マイクロソフト(ダレン・ヒューストン社長)は、6月に日本市場へ初投入するERP(統合基幹業務システム)「Microsoft Dynamics(ダイナミクス)AX」日本語版のパートナー施策を明らかにした。他の同社製品と異なるAX特化の取引契約制度に基づきパートナーを募集する。取引契約するには、同社指定のトレーニングを受けて試験に合格した有資格者を在籍させることが条件。これまで、他社ERPの導入実績があったり、手組み(スクラッチ)でソフト開発するSIer、自社製品を組み合わせてソリューション提供できるISV(独立系ソフトウェアベンダー)などを開拓する。同社の参入により中堅ERP市場の競争は激化しそうだ。
“手組みベンダー”獲得へ
「Dynamics AX」の販売形態は、既存のマイクロソフト製品と異なる「商流」になる。通常、製品販売をするSIerなどは、ディストリビュータを介して製品の提供を受け、ユーザー企業へ導入する。だがAXについては、マイクロソフトから直接、パートナーへ製品を提供する形態をとる。パートナーになるには、「SPA(ソリューション・プロバイダ・アグリーメント)」と呼ぶ取引契約を結ぶことが条件となる。
AXの技術面に関する4種類(会計管理、サプライチェーン管理、取引・物流管理、開発)の資格と、SQLサーバーを含めた計5種類の有資格者を配置し、契約を結べば、SPAパートナーとして販売活動ができる。SPAは、世界を欧州、北米・中南米、アジア・パシフィック、中国、日本の5地域に分け、パートナーが販売展開する地域ごとに契約する。仮に、日本企業の欧州子会社へAXを販売する場合は、欧州のSPAを結ぶ必要がある。
SPAパートナーに対して同社が直接取引を行うことにより、パートナーの販売と導入を身近に支援することが可能となり、販売実績に応じてその効果はより大きくなるという。
4月からは順次、5種類の資格を獲得するためのトレーニングを開始した。製品の概要を説明する「イントロダクション」(1日間)を皮切りに、「開発」「会計管理」「取引と物流管理」の各3日間コースをNRIラーニングから提供する。AXの取り扱いを検討中のSIerなどには、イントロダクションだけのコースを5-6月に実施する。
また、同社が昨年9月に発売したCRM(顧客情報管理)「Microsoft Dynamics CRM」とAXのDynamics製品を対象にしたパートナー向けの新サポート制度2種類の提供を予定している。すでに海外で展開されているこのサポート制度は、ベーシックなものが米国参考価格で年間30-40万円で販売されている。通常の同社製品に関する技術的な問い合わせ価格は、1件7万円程度だが、Dynamics製品特化のサポート制度では、1件1万円程度で提供する計画。このほか、ユーザー企業向けの制度も用意する。中西智行・MBSソリューション推進部部長は「パートナーとユーザー企業には、個別にサポート・エンジニアが付く」と、基幹システムの製品だけに、既存製品に比べ、手厚いサポートを提供するという。
AX日本語版は、コア機能として販売・購買管理や在庫・倉庫管理、生産管理、CRM、人事管理などを搭載。日本固有の機能で、会社法などの法定要件を満たすための総勘定元帳や売掛・買掛管理など会計管理は、専門家や国内ベンダーなどの協力を受け、日本市場向けに新たに開発したものを実装した。
ターゲットとするのは、WAN環境で基幹システムを運用する年商50-500億円規模の中堅企業。また大企業の子会社や特定部門などに「Hub&Spoke」の導入を想定している。Office製品やEIP「SharePoint」などと連携でき、同社製品のユーザーインターフェース(UI)の使い勝手で利用できる。また、AXは、各国要件に対応した標準機能や、パートナーが開発する業種向け機能、顧客個別の機能など「階層構造」で構築されているため、他の層の機能に影響を与えることなく、1つの層をカスタマイズできる。
マイクロソフト、パートナー獲得へ
製品担当者である國持重隆・AXプロダクトマネージャは「AXはカスタマイズを加えても、次のバージョンアップに耐えられるつくりになっている」と説明する。ユーザー企業の多くは、ERPのカスタマイズ部分のバージョンアップ時に乗り換えを考えるといわれるが、こうした心配が少なく、パートナーは時間をかけて長期的に顧客企業のシステムを拡張することができる。
このため、他社ERPの販売を手がけていたり、手組みでソフト開発するSIerなどに対し、こうした機能上のメリットを訴求することで、数十社のパートナーの獲得を狙う。
米国におけるAXの価格は、10ライセンスと追加オプション、バージョンアップ保証料金(ライセンスの16%)を加え、約700万円程度。国内ではすでに、先行事例やAXへ自社製品を組み込んだソリューションを開発したSIerがある(11面参照)。これまでERPを担ぎ、バージョンアップ時の不安を抱いていたり、同社製品の導入P実績のあるSIerにとっては、新たな収益源として重宝しそうだ。
とはいえ、国内中堅ERP市場は、国内外のベンダーが乱立し、熾烈な競争を繰り広げている。マイクロソフトが他社ERPとの違いを鮮明に打ち出し、新たな市場を切り開くかどうかがカギを握る。