副社長だった下村節宏氏が就任した。
各社とも後任社長は前社長の意志を継続する方向を掲げていることや、社長交代から1年も経過していない時間的な問題もあり、現段階では各社とも業績不振事業の抜本的な再編など大きな変化がみえるかたちになっていない。しかし、06年度(07年3月期)の業績次第では、企業を成長させるための舵取りを問われることになりそうだ。新社長の一挙手一投足が一段と注目されるのは間違いない。
(5)パソコン用電池が発火
10月24日、ソニーはノートパソコン用リチウムイオン電池セルを自主交換すると正式発表した。デルやアップルコンピュータ、レノボなど複数メーカーのパソコン用電池から発火事故が発生した。
ソニーはこの日初めて同件に関して記者会見を開催。問題となった電池を製造していた当時の責任者である中川裕・執行役副社長セミコンダクタ&コンポーネントグループ担当が陳謝するとともに、発火原因を詳細に説明した。
一連の発火事故に関するトラブル処理費用は約510億円(10月24日発表時点)。薄型テレビのヒットなどエレクロニクス分野の回復で復調傾向にあったソニーの業績を、再び低迷へと突き落としかねない要因として注目を集めた。
この後、電子情報技術産業協会(JEITA)では、パソコン業界への悪影響を懸念しリチウムイオン電池の安全に関する啓蒙活動と、ノートパソコン本体の設計・評価を目的とする特別委員会を設置。メーカー1社の問題にとどまらない状況となった。
パソコンの個人向け販売は、今年度上期は低迷し前年割れ。JEITAは消費の多様化を理由にあげているが、この電池問題が少なからず影響しているとの声も多かった。
(6)UHF帯製品揃い「RFID元年」
大手ITベンダーを中心にRFID(ICタグ)関連の事業を実需に結びつけるため、汎用的な製品投入が相次いだ。昨年4月、総務省令改正で利用可能になったことを受け、今年に入り、UHF帯対応のICタグやリーダ/ライタ機器が続々登場。2006年を「RFID元年」と呼び、攻勢をかけるベンダーも目立った。昨年までは、大手製造業や流通業などを中心に「実証実験」的な導入にとどまっていたが、SIerが担げる商材やソリューションが出揃った。
先陣を切ったのは富士通で、昨年7月には対応機器を製品化している。ユビキタス事業を強化しているNECと日立製作所が、本格的にUHF帯対応の製品を出したのは今年中盤。それまでは、盛り上がりに欠けていた「国内RFID市場」は、大手ITベンダーの製品が出揃ったことで一気に活性化した。
日立の試算によると、2010年には市場規模が4000億円になると予測。他のベンダーも、今後1-2年で「需要期」を迎えるとの見方が大勢を占める。総務省では「07年前後がブレークポイント」としており、意外に早く需要の転換期が訪れそうである。
(7)業務アプリ「Dynamics」登場
マイクロソフトは9月8日、日本市場で初となる業務アプリケーションのうちCRM(顧客情報管理)製品「Microsoft Dynamics CRM3.0」を投入した。この時点で、大塚商会や沖電気工業のほか、ISVやSIerなどパートナー50社が対応ソリューションの提供を表明した。
米マイクロソフトは、「MBS(Microsoft Business Solution)」という製品群として、CRMとERP(統合基幹業務システム)を、欧米市場を中心として4年前に販売を開始している。今年初めには、名称を「Dynamics」ブランドに統一した。来年4月には、日本市場でERP「Microsoft Dynamics AX」の販売が始まる見通しだ。
日本市場への投入が遅れたのは、国内に「Dynamics」製品群と競合する既存の有力パートナーが大量に存在するだけに、日本法人が二の足を踏んでいたため。しかし、「同CRM 2.0」から「同CRM3.0」にバージョンアップするなど、「パートナーモデルを志向しやすい製品になった」と、ようやく投入に踏み切ることができた。
「毎年2ケタ成長する」ことが目標のマイクロソフト日本法人にとって、「Dynamics」はその原動力になる。
(8)SaaS勢力が台頭する
