自社ミドルウェアをISV製品に組み込み検証して提供するパートナー戦略を展開する国内大手サーバーメーカーが、自社データセンターを利用したSaaS(Software as a Service)事業を本格展開する。富士通は年内に具体的な展開を発表する。日本IBMとNECも、10月以降にSaaSの事業化に着手する見通しだ。3社は、パートナー戦略で多くのISVを囲い込んでおり、既存の国内業務アプリケーションがSaaS型で提供される比率が、来年に向け一気に高まりそうだ。
自社制度の参加ISV製品を提供へ
NEC、オフコンディーラー巻き込む
富士通は、日本IBMとNECに先駆け、SaaS事業を開始することを公表した。群馬県館林市の同社データセンターに専用システムを構築。グループ内で開発した業務アプリケーションに加え、ISVプログラムに参加するベンダーやSIerなどにもSaaS基盤を貸し出す。
同データセンターには、企業専用イントラネット、次世代ネットワーク(NGN)などをワンストップで提供する「マルチメディア基盤」上に、既存技術で構築した管理機能などを備えた「SaaS基盤」を乗せ、各アプリケーションごとにWebAPIでつなぎ、業務アプリケーションを提供する仕組みを構築した。
グループSE子会社やISV、SIerなどがSaaS型でサービスする際に同基盤を貸し出すほか、中大規模の企業向けに場所をホスティング形式で貸し出し、SaaS型のアウトソーシングを行う。年内には、SaaS事業の全容を公表。伊井哲也・アウトソーシングサービス推進部部長は「従来の商流は変えない」と、グループ内外の販社を含めた販売戦略について詰めの作業を進める。
NECは、業務アプリケーションをSaaS型でどのように提供するかは未定だが、「今年度(2008年3月期)下期からSaaS事業に着手するために模索している」(山科俊治・クライアントサーバー販売推進本部長)という。
サーバー販売では、盤石な販売網を持つ同社だけに、「SaaSビジネスを手がけるに当たり、地方のオフコンディーラーとパートナーシップを深めたい」と、データセンターを保有する販社とアライアンスを強化する見通しだ。
一方、日本IBMは、SaaS市場の潜在性を高く評価し、「近く、国内で段階的にSaaS事業を開始することを公表する予定」(同社幹部)という。
すでに米IBMでは、パートナー制度「PartnerWorld」に参加するISVのなかでSaaS型に取り組む姿勢を打ち出すベンダーに対し、SOA(サービス指向アーキテクチャ)環境との連携を含めSaaS型業務アプリケーションをユーザーに提供するための支援策として「Software as a Service community」を始めている。日本IBMでは、米国のデータセンターを日本のISV用にホスティングで利用し、SaaS事業を順次開始することを計画しているようだ。
調査会社の矢野経済研究所が9月6日に発表した「CRM(顧客情報管理)/SFA(営業支援システム)ソリューションに関する調査」(国内CRMベンダー11社)によると、SaaS型のCRM規模は、05年の19億5600万円(エンドユーザー渡し価格)に比べて06年は165.1%増の32億30万円、07年は56億1200万円に拡大。08年には78億5000万円まで成長し、CRMライセンスに占めるSaaS型の割合が30%を超えると予測している。
富士通、NEC、日本IBMに加え、日本オラクルが買収したシーベルのCRMを8月からSaaS型で提供を開始した。9月20日には独SAPも中小企業向けERP(統合基幹業務システム)「A1S(コード名)」をSaaS型で提供することを公表。同社の中堅中小企業向けERP「SAP Business One」が海外リリースの半年後に日本へ輸入された経緯を考えると、来春には日本でも展開されそうだ。同時期には、KDDIとマイクロソフトが提携して提供するSaaSサービスが始まる。両社の具体的な方針は10月中にも発表される。
ここに登場するベンダーだけをみても、国内企業が利用する業務アプリケーションの多くを占める。国内SaaS市場は来年に向け一気に花開きそうである。