今年7月31日に文部科学省が発表した「教員のICT活用指導力に関する調査」において、茨城県は、調査対象となった5項目のすべてにおいて、全国第1位の成果を収めた。教員がICTを活用して授業や校務を行うことの度合いを測定する同調査において、これだけの高い成果を収めた背景には、マイクロソフトと連携した教員向けのスキル向上への取り組みが見逃せない。(大河原克行(ジャーナリスト)●取材/文)
マイクロソフトがスキル向上を支援
3か年の中期計画として取り組む

文部科学省が発表した「教員のICT活用指導力に関する調査」は、これまで毎年調査してきた「コンピュータで指導できる教員」に関する調査を見直し、より実態に則した形に進化。今回から新たに実施したものだ。
項目は「教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」「授業中にICTを活用して指導する能力」「児童・生徒のICT活用を指導する能力」「情報モラルなどを指導する能力」「校務にICTを活用する能力」と、細かな調査内容となっている。
茨城県は、この5項目すべてにおいて、全国1位となった。とくに、授業中にICTを活用して指導する能力では全国平均の52.6%に対して、茨城県は72.6%と20ポイントも高く、情報モラルなどを指導する能力でも全国平均62.7%に対して80.4%と、こちらも高い数値となっている。
サポートスタッフの質を向上
茨城県では、2001年度から茨城県IT戦略推進指針を策定するとともに、これを具体的に推進する施策として、茨城県IT戦略推進アクションプランに取り組んできた。同アクションプランでは、PCの整備や、教育庁や県立学校、図書館、美術館などを結んだ茨城県情報ネットワークの整備のほか、教員のICTスキルアップに対するプログラムの実施などが含まれ、毎年、見直しを行っている。
もともと茨城県では、05年度末までに全教員がコンピュータを利用して指導できることを目指し、ITサポートスタッフの派遣による研修体制を敷いていた。だが、「サポートスタッフのレベルにばらつきがあることや、教育が必要とされる地域、学校、教員に対して、的確な研修が行えているかという点で課題があった。そこで、マイクロソフトの協力を得ることで、05年度からは、操作できる教員を、指導できる教員へとスキルアップさせることに絞り込み、さらに06年度にはすべての教員がICTスキルを習得できることを目指した。
07年度はICTを活用した『わかる、できる授業』を目指しており、県教育委員会がリードした3年間の見通しを持った研修体制とした」(茨城県教育庁義務教育課の平井聡一郎指導主事)と語る。
茨城県は、05年6月、マイクロソフトおよびICT教育推進プログラム協議会との協業を発表。3年間にわたって延べ1800人の教職員を対象にした実践的なICTスキル向上研修を実施するほか、ブロードバンドスクール協会を通じた情報モラル基本講座の実施および啓発活動支援、教職員向けe─ラーニング教材を利用した著作権やウイルス対策基本講座の実施などを行うとした。
計画の2倍の受講者が集結
マイクロソフト公共インダストリー統括本部プログラム&マーケティング部アカデミックプログラムマネージャー・滝田裕三氏は、「他県との協業では、1年間だけの導入で終了している例が多いが、茨城県では3か年の中期計画として取り組み、さらに、それを確実に実行することに力を注いでいる。また、新たなプログラムを導入するなど、常にアンテナを立て、外部をうまく利用していることも他県にはない取り組み」と評価する。
3か年で1800人としていたICTスキル向上研修実施計画に対しては、3年間での研修直接受講者が4037人と、計画の2倍以上に達したほか、教材をダウンロードして自ら受講した間接受講者も3250人に達した。また、管理職を対象にした「校長教頭のICTのススメ」の受講者数も1831人になった。これらの受講実績は、他県に比べても、圧倒的に多い数となっており、マイクロソフトも予想だにしない結果だったという。

「情報ネットワークを活用することで、県および市町村との情報共有が推進されており、さらに、指導者やリーダーが各学校へ普及させるための伝達モデルを構築している点も、プログラムの効果的な実行につながった。今回の文部科学省の調査結果は、こうした同県の取り組みと、熱意の結果。マイクロソフト社内では、これを『茨城モデル』と称しており、今後、他県にも展開していきたい」と語る。
茨城県教育庁高校教育課・秋山久行副参事は、「今後も、ICT活用の工夫、研究によって、子供たちの学習活動の充実を図る。2010年度に向けては、児童・生徒のICT利活用能力の評価、校内研修の充実、生涯に応じたICT教育の充実などに取り組んでいく」と、さらなる施策の推進に意欲をみせている。(週刊BCN 2007年10月15日号掲載)