ソフトウェアのサービス化(SaaS)が台頭した。インターネット上で提供されるウェブアプリケーションをベースとするソフトの新しい流通形態で、ライセンスの売り切り方式ではなく月額料金を基本とするビジネスモデルだ。
今年7月、米CRM大手のセールスフォース・ドットコム創業者のマーク・ベニオフ会長が来日。「ソフトウェアの未来~SaaSがもたらす経営のスピードと柔軟性~」と題する講演を行った頃から国内でもSaaSに火がつき始めた。同社ソフトのユーザー数はうなぎ上りに伸びており、今年10月末時点で世界2万7000社に達した。同社はSaaSに対応した独自のプラットフォームを開発しており、協調する国内アプリケーションベンダーも増えた。
グーグルやアマゾンなど主に米国のコンシューマ向けサービスとして高機能なウェブアプリケーションが登場したのがSaaSの源流といわれる。XMLウェブサービスなどオープンな接続方法で複数ベンダーのアプリケーションの有機的な連携が可能。ユーザーが自在に組み合わせて最適な業務ソフトに仕立てられることなどが、単一ベンダーが提供する従来のASP方式と異なる。
(9)通信事業者のNGN構想
NTTなど通信事業者が次世代ネットワーク(NGN)システムを構築する構想を打ち出したことから、2006年は“NGN元年”となった。これにともない、国内PBXメーカー各社はNGN事業を強化。案件獲得に向けて、新プラットフォームの提供や組織再編を急いだ。
NGN向けプラットフォーム事業の拡大に着手したのはNEC。ネットワークサービス基盤ソフトウェア「NC7000」を発売した。日立製作所は、ネットワーク関連事業を日立コミュニケーションテクノロジーに集約したほか、日立インフォメーションテクノロジーと日立ハイブリッドネットワークの2社合併など子会社の再編を実施。沖電気工業は、グループ間に分散していた開発体制を本体に集結した。
NTTは、NGNシステム稼働のフィールドトライアルを今年12月末から来年3月まで実施する。この結果次第では、来年4月以降から通信事業者のNGN構築が進むとみられる。また、法人市場でも通信事業者のNGNサービス利用に向け、今後は社内ネットワークを見直すニーズが出てくる可能性がある。案件獲得をめぐって、PBXメーカー各社の激しい競争が繰り広げられることになる。
(10)「ブレードサーバー」存在感増す
2006年、企業のIT投資は復調した。サーバーの増強を図る企業が多くなり、サーバーの出荷台数も伸びた。なかでもIAサーバーの伸びは高まった。電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、今年度上期(4-9月)のIAサーバーの出荷台数は前年同期比12%増の21万1485台。JEITAは「通期でも2ケタ成長は見込める」と予測する。民間調査会社のIDC Japanでは、2010年まで年平均成長率を7.4%増とし、長期的にも需要は強いとみている。
なかでも、存在感を示し始めたのがブレードサーバーだった。JEITAの調べでは、上期の出荷台数は前年同期比23%増を記録。全IAサーバーのなかでブレードの比率はまだ7.3%にすぎないが、伸び率はラック型、タワー型に比べて抜きん出ている。
ブレードサーバーは、「エンクロージャ」という専用の筐体に、「ブレード」と呼ばれる専用サーバーを必要な台数だけ増強できる。サーバー設置スペースを削減できるほか、管理が容易である点が魅力だ。
サーバーメーカー各社も、需要増から製品開発を強化し始めた。現在のシェアは日本IBMがトップを走り、日本ヒューレット・パッカード、日立製作所、NECなどが追う展開。来年は台数がどこまで伸びるかとともに、シェア争いも見逃せない。
“内部統制”に揺れた1年
新技術登場、SIer再編の機運
(1)SIerの経営統合、再編活発にSIerの経営統合や再編が相次いだ。今年10月1日には旧伊藤忠テクノサイエンスがデータセンター事業を得意とする旧CRCソリューションズと経営統合。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)に社名変更して再スタートした。4月1日には野村総合研究所(NRI)が同じくデータセンター事業を得意とするグループ会社・NRIデータサービスを吸収合併している。
