国土交通省がアジア地域におけるICカード乗車券システムの国際相互利用に乗り出した。ソニーが開発した「FeliCa(フェリカ)」がデファクトスタンダード(事実上の標準)となっていることに着目、各国のICカード乗車券の保有者が旅行先でも同じカードを利用できるようにする。同省は「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の重点施策に位置づけ、早ければ来年度中に実証実験を開始する考えだ。
国産ITをアジアのインフラに
フェリカは英語で「至福」を意味するFelicityとCardを組み合わせた造語。1988年にソニーの研究所が開発した宅配便小荷物の自動仕分け用ICタグが原型だったが、翌89年、ITを駆使した次世代の乗車券を模索していた鉄道総合技術研究所が注目した。CPUを内蔵し、通信速度211kbpsの非接触で読取装置に情報を伝送する。
非接触型ICカードにはCPUなしのタイプA、CPU内蔵の同Bの2つの国際規格があるが、フェリカはそのどちらでもない独自規格。このため当初は普及が不安視されたが、97年に香港交通局が同地域全域の地下鉄、バス、フェリーなどの共通乗車券として採用、「オクトパスカード」の名で発行を開始したのを皮切りに、シンガポール、中国(北京)、インド(ニューデリー)、韓国(ソウル)、タイなどで相次いで実用化された。
また日本では01年にJR東日本が「Suica(スイカ)」の名称でICカード型定期券として首都圏で発行、次いでJR西日本が03年に「ICOCA(イコカ)」を、04年には関西私鉄系IC乗車券「PiTaPa(ピタパ)」、さらに昨年は東京メトロなど共通カード「Pasmo(パスモ)」の発行と同時にSuicaとの相互利用が実現した。現在はSuica、ICOCA、PiTaPa、Pasmoの相互利用が可能となっている。
アジア地域におけるフェリカカードの発行枚数は、日本の2450万枚を筆頭に、ソウル2260万枚、香港1400万枚、シンガポール900万枚、北京450万枚、上海320万枚など約8000万枚が交通機関向け、クレジットカードなどその他が約1000万枚の計9000万枚に達している。また携帯電話内蔵の電子マネー用として約1000万個のフェリカチップが出荷され、アジア地域における非接触型ICカードのデファクトスタンダードとなっている。
こうしたことから国交省は9月13日、「IC乗車券等国際相互利用促進方策検討委員会」(委員長:淺野正一郎国立情報学研究所長)を立ち上げ、フェリカカードのIC乗車券の国際相互利用を具体化することを決めた。ICカード乗車券の保有者が海外を旅行したとき、同じカードで交通機関を利用できるようにする。
ICカードの仕様が同一のため相互利用に向けた技術的な課題は小さいが、内蔵チップに記録されるチャージ金や保有者の情報、乗降記録の交換など、バックヤードのシステムが重要になる。このため国交省は早ければ来年4月にも、シンガポールと上海でSuica/Pasmo相互乗り入れシステムを実験的に稼働させる準備を進めるとしている。
また、実用化には各国の交通機関や情報システム運用会社の連携が欠かせないことから、委員会に専門委員としてJR東西日本、日本民営鉄道協会、日本バス協会、日本旅行業協会などを加えた。IT関連企業ではソニー、東芝、日立製作所、富士通、NECなどが参加している。
「当面は実証実験だが、ビジット・ジャパン・キャンペーンにとって重要な施策となる。また、ファリカカードとSuica/Pasmo相互乗り入れシステムを組み合わせた社会システムとして、アジア諸国に日本のITを輸出することにつながる可能性がある」(松島みどり国交省副大臣)としている。
経済産業省も日本の鉄道交通管理システムや環境監視システムなどを社会公共インフラの共通基盤としてアジアに輸出する「メイド・イン・ジャパン」構想を計画したことがある。結果として同構想が形を変えて実現することになりそうだ。