サーバーやストレージの仮想化は本格的な普及期に入ろうとしている。仮想化の技術論を展開する段階はすでに終ったとの見方が主流だ。ユーザーのなかには仮想化による成功事例も出始めている。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)など仮想化に積極的なメーカーの一部は、標準で仮想化に対応した製品を出しており、販売パートナーであるSIerにとっても売りやすい環境が整いつつある。世界で新規に出荷されるサーバーのうち、仮想化ソフトを搭載している比率は数%にとどまっており、今後の成長余地は十分にある。(安藤章司●取材/文)
技術を論じる段階は終わった
メーカーが公式に対応 サーバー統合による管理・運用の効率化のメリットをいち早く見いだすユーザーが相次いでいる。企業が成長すれば提供する商品やサービスの数が増え、これを支えるサーバーの台数も必然的に増える。これに加え、再編やM&Aによって合併すればサーバーの数はさらに多くなる。あっという間にサーバーが数百台に膨れ上がることも珍しくない。
ハードウェアはすでにコモディティ(日用品)化しており、以前に比べれば格段に安い投資額で、比較にならないほど高い処理能力をもったサーバーが何台でも手に入る。ハードの高性能化と価格の差が開くトレンドは今後も続く。仮想化は管理・運用に関する解決策の決定打として位置づけられている。
ストレージでも同じことが起きている。たとえば、日本HPのミッドレンジストレージ製品「HP StorageWorks Enterprise Virtual Array=EVA)」では、独自の仮想化技術を実装し、物理的なハードディスクと論理的(=仮想)なハードディスクを分けて管理することて、従来型のストレージではできなかった柔軟な運用を実現している。
サーバーとストレージの双方が仮想化に対応したことで、販売パートナーであるSIerが安心して販売できる環境が整ってきた。常に顧客と向き合うSIerは、顧客の情報システムに直接的な責任を負う。トラブルはどうしても避けたいところだ。仮想化が技術的に有用と分かっていても、サーバーやストレージのメーカーが公式に対応を表明していない段階では顧客に勧めにくかったが、「状況は大きく変わった」(大手SIer幹部)という。
仮想化技術によって情報システム部門の作業負担は劇的に改善する。アプリケーションの負荷の度合いに合わせて、ハードのリソースを柔軟に割り当てることが可能になり、ハードを物理的に入れ替える必要はない。手元のコントロールパネルでハードのリソースの割り振りの指示を出すだけで、あとは仮想化ソフトが自動的に作業を行う。
ストレージの仮想化進む
ある金融業のユーザーは、グループ会社3社が合併。これまではクレジットやリースといったサービスごとに個別にシステムを構築してきたが、それぞれの商品やサービスにシステムや業務が強く結びついており、気がつくとサーバーが250台にも達していた。それぞれのOSのバージョンもバラバラで、こうした多数のサーバーの管理が問題となっていた。
また、サーバーの老朽化や負荷の偏りといった課題もあった。ハードやソフトの保守を受けられなくなるサーバーが出てきつつあり、老朽化対策も求められていた。あるサーバーがほとんど遊んでいる一方で、別のサーバーは目一杯に利用されているなど、負荷のバランスが悪いという問題もあった。
以前ならば、1つ1つのサービスごとにサーバーを設置せざるを得なかった。だが、仮想化技術を使えば複数のサービスを1台のサーバーに収容することが可能になる。これによりサーバーを集約し、運用管理やコスト削減を図ることができた。同時に日本HPのSAN(ストレージエリアネットワーク)ストレージとしてEVAを導入し、ストレージの集約も実現した。
EVAはバックアップの高速化に加えて、運用監視と結果把握を容易にする効果を生み、人的リソースの最適配分が実現している。各サーバーの状況が一元管理できるようになり、人員をより生産的なフィールドにアサインし、人材配置の最適化を行える。
拡張性でも革新的だ。従来は、ディスクを増設する時にシステムそのものを再構築するほど手間がかかった。しかし、EVAでは簡単にオンラインでの増設が可能。休日や週末にシステムを停止させることなく、夜間の作業で完了できるほど手間が軽減されている。
第3世代ブレードも登場 仮想化に積極的な日本HPでは、VMwareなどの仮想化技術に標準で対応した第3世代ブレードサーバー「HP Blade System c-Class=c-Class)」の国内出荷を開始。先のストレージ製品EVAとの相性もよい。“c-Class+EVA+VMware”の一連の動作がメーカーによって保証されたことにより、SIerの販売意欲が急速に高まっている。SIerの一部には自社が提供するオンデマンドサービスのエンジン部分にVMwareを採用する動きもある。
また、ユーザーの用途も広がっている。これまでは分散したサーバーを統合する用途が中心だったが、バックアップや電力の節減、サーバーリソースの有効活用、シンクライアント用のバックエンドシステムに至るまで幅広い需要が出てきている。
仮想化システムを積極的に販売するSIer幹部は、「近い将来、仮想化していないシステムのほうが珍しくなる」と、需要拡大に手応えを感じている。ある調査によれば、世界で出荷されるサーバーのうち、仮想化ソフトを搭載している比率は数%にすぎない。だが、管理・運用を効率化できるメリットの認識がユーザーに広がり、かつSIerなどによる販売体制が急速に整っていることから3年後の2010年には40%まで拡大するという予測もある。
すでに多数のベンダーが仮想化ソフトの開発を表明しており、メーカーも仮想化対応の製品を増やしている。仮想化の技術論を展開するだけの黎明期は終わりを告げ、有力ベンダーによるシェア争いを伴った本格普及期に突入する様相である。