ブロードバンド通信網が普及し、ソフト・サービスのオンデマンド化が急速に進行。旧来のデータセンターは顧客のサーバーやストレージを預かることが主な役割だったが、今は情報サービスを提供する重要なプラットフォームへと位置づけが大きく変わった。CTCやNRIは経営統合や合併を通じてデータセンター事業の強化を狙った。SIからオンデマンドまでトータルなサービス体系を築くことで付加価値の増大を図る。
一方、人手不足や新しい技術を補うための買収も相次いだ。景気好転でIT投資が拡大するなか、SE・プログラマの需要が逼迫。中小ソフトハウスを傘下に収めることによる、人材や新しい技術の取り込みが活発化した。
(2)「金融商品取引法」が成立
IT産業界にとって、今年成立したもっとも重要な法律が「金融商品取引法」だろう。内部統制に関する一部の内容を「米SOX法」になぞらえて、「J-SOX法」や「日本版SOX法」と呼んでいる法律で、今年6月に成立した。
金融商品取引法は、株式や金融先物などの売買に関するルールを包括した法律だが、注目を集めているのは内部統制の義務化だ。内部統制とは、業務の効率性や財務報告の信頼性、コンプライアンス(法令遵守)を実現するための仕組みを指す。上場企業やその子会社など対象企業は、この内部統制を整備し外部監査を受けなければならない。3月決算の企業であれば、2008年4月1日までに内部統制を実現しなければならなくなった。
内部統制を整備するための具体的方法を記述した「実施基準(ガイドライン)」の案が当初の予定よりも大幅に遅れたことで、対象企業の取り組みは遅れているといわれている。
内部統制を実現するためには、セキュリティ対策やアクセス管理、情報システムの可視化など、さまざまなツールの販売およびシステム構築需要が期待されており、IT産業界でも注目を集めた。
(3)続出した「Winny」被害
今年春、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を悪用したウイルス「Antinny(アンティニー)」による防衛庁の機密情報漏えい事件が相次いで発覚した。そこで浮き彫りになったのは現場の職員に私物パソコンの使用を認めていたことだった。
防衛庁は情報漏えい防止対策として、50億円ほどともいわれる費用を投じて業務用パソコン5万6000台を新たに発注し、私物パソコンの使用を禁じた。安倍晋三官房長官(当時)は「情報漏えいを防ぐために、Winnyを使わないことを国民の皆さんにお願いしたい」と訴えた。
相次ぐ情報漏えいに、セキュリティベンダー各社は続々とWinny対策ソフトを発売。また、防衛庁の被害をきっかけに対策関連製品を持つ企業が人気を集め、株価は軒並み上昇した。
だが、その後も被害は収束せず、最近、NTT西日本で顧客情報3140件、電話番号21万件の流出が発覚した。社員が私物パソコンに業務データを保存していたことが事故の原因だ。
11月に発表されたIPA(情報処理推進機構)の「企業における情報セキュリティ事象被害額調査」(調査対象期間2005年)によると、情報漏えいの分析調査、対外説明などで人件費・外注費が2000万円以上かかった企業もあるという。
(4)大手電機のトップ交代が相次ぐ
日立製作所と松下電器産業、NEC、三菱電機の大手電機メーカー4社が、こぞってトップ交代を行った。
松下電器は、6年間にわたって続いた中村夫体制に終止符を打ち、大坪文雄氏が社長に就任。日立は、情報・通信グループCEOなどの経験を持つ古川一夫氏が庄山悦彦氏からバトンを引き継いだ。
NECは3月15日に急きょ、副社長だった矢野薫氏が4月1日付で社長に就任する人事を発表した。それまで社長を務めていた金杉明信氏が健康を害し(11月8日に逝去)、業務を遂行するのが難しかったというのが理由だ。三菱電機も、4月1日付で社長交代。新社長には、執行役副社長だった下村節宏氏が就任した。
