財務・会計や人事・給与、販売管理、ERP(統合基幹業務システム)など基幹系ソフトを提供する業務ソフトウェア業界の今年は、「晴れ」そうだ。「まだらな晴れ」「晴れところにより曇り」と、控え目な見解を示すベンダーもあるが、ここでいうリスク要因は、自社が得意とする産業界の景気失速やIT人材不足。だが、この理由による大幅な市場減速は予測しづらい。業界には「内部統制景気」の高気圧が訪れそうで、天気も「快晴」に近い「晴れ」になりそうである。(谷畑良胤●取材/文)
「内部統制」で高気圧に
リスク要因極小、「快晴」もある
昨年末からは、2006年5月の「会社法」施行を経て、「金融商品取引法」の「実施基準」が明確になったことで、同基準に対応した「内部統制」を強化するために、「ERPの導入が最も効果的」との認識が広まった。同法の対象とはならない中堅の未上場企業でさえ、これを機にシステムを「全体最適」化し、企業内に蓄積するデータを生かして経営戦略に活用する動きが活発化している。
この“追い風”を受ける業務ソフト業界の07年に対する期待は、中堅中小企業(SMB)市場だけで10-25%の2ケタ伸長を予測するほど大きい。各種調査会社の予測を超えて、業界全体が成長する可能性を秘めている。ERP「GRANDIT」を開発するインフォベックの三浦進社長は、「内部統制の対応にERPが最適だと、顧客が改めて理解する年になる」という。ERPが企業内の重要インフラとして位置づけられるというわけだ。
当初、金融商品取引法に示された「内部統制」の監査基準は、上場企業とグループ会社だけに適用されると思われていたが、システムや業務をアウトソーシングする協力会社に対しても「内部統制」要求が高まる見通しである。このため、業界各ベンダーの大半が「07年は、大企業のグループ会社をターゲットとする」と目算を語る。
株式上場する大手企業には、大企業向けのERPであるSAPの「mySAP ERP」やオラクルの「E-Business Suite(EBS)」などが多く導入されている。こうした大企業とデータ連携するグループ会社には、国産ベンダーのERPや業務ソフトが入っているケースが目立つ。
業務ソフトベンダー各社は、自社製品をもつ既存顧客の守りを固めたうえで、他社ベンダーのグループ会社を「内部統制ソリューション」で攻略しようと構える。オービックビジネスコンサルタント(OBC)の和田成史社長は「内部統制強化という観点からすると、すべての業種で成長が期待できる」として、SMB市場の成長性を「15%前後」と予測する。これが最低ラインで、さらなる成長もありうるとの見方だ。
もうひとつ、業界の需要を加速させそうな要因がある。「2007年問題」による「レガシーマイグレーション」の需要拡大だ。ピー・シー・エーの川島正夫・会長兼社長は「資本金3000万円以上の国内企業は現在、約20万社あり、かなりの企業がオフコンを利用している」と、団塊の世代が退職してIT人材不足に陥るユーザーのリプレース需要が本格的に到来するとみている。
07年のリスク要因を強いてあげるならば、「需要が旺盛すぎて、システム構築の要員不足になる」(エス・エス・ジェイの佐藤祐次社長)という懸念だ。受注が多過ぎても外注先を含めた開発作業が追いつかず収益が低下するリスクはつきまとう。SAPジャパンのロバート・エンスリン社長がいうところの「労働人口が減り、ITを利用した自動化ニーズが高まる」という見方も一方にある。業務ソフト業界にとって今年は、将来の財源を一気に確保する重要な年になり、競争が激化しそうだ。

「金融商品取引法」の対象になる上場企業およびグループ会社に加え、協力会社が「内部統制」を強化すれば、ERPなどの需要は急速に拡大する。加えて、社会全体が「内部統制」機運で盛り上がり、中堅企業にシステムの「全体最適化」の波が訪れれば、業務ソフトは活況になる。
「金融商品取引法」が本格施行されるのは08年4月以降の会計年度で、「内部統制」の対応をそれほど急がない企業が続出すれば、07年後半まで案件発生件数が一気には伸びない可能性がある。また、産業によって、内外要因で景気が後退し、IT投資が鈍れば、基幹系システムへ向ける予算が減る懸念もある。
最大の心配事は、需要が拡大し過ぎて、ただでさえ少ないシステム構築を担当するIT人材が不足することだ。すでに、複数の中堅企業向けERPを提供するベンダーでは、選定の段階で受注確率の低い案件について、自ら辞退するケースが出ている。

●日本オラクルは6月、買収したピープルソフト、シーベル、JDエドワーズの製品を本格展開するチャネル体制などを整備した。
●インフォベックが、コンソーシアム方式で開発した国産ERP「GRANDIT」が導入100社を突破。モジュール販売開始から1年7か月で達成。
●マイクロソフトは9月、日本市場で初の業務アプリケーションとなる「Dynamics」製品の展開を開始した。9月にCRM、07年4月にERPが登場予定。
●国産業務ソフト同士の接続性を強化するコンソーシアムとして「MIJSコンソーシアム」(8月)と「CONTROL2006」(10月)が立ち上がる。
●業務ソフトのマイクロソフト陣営は、「Vista」登場により、次世代製品の開発に着手。