II SIer
ビジネスモデル急変
「サービスインテグレーション」波及
資本集約型へシフト進む
SaaS/ASP型サービスの本格的な普及が確かになり始め、従来のクライアント/サーバー型(C/S型)のシステムに限界がみえてきた。体力のある大手SIerを中心にIDCなど、サービスインフラへの投資を増やし、業務アプリケーションの「SaaS化」に備える動きが活発化。これまでの「システムインテグレーション」に加えて「サービスインテグレーション」が求められる時代がやってきた。(安藤章司)
「所有から利用へ」本格化
所有・運用する時代から利用する時代へ──。インターネットが普及した1990年代後半からASPの登場ととも提唱された考え方である。顧客先で個別に情報システムを構築し、納品する従来型の手法から、ネットワークを通じてソフトウェアをサービスとして利用する方式に変わることを指す。こうした手法が現在のSaaS/ASP型へと変遷、本格的に普及の段階に入りつつある。
今年4月、NTTデータが日本郵政公社の営業・マーケティング担当者約5200人にセールスフォース・ドットコムのSaaS型CRMの受注を発表した。同じ時期には、日立ソフトウェアエンジニアリングが三菱UFJ信託銀行にセールスフォースを納入すると公表した。大手SIerが大規模ユーザーとSaaS/ASP商談をまとめたことは業界に少なからずショックを与えた。

従来のASP方式ならば、あるアプリケーションが他のアプリケーションと有機的に結びつくケースは少なかった。SaaS/ASP型提供では、業界標準の通信方式・XMLウェブサービスなどを使った組み合わせが可能。導入した顧客がSaaS方式に満足すれば、他の業務アプリケーションも「この方式で利用しよう」と考える可能性が高い。
日立ソフトは、世の中で提供されるサービスを組み合わせて、さらに他社との差別化が可能な独自性あるサービスを提供する事業を「サービスインテグレーション」と位置づけて事業拡大を目指すという。
資力試される巨額の投資
サービスインテグレーションは、文字通り、複数のサービスを組み合わせ、ひとつのシステムを作りあげるビジネス。ここには部分的にせよシステム構築と同じ設計や開発が伴うケースが多いとみられ、「SIerがビジネスを行う余地は十分にある」(日立ソフトの梶原孝之・産業サービス本部長)と、SaaS/ASPが浸透してもインテグレーションビジネスは健在とみる。
ERP「ProActive(プロアクティブ)」を開発・販売する住商情報システムでは、「SaaS時代に適合した有力アプリケーションを早急に打ち立てる必要がある」(油谷泉・取締役常務執行役員技術グループ長)と捉える。
だが、独自のSaaS/ASP型アプリケーション提供には、もうひとつ壁がある。IDCやネットワークなど、サービス提供インフラの整備である。すでにIDCを保有するSIerはSaaS/ASPに対応するための改修を行わなければならず、持っていないSIerは賃借するなどの対策が必要となる。24時間休みなしで運用する体制も欠かせない。
IDCなど基盤技術に強みを持つ新日鉄ソリューションズは、サービス型データセンターの構築を急ぐ。昨年9月にはこれまで賃借していた第1データセンターを約50億円投じて買い取った。今年4月には、第4データセンターを新設。急ピッチで準備を進めている。北川三雄社長は、「これからのデータセンターはサービス型でなければならない」と、SaaS/ASPへの対応に意欲的だ。
仮想化、独自アプリがカギ
SaaS/ASPは、基本的に月額の従量課金制での契約であり、顧客専用のサーバーを固定的に設置しにくい。いつ契約を打ち切られるか分からない状態で、従来のハウジングやホスティングのようにサーバーを増やし続けていては、大きなリスクを抱え込むことになる。こうしたリスクを回避する方法として仮想化技術などの基盤技術が注目を集める。
利用頻度が増えれば割り当てるハードのソースを増やし、逆に減れば割当量も減らす。複数のハードウェアやデータセンターをまたいでバーチャルマシンを柔軟に運用することで、コスト削減を図るものだ。
サーバーやストレージなど、インフラ、システムのアーキテクチャ、可用性や拡張性など「すべての構成要素を見直す時期にきている」(新日鉄ソリューションズの北川社長)という指摘もあり、いち早くSaaS/ASP対応型へと体制を組み直したSIerが、いままで以上にビジネスチャンスをつかむことになりそうだ。(週刊BCN 2007年8月27日号掲載)