各社とも後任社長は前社長の意志を継続する方向を掲げていることや、社長交代から1年も経過していない時間的な問題もあり、現段階では各社とも業績不振事業の抜本的な再編など大きな変化がみえるかたちになっていない。しかし、06年度(07年3月期)の業績次第では、企業を成長させるための舵取りを問われることになりそうだ。新社長の一挙手一投足が一段と注目されるのは間違いない。
(5)パソコン用電池が発火
10月24日、ソニーはノートパソコン用リチウムイオン電池セルを自主交換すると正式発表した。デルやアップルコンピュータ、レノボなど複数メーカーのパソコン用電池から発火事故が発生した。
ソニーはこの日初めて同件に関して記者会見を開催。問題となった電池を製造していた当時の責任者である中川裕・執行役副社長セミコンダクタ&コンポーネントグループ担当が陳謝するとともに、発火原因を詳細に説明した。
一連の発火事故に関するトラブル処理費用は約510億円(10月24日発表時点)。薄型テレビのヒットなどエレクロニクス分野の回復で復調傾向にあったソニーの業績を、再び低迷へと突き落としかねない要因として注目を集めた。
この後、電子情報技術産業協会(JEITA)では、パソコン業界への悪影響を懸念しリチウムイオン電池の安全に関する啓蒙活動と、ノートパソコン本体の設計・評価を目的とする特別委員会を設置。メーカー1社の問題にとどまらない状況となった。
パソコンの個人向け販売は、今年度上期は低迷し前年割れ。JEITAは消費の多様化を理由にあげているが、この電池問題が少なからず影響しているとの声も多かった。
(6)UHF帯製品揃い「RFID元年」
大手ITベンダーを中心にRFID(ICタグ)関連の事業を実需に結びつけるため、汎用的な製品投入が相次いだ。昨年4月、総務省令改正で利用可能になったことを受け、今年に入り、UHF帯対応のICタグやリーダ/ライタ機器が続々登場。2006年を「RFID元年」と呼び、攻勢をかけるベンダーも目立った。昨年までは、大手製造業や流通業などを中心に「実証実験」的な導入にとどまっていたが、SIerが担げる商材やソリューションが出揃った。
先陣を切ったのは富士通で、昨年7月には対応機器を製品化している。ユビキタス事業を強化しているNECと日立製作所が、本格的にUHF帯対応の製品を出したのは今年中盤。それまでは、盛り上がりに欠けていた「国内RFID市場」は、大手ITベンダーの製品が出揃ったことで一気に活性化した。
日立の試算によると、2010年には市場規模が4000億円になると予測。他のベンダーも、今後1-2年で「需要期」を迎えるとの見方が大勢を占める。総務省では「07年前後がブレークポイント」としており、意外に早く需要の転換期が訪れそうである。
(7)業務アプリ「Dynamics」登場
マイクロソフトは9月8日、日本市場で初となる業務アプリケーションのうちCRM(顧客情報管理)製品「Microsoft Dynamics CRM3.0」を投入した。この時点で、大塚商会や沖電気工業のほか、ISVやSIerなどパートナー50社が対応ソリューションの提供を表明した。
米マイクロソフトは、「MBS(Microsoft Business Solution)」という製品群として、CRMとERP(統合基幹業務システム)を、欧米市場を中心として4年前に販売を開始している。今年初めには、名称を「Dynamics」ブランドに統一した。来年4月には、日本市場でERP「Microsoft Dynamics AX」の販売が始まる見通しだ。
日本市場への投入が遅れたのは、国内に「Dynamics」製品群と競合する既存の有力パートナーが大量に存在するだけに、日本法人が二の足を踏んでいたため。しかし、「同CRM 2.0」から「同CRM3.0」にバージョンアップするなど、「パートナーモデルを志向しやすい製品になった」と、ようやく投入に踏み切ることができた。
「毎年2ケタ成長する」ことが目標のマイクロソフト日本法人にとって、「Dynamics」はその原動力になる。
(8)SaaS勢力が台頭する
ソフトウェアのサービス化(SaaS)が台頭した。インターネット上で提供されるウェブアプリケーションをベースとするソフトの新しい流通形態で、ライセンスの売り切り方式ではなく月額料金を基本とするビジネスモデルだ。
