ソフトウェア開発を主体とする開発系SIerの2007年、業界天気は「快晴」の様相だ。旺盛なIT投資で受注環境は良好だが、その一方で利益を生みだすためのビジネス環境は依然厳しい。主力のソフト開発のコスト削減が思うように進まず利益率が高まらないからだ。利益をどこで確保するのかが最大の関心事になっている。天気にたとえるなら日照り続きで“干ばつ”気味。実りあるビジネスモデルを確立できなければ、将来景気サイクルが下降線をたどり始めたときに耐えられなくなる。(安藤章司●取材/文)
快晴だが利益確保に課題
次の収益源を見つけ出せ
2007年は昨年に引き続きソフト開発の需要に供給が間に合わない状態が続く見通しだ。業界天気は「快晴」。
しかし、汎用的なソフト開発事業の営業利益率は5-6%が限界といわれ、晴れが続くわりには実りが少ない“干ばつ”のようだ。景気サイクルの谷間に入り需給バランスが崩れると、とたんに収益が悪化する。依然として脆い事業構造にあることに変わりはない。
2000年代に入ってから巨額不採算案件の発生に悩まされた大手SIerはこぞってプロジェクト管理に力を入れた。管理コストを増やしても「赤字を出すよりはマシ」(SIer幹部)。営業利益率も頭打ちだ。
製造工程(コーディング)を中国など海外へ出してコストを下げる動きも拡大している。だが「製造部分だけのコスト削減では、全体の利益率を大幅に高めるまでには至らない」(別のSIer経営者)のが実際のところ。要件定義や設計の上流工程、運用サービスなど付加価値の向上とセットにした取り組みが一層求められる年になる。
見積もりの出し方も変えていかなければならない。SE・プログラマの1か月の作業費を示す「人月」がベースでは、他社との価格競争で自ずと利益率が限られる。IT・サービスに必要な能力を体系化した「ITスキル標準」を導入してスキルを可視化すれば、高い技量を持つSE・プログラマは高い単価を提示できる仕組みづくりは進むが、抜本的な解決策とは言えない。
では、どうすべきか──。積算根拠を求める顧客がいる限り人月ベースの見積もりはなくなりそうにない。であるならば、人月で換算できないソフトプロダクトやオンデマンドサービスの比率を増やすしかない。「サービスモデルへ転換できるかが利益率向上のカギ」(アルゴ21の太田清史社長)、「営業利益率10%以上を目指すならオンデマンドサービスの拡大が不可欠」(TISの岡本晋社長)との指摘が相次ぐ。
同時に07年は、規模の拡大を目指す動きがより活発化する。好調なIT投資を背景に人材採用を拡大してM&Aも進める。利益率が一定だとしても売り上げが増えれば利益の絶対額は増える。より多くの顧客をつかんで業界内のシェアが高まれば、その後のサービス事業への移行がしやすくなるとの計算もあるようだ。
ソフトウェアのサービス化(SaaS)などオンデマンドサービスは、既存の業務パッケージソフトと同様に先行投資が伴う。このため一定の顧客数が確保できなければ収益を確保しにくい構造だ。ベースが月額料金であるため、巨額SI案件を受注して“一攫千金”を狙うわけにはいかない。
当面のソフト開発は、人材を確保しながら手堅くこなす。こうした仕事を通じて若い技術者を育て、次の収益の柱であるソフトプロダクトやオンデマンドサービスのビジネスモデルを構築する。この成否が将来のSIerの成長を大きく左右する。
住商情報システムは他社との差別化に結びつく“自社の強み”の引き出しに躍起だ。新しい商材になり得る芽を積極的に伸ばし、「象のように大きい体でも、ネズミのように走り回れる」(阿部康行社長)ようにきめ細かなサービスメニューの構築を急ぐ。日立ソフトウェアエンジニアリングは社内公募制度を拡充するなどして「新商材の創出やモノづくりへの意欲の引き出し」(小野功社長)に力を入れる。
景気は循環する。IT投資が拡大しつづける保証はどこにもない。ソフト開発の需要が減り、人が余れば維持コストが増えて利益が吹き飛ぶ恐れもある。“晴れ”が続く今こそ事業構造の転換を進め、雨季への備えを着実に進めるべきである。

ソフトウェア開発は需要が供給を上回る。需給バランスが均衡するには、あと1─2年かかるとの見方も出てきている。不採算案件を防ぐ管理体制の強化、生産性向上によるコスト削減がカギ。
サービス事業への転換が進む。技術力や開発力、企画力があるSIerは大きなビジネスチャンスになる。SaaSなどオンデマンドサービスは将来的にソフト開発を上回る収益が期待される。逆にサービス事業を立ち上げる体力や顧客基盤を持たない中小SIerは競争力を落とす可能性がある。
旺盛な需要でソフト開発の人手不足がより深刻化。受注の見送りや納期の長期化による売り上げ計上の先送りが増えることも予想される。人材確保のためのM&Aに拍車がかかり、中小ソフトハウスが大手ソフト開発ベンダーの“草刈り場”になることも。

●10月1日、旧伊藤忠テクノサイエンスがデータセンター事業を得意とする旧CRCソリューションズと経営統合。オンデマンドサービスの強化などを目指す。
●10月25日、日立情報システムズは強気の中期経営計画を発表。2010年度には今のおよそ1.7倍に相当する年商3000億円を視野に入れる。
●8月30日、日立ソフトウェアエンジニアリングがソフトウェアのサービス化(SaaS)モデルで急成長するセールスフォース・ドットコムと業務提携。SaaSビジネスに参入。
●10月2日、日本電子計算と日本証券代行は共同持株会社のJBISホールディングスを設立。異種融合による相乗効果を狙う。
●7月26日、地方銀行などの債権管理システムで実績のあるアイティフォーが自治体向け債権管理に強いシンクをグループ化。官民需の両方の取り込みを図る。