中堅・中小企業をターゲットとする業務ソフトウェアベンダー市場は、マイクロソフトが今秋リリース予定の次期サーバーOS「Longhorn(開発名)」で、潮目が変わりそうだ。予想に反して新OS「Vista」がビジネス市場で立ち上がらないものの、それまでにIT業界のVista対応が一巡し、同時にLonghornを機に急転し、“特需”を見込めそうだからである。5月7日に開催したBCN主催の「業務ソフト座談会」で国産ベンダー5社は、ここに向けた「次世代製品」を年内にもリリースすることを明らかにした。これに加え、コンサルティングを含めた上流工程の充実やパートナー戦略を強化していくことで意見が一致していた。
・前編から読む
Longhornの次にSaaSの波
上流のパートナー獲得が重要
■Vista、IT業界の足並み揃わず
司会 さて、OBCの和田社長が指摘されていた次の需要として期待されるマイクロソフトの新プラットフォームに関する議論へ移ります。まずは、ビジネス市場でVistaの需要がどう展開していくのか分析してください。
OSK・宇佐美 Vistaに関しては、さまざまな作業を、かなり以前から実施していますので、思いっきり期待しているのですが、「だけど…」という状況。やはり、プリンタドライバメーカーなどが足並みを揃えて対応しなければ、一気には進みません。ユーザー企業のなかでよく状況を把握している情報システム担当者は、既存システムをVista環境に変えることに慎重です。ビジネス市場にVistaが浸透していないとの報道がありますが、致し方ないと思います。
予想以上に立ち上がりが遅く、早く立ち上がってほしいと願っています。「パソコンを新しくしましょう」と提案するだけで、ソフトやネットワークを新たに導入するうえでもトリガーになりますので。
弥生・相馬 量販店市場は、Vistaの登場で潮目が変わると予測していましたが、現時点では「新潮流はなかった」と思います。逆に、変な時期に新OSが出て、開発側で苦労しましたので、このあたりを開発側から説明してもらいます。
弥生・竹之内 Vistaを「弥生シリーズ」で対応し、期待もしています。ただ、Vista対応に工数がかかり苦労した分、販売本数が伸びたかというと、期待したほどではないというのが正直なところです。
OBC・和田 VistaはパソコンOSですので、「64ビット時代」に向けた展開が一歩進んだことは確かです。しかし、OSだけが新しくなっても、そのほかの環境が整うまで足踏みが続いています。64ビット対応のLonghornが出て、相互作用が起きるタイミングでマーケットは急転すると見ています。
一方、最近注目が集まるSaaS(Software as a Service)型のシステム提供が、大容量高速回線や64ビットが整備された先にちらつき始めると考えています。
PCA・水谷 Vista対応には、2つのレベルがあります。現在は「Vistaで動く」レベルで、そのほかの諸機能に対応した製品はありません。前OS「Windows XP」は、パラメータを設定することで、その前のOSと互換性がとれました。Vistaはそれがありません。ビジネス環境として、PDFなど、すべてのアプリケーションがVistaに対応しなければならないでしょう。
そうした面があるため、「Service Pack1」が出て解消されるまで、Vista市場は伸びないと考えています。
応研・原田 Vista対応版を今年初めに出しましたが、各社と同じで、マーケットの反応はイマイチでした。むしろ、Longhorn対応を急いでいます。VistaとLonghonなどを含め、トータルに次世代版を訴求できると見ています。
司会 Vistaの閉塞感に比べ、Longhornへの期待は大きいようです。今年中にもリリース予定のLonghornに向けた各社の戦略を披露してください。
PCA・水谷 中小企業にとっては、あまりメリットがないかもしれません。Longhornの優れた機能の1つには「バーチャライゼーション(仮想環境で動かす目的で改変を加えたOSを対象にした仮想化方式)」があります。バーチャライゼーションを実現するには、2重化されたハードウェアを購入する必要がありますので、中小企業への導入に向きません。そのため、24時間365日間、システムを安定稼働させることを強く求める企業に利用が限定されそうです。
パッケージ型からサービス型、あるいはSaaS型といった提供形式へ、なだらかに変化してくる過程で、Longhornのような考え方が必須になるでしょう。Longhornがリリースされ、爆発的に需要が伸びるわけではなさそうです。
OBC・和田 当社では今秋にも、Longhornのリリースを機に64ビット化された「次世代製品」をスタートさせます。そのなかで、販売パートナーや開発パートナーに加え、コンサルティングパートナーやITコーディネータ、ERPベンダーやその販社との協業、各種ソリューションとの連携、インフラ強化など、“衣替え”をしていきます。
従来の当社製品で十分対応できると考えている中小企業の顧客に対しては、SaaS型など新しい仕組みで安心して利用できる環境を提供します。企業規模別のニーズに応じた展開をしていきます。
応研・原田 以前は、中小企業1社に1台というシステム環境でした。利用環境が1人1台へと急速に進展するなかで、当社業務ソフトも売り上げを伸ばしてきました。このように拡張されたシステム環境のなかで利用するために、Longhornの位置づけは大きい。スタンドアローンではなく、システム全体として捉えられる時代ですので、Longhornがその中核へと世代交代してきます。現在、そこに向けた「次世代製品」を開発中で、年内に発売予定です。
OSK・宇佐美 Longhorn対応の「次世代製品」開発をだいぶ前から進め、現在フレームワーク開発に移行しています。ただ、当面のターゲットはVistaに当てているところです。昨年は、OS改定などでプラットフォーム対応に苦労しました。本来、ユーザー企業が喜ぶ機能開発を優先すべきですが、OS改定に工数をとられていました。
昔のように、「OSインディペンデント」な開発を志向しながらも、Longhornを意識した「ものづくり」をするうえで、どう折り合いをつけるかを試行錯誤しています。当社の「Smileシリーズ」は、10年来のC/S型と完全ウェブ型の2系統があります。これを1本化するのがLonghornのタイミングになります。
ただ、サーバー管理者が以前に比べてシステム変更に慎重になっていますので、Longhorn効果が期待できるのは来年でしょう。
[次のページ]