今年7月、米CRM大手のセールスフォース・ドットコム創業者のマーク・ベニオフ会長が来日。「ソフトウェアの未来~SaaSがもたらす経営のスピードと柔軟性~」と題する講演を行った頃から国内でもSaaSに火がつき始めた。同社ソフトのユーザー数はうなぎ上りに伸びており、今年10月末時点で世界2万7000社に達した。同社はSaaSに対応した独自のプラットフォームを開発しており、協調する国内アプリケーションベンダーも増えた。
グーグルやアマゾンなど主に米国のコンシューマ向けサービスとして高機能なウェブアプリケーションが登場したのがSaaSの源流といわれる。XMLウェブサービスなどオープンな接続方法で複数ベンダーのアプリケーションの有機的な連携が可能。ユーザーが自在に組み合わせて最適な業務ソフトに仕立てられることなどが、単一ベンダーが提供する従来のASP方式と異なる。
(9)通信事業者のNGN構想
NTTなど通信事業者が次世代ネットワーク(NGN)システムを構築する構想を打ち出したことから、2006年は“NGN元年”となった。これにともない、国内PBXメーカー各社はNGN事業を強化。案件獲得に向けて、新プラットフォームの提供や組織再編を急いだ。
NGN向けプラットフォーム事業の拡大に着手したのはNEC。ネットワークサービス基盤ソフトウェア「NC7000」を発売した。日立製作所は、ネットワーク関連事業を日立コミュニケーションテクノロジーに集約したほか、日立インフォメーションテクノロジーと日立ハイブリッドネットワークの2社合併など子会社の再編を実施。沖電気工業は、グループ間に分散していた開発体制を本体に集結した。
NTTは、NGNシステム稼働のフィールドトライアルを今年12月末から来年3月まで実施する。この結果次第では、来年4月以降から通信事業者のNGN構築が進むとみられる。また、法人市場でも通信事業者のNGNサービス利用に向け、今後は社内ネットワークを見直すニーズが出てくる可能性がある。案件獲得をめぐって、PBXメーカー各社の激しい競争が繰り広げられることになる。
(10)「ブレードサーバー」存在感増す
2006年、企業のIT投資は復調した。サーバーの増強を図る企業が多くなり、サーバーの出荷台数も伸びた。なかでもIAサーバーの伸びは高まった。電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、今年度上期(4-9月)のIAサーバーの出荷台数は前年同期比12%増の21万1485台。JEITAは「通期でも2ケタ成長は見込める」と予測する。民間調査会社のIDC Japanでは、2010年まで年平均成長率を7.4%増とし、長期的にも需要は強いとみている。
なかでも、存在感を示し始めたのがブレードサーバーだった。JEITAの調べでは、上期の出荷台数は前年同期比23%増を記録。全IAサーバーのなかでブレードの比率はまだ7.3%にすぎないが、伸び率はラック型、タワー型に比べて抜きん出ている。
ブレードサーバーは、「エンクロージャ」という専用の筐体に、「ブレード」と呼ばれる専用サーバーを必要な台数だけ増強できる。サーバー設置スペースを削減できるほか、管理が容易である点が魅力だ。
サーバーメーカー各社も、需要増から製品開発を強化し始めた。現在のシェアは日本IBMがトップを走り、日本ヒューレット・パッカード、日立製作所、NECなどが追う展開。来年は台数がどこまで伸びるかとともに、シェア争いも見逃せない。
2006年は「金融商品取引法」の成立や「会社法」の施行を受け、企業向けシステムを提供するIT業界全体が“内部統制”の渦に巻き込まれた。また、「SaaS」など、システムの提供方法のオンデマンド化が急速に進行。SIerはこうした新しい提供方法を含め、トータルなサービス体制を築く必要性に迫られ、それに押されるように経営統合や再編が相次いだ。新領域では、UHF帯の「RFID」やNGN(次世代ネットワーク)の「元年」となった。一方、「Winny(ウィニー)」悪用による情報漏えいやパソコン電池の不具合など、ITのぜい弱性を露呈する事件が相次いだ1年でもあった。
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