ロシア最大手のセキュリティソフトメーカー、カスペルスキー研究所の創業者であるユージン・カスペルスキー氏が来日した。旧ソビエト連邦の情報機関「KGB」で暗号解析業務に携わっていた世界的ウイルス対策ソフト開発者は、情報セキュリティの最新動向をどう捉え、メーカーはどうあるべきとみているか。単独インタビューを行った。
ウイルスの増殖は止まらない 検知率と更新頻度が対策の決め手
ユージン・カスペルスキー氏インタビュー
Kaspersky Lab Head of R&D
--カスペルスキー製ソフトは、「高品質・高性能」のイメージが世界的に定着した。創業者として設立以来、開発部門を指揮するが、こだわる点は何か。 「不正プログラムの検知率と定義ファイル更新頻度の高さ。不正プログラムの発生からいかに早く、確実に検知・駆除する体制を提供できるかが、当たり前だがもっとも重要だ」
--品質の高さはどのメーカーもアピールしている。カスペルスキーは何が違うか。 「どこもアピールしているかもしれないが、検知率と更新頻度を常に高く維持しているメーカーがいったい何社あるか。けっして多くない。昨年に検知した不正プログラム数は、一昨年に比べて2.5倍だ。今後も同様に増え続けるだろう。そうなると、『発見、解析、定義ファイル作成、配布』という一連の作業を迅速に進めることがますます難しくなる。カスペルスキーは発見から配布までのプロセスを自動化している。ウイルス解析者の半分を自動化システムの開発に専念させているほど力を注いでいる。その一方で自動化できない領域を強くするために、ウイルス解析のエキスパートを育成し続けている。この体制・仕組みを持つ企業はそうは存在しない。約40社ほどあるウイルス対策ソフトメーカーのうち、この体制があるのは5社ほどだろう。今後、メーカーにとってハードルはもっと高くなり、淘汰は確実に進む」
--不正プログラムは増え続けるだけなのか。今後の技術動向をどう予測するか。 「インターネット上のサービスはまだ発展途上。新しいサービスがどんどん生まれていくだろう。それにあわせて新しい攻撃手法や不正アクセスの技術が登場する。技術動向を探っているが、予測よりも重要なのは発生した瞬間、または発生する前に不穏な動きを検知して、いち早く対応する仕組みだ」
--ネットに接続できる機器が増えた。PC以外のデバイスに対する攻撃については。 「確実に増える。直近で注意する必要があるのがスマートフォンだ。スマートフォンはそのうち、PC並みの機能を持ち普及が進むはずだ。そうなると、ウイルス作成者の標的になる。今、スマートフォンを狙ったウイルスが少ないのは、ウイルス作成者の数が多いブラジル、ロシア、中国でスマートフォンが普及していないからだ。普及が進めば自ずとウイルスも増える」
--日本はどうか。 「日本発のウイルスはほとんどない。また、サイバー犯罪も日本は他国に比べて圧倒的に少ない安全な国だ。ただ、ウイルス作成者が少ないから安全とも言い切れなく、注意しなくも大丈夫というわけではない」
--旧ソビエト連邦の情報機関「KGB」で暗号解析業務を担当した経験があるそうだが。 「暗号解析に興味を持つ大きなきっかけになった」
--今は経営の第一線から退いている。自身のキャリアプランをどう描いているか。 「最先端の技術を追いながら、優秀なウイルス解析者を育成していきたい。また、開発だけでなく世界で情報セキュリティに関する情報提供や普及・啓蒙活動にも動きたい。情報セキュリティには一生携わっていくつもりだ」
木村剛士●取材/文
大星直輝●写真