インド系主要SIerの勢力が増大している。年率30-40%増の勢いで売り上げを伸ばしており、2010年にはグローバルで1兆円規模に拡大する可能性も出てきた。日本最大手のNTTデータと肩を並べるインド系SIerが2-3社でてきても不思議ではない状況にある。危機感を抱いた米IBMはインド拠点の機能拡充に力を入れており、パワーの源泉ともいえる優秀な人材の取り込みに力を入れる。一方、日本のSIerを見渡せばインド系SIerの台頭に危機感を抱く様子は希薄で、対応が後手にまわっている印象が拭えない。
軒並み40%台の成長率
1兆円規模の企業誕生も
昨年度(07年3月期)のインド系SIerの連結売上高は、最大手のタタコンサルタンシーサービシズが前年度比41%増の43億ドル(約5160億円)、ウィプロ・テクノロジーズが同41%増の35億ドル、インフォシステクノロジーズが同44%増の31億ドルと続く。軒並み40%余りの高い伸び率を示しており、「今後2-3年はこの勢いが続く」(インド系SIer幹部)と強気の見通しを立てる。
これに危機感を抱いたのが米IBM。生産性や価格競争力などで自らの優位性を確保できなくなる恐れが出てきたためだ。05年末の時点でIBMのインドでの従業員数は約3万8000人だったが、06年末までに一気に約5万3000人にまで増やした。今年は6万人を超える勢い。すでにインドトップグループの一角を占めるサティヤムコンピュータサービスの従業員数を超え、ウィプロやインフォシスのグローバルでの従業員数に迫っている。
一方、日本のSIerのなかでインド系SIerの台頭に危機感を抱くのは少数派だ。オフショア開発には取り組んできたものの、距離的に近い中国での開発拠点の開設や地元SIerとの連携を図るパターンが多い。インドへの発注は、「英語の壁や開発手法の違いで発注しにくい」(日本のSIer幹部)と抵抗感があるのが実情である。インド系SIerが中国系SIerを上回る勢いで伸びていることを考えれば、将来の潜在的パートナーと手を組むチャンスを逸している可能性は否定できない。
米国市場への依存度が高いインド系SIerは、新たな市場を求めて、欧州進出に力を入れる。この先のターゲットとして14兆円ともいわれる日本市場に資本を投下することは十分に考えられる。日本のSIerをM&Aすることも想定されるが、インド系SIerが欲しているのは設計工程を担える上級SEとユーザー企業とのコネクションだ。日本のSIerが持つ「技術やプログラマに興味はない」(インド系SIerの別の幹部)と厳しい声も聞こえてくる。
一気にM&Aまでいかなくても、上流SEの混成チームをつくり、「共同で受注する」(サティヤムコンピュータサービスの安藤典久・日本支社長)などを積極化する動きはすでに出始めている。SAPやオラクルなど大手ERP(統合基幹業務システム)ベンダーのパッケージソフト製品をベースとしたSIでは、「グローバルでの豊富な構築経験を存分に発揮できる」(タタコンサルタンシーサービシズジャパンの梶正彦社長)と強みを訴える。
インド系SIer幹部は“日本のSIerの下請けにはならない”と口を揃える。日本流の設計方式に馴染めない開発に入り、過去に痛い目に遭っているからだ。今後は米国での成功やソフト開発の生産性の高さを日本のユーザー企業に直接訴求する頻度が増えていくことは間違いない。
一部の日本グローバル企業は、インド系SIerの価値を認識しつつある。日本のSIerはこうしたインド系トップSIerグループといかに連携し、双方にメリットのあるビジネスモデルを組み上げていけるかが重要な経営課題になってくるだろう。
インド系SIer 日本の世界展開企業を狙う
インド系SIerの強みはグローバル規模でシステマチックに開発するソフトウェアエンジニアリング力にある。上流の要件定義を明確にし、設計書どおりに開発を進める米国流のソフト開発の手法にうまくマッチし、コーディングを主にインドで行うことで競争力を高めてきた。米IBMやアクセンチュアなど大手SIerもインド拠点の人員を大幅に拡充して同方式を積極的にとり入れる。
しかし、日本ではこの方式が十分に機能しているとはいえない。緻密な設計を行い、CMMIなどのソフトウェアエンジニアリングの手法に準拠して効率よく開発するインド系SIerと、まずは価格と納期を決めて詳細は開発しながら決めていく“日本的な開発手法”とは相容れないからである。大手のタタコンサルタンシーサービシズ、インフォシステクノロジーズでさえ、日本ではようやく年商100億円が視野に入ってきた段階だ。日本語の壁もある。
こうした状況のなかで、インド系SIerは製造業などグローバルに展開する日本企業に照準を当てる。日本のSIerで国際的なサービス体制を持っているのはごくわずか。最大手のNTTデータですらグローバル進出はこれからの課題だ。一方、グローバル展開するユーザーは世界のどこでも安価で良質なITサービスが受けられることを求めている。インド系SIerは、海外進出する日系企業を狙うことで、まずは〝外堀から埋める戦略〟を展開する構えだ。
インド系SIer大手のウィプロ・テクノロジーズで国内と中国の両方の代表を務めるアリイ・ヒロシ社長は、「中国など日本の製造業が工場開設などで多く進出しているエリアを強化する」とグローバル展開する製造業をターゲットのひとつに位置づける。
もともと組み込みソフトの開発などで実績のある同社は、製造業を中心とするユーザーを意識して中国での開発センターの拡充に乗り出す。
また、大手企業になるほどSAPやOracleといった世界標準のERPを使うケースが多い。こうしたメジャーな製品をベースとしたSIは、この分野に精通したSEを多く抱えるインド系SIerの強みを発揮しやすい。
国際的な価格競争にさらされるグローバル企業であればあるほど、ユーザーはITの投資対効果に神経質になる。ライバル企業がインド系SIerを活用してコストを下げれば、追随現象が起きる可能性もある。日本のSIerは台頭するインド勢との連携を強化するか、あるいは彼らに対抗し得るグローバルサービス体制の強化、生産性の向上が強く求められている。