パソコンか、それともシンクライアントか──メーカー各社による法人向けの主力クライアントに明確な相違が出始めている。法規制でセキュリティ面からシンクライアント需要が今年度は伸びるとの見方もあれば、シンクライアントとクライアントの両輪で攻める戦略、現段階ではパソコンニーズのほうが上回るとの予想もある。法人向けパソコン市場が厳しい状況であることが原因だが、各社の主力製品が異なれば、法人向けクライアント市場でのシェアが大きく塗り変わる可能性も出てくる。
シェア拡大の成否を分ける可能性も
シンクライアントの販売に力を注ぐのは日立製作所。「セキュリティの点で需要が確実に増える」(五十嵐肇・クライアント本部ビジネス統括部長代理)との判断から、シンクライアントを戦略製品に据える。「パソコン市場が成熟し、しかも売価下落の傾向にある」とも認識する。同社は、法人向けパソコンを日本ヒューレット・パッカード(日本HP)から調達することを今年3月に発表。一方、シンクライアントのユーザー企業は今年7月の時点で200社に達し好調だ。シンクライアント市場で主導権を握ることにより、クライアント事業の収益を確保する方針。
シンクライアントとパソコンの両輪でクライアント需要を取り込んでいくのはNECと富士通の2社。NECでは、「まずは、シンクライアントを含めた仮想化ソリューションやアウトソーシングサービスなどを提案する。ユーザー企業が首を縦に振らなければパソコンを提案する」(平智徳・マーケティング本部マネージャー)と、“二段構え”で展開していく。新規顧客の開拓が狙いで、「どんなニーズにも対応できる製品やサービスを確立していることをユーザー企業に認識させる」。豊富なラインアップをアピールするというわけだ。
富士通も、「ニーズに応じてシンクライアントの提案か、パソコンを提供するかを判断する」(平野和敏・クライアントPCグループESPRIMO/LIFEBOOK/周辺機器商品化プロジェクト課長)とする。パソコン販売がメインだが、厳しい状況を打破するためにシンクライアントを販売。「文教市場についてはシンクライアントソリューションに関心が高い」というニーズをつかんだようだ。
一方、パソコンの拡販を継続するのはデルや日本HPなど海外メーカーである。「シンクライアントは、まだ時期尚早」と共通した見解を持つ。
デルは、新ブランドとして「Vostro(ボストロ)」を立ち上げ、SMB(中堅・中小企業)ユーザーの獲得を推進。中核事業の1つに育てあげるサービス事業の拡大にもつなげたい考えで、「SMBはシステムを含めたコンサルティングが必要」(中島耕一郎・クライアント製品マーケティング本部長)としている。国内パソコン市場でのシェアが低下気味だが、明確なブランド戦略を打ち出すことで「シェア奪回を図る」と鼻息が荒い。
日本HPも、「今年は徹底的にパソコンを販売していくことでマーケットシェアでトップ3を目指す」(平松進也・パーソナルシステムズ事業統括デスクトップビジネス本部長)としている。「国内メーカーが法人向けパソコンに行きづまりを感じているのではないか。今なら、シェアを奪える」とみているからだ。日立への製品供給で部材コストの削減も可能で、「パソコンで十分に利益を確保できる」状況。しかも、「将来的には仮想化ソリューションの提供」を視野に入れており、できるだけ多くユーザー企業を獲得するために、「まずはパソコンを導入させている」という。
ここにきて各社の戦略が異なってきたわけだが、果たして、どの戦略が成功するのか。それは、メーカーすべてがクライアント需要拡大の要因としてあげている日本版SOX法施行の来年4月に答えが出ているといえそうだ。