その他
IT技術者に免許制 求められる「資格制度の抜本改革」
2007/10/22 14:53
週刊BCN 2007年10月22日vol.1208掲載
「情報処理技術者資格に免許制の導入を検討すべき段階ではないか」──10月1日、東京・六本木のホテルで行われた2007年情報化月間記念シンポジウムのパネルディスカッションで、パネラーからこんな発言が飛び出した。企業経営にかかわるITコンサルタントや、システム設計の上流工程を担うシステムアナリストが対象で、米欧ではすでに一部に免許制が適用されている。規制の強化につながるとの異論もあるが、IT産業の価値創出には必要なことなのかもしれない。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)
技能評価から価値評価へ パネルディスカッションのテーマは「高度IT技術者の育成策」。免許制の検討が提唱されたのは、技術者育成策として一般的に行われている講座型の教育とOJT(On the Job Training)による知識習得から、OJL(On the Job Learning)に転換すべきではないか、という議論が発端だった。 ソフト開発業界でOJTは広く採用されている技術者教育法だが、その実態は「何の教育も受けていない素人を現場に放り込む」という意味に近い。現場で経験を積んでいくうちにプログラミング技術を習得し、3年もすれば名刺に「システムエンジニア」の肩書きがつく。 OJLは、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルをベースに個々の技術者に目標を設定し、実践の場で得た知識や技術、ノウハウの整理、次に何をなすべきかを明確にする育成方法だ。しかし、それは従来のOJTの欠点を補うに過ぎず、いつまで経ってもIT技術者の社会的価値は向上しない。他産業では免許制の国家資格が技術者の価値を裏づけているではないか。■IT分野のMBA講座 実際、米国ではIT産業団体であるACM(the Association for Computing Machinery)がIT技術者を5段階で評価、その資格を持っていないとシステム開発に従事できないようになっている。欧州でもEU(欧州連合)で通用する公的資格の創設が提唱され、一部はすでに免許制に移行している。企業の中枢にITが浸透したため、システムコンサルタントやシステムアナリストの重みが格段に増しているためだ。 そんな事情を背景にして提唱されているのがMBA(Master of Business Administration:経営管理学修士)資格との融合だ。日本でIT分野に照準を絞ったMBA講座を開設しているのは神戸情報大学院大学だけで、慶応義塾大学大学院が来年4月からの開講を予定しているにとどまっている。 公的な教育機関は比較的冷淡な対応だが、半面、水面下で民間の取り組みが活発になり始めた。2003年に旧日本興業銀行からスピンオフし、国際的な事業展開を目指した経営コンサルティングを行っているIBJは、「社会人教育のなかで、国際社会に通用する高度IT人材の育成と資格認定が喫緊の課題」(松田裕視代表)と指摘する。 「金融、証券、商社などITなしで国際展開ができない業種における情報システムは、企業戦略そのもの。それを担うIT技術者の資格が単なる技能検定というのでは、ユーザーが納得しない」という論には納得性がある。■コンピュータ専門学校も コンピュータ専門学校でも、社会人を対象にMBA資格に直結する講座の開設を目指す動きがある。一つには少子化対策というねらいがあるが、「これまでのプログラミング技術の教育では、新しい時代に対応できず、社会的な役割を果たせなくなる」(HALコンピュータ学園)という危機感が、MBAとの融合を指向させている。 IT要員の技能レベルを裏付ける公的な評価としては、情報処理推進機構(IPA)の情報処理技術者資格試験がある。69年に告示された「情報処理技術者認定規則」に基づいて、同年11月にプログラマ試験が実施されたのが始まりだった。以後、上級プログラマ、システムエンジニアなどの試験が追加され、何回かの改定を経て現在は14の職種について資格認定が行われている。 情報処理技術者試験は技術者の知識を評価するもので、実践的な経験値は対象になっていない。そこで、02年に創設されたのがITスキル標準(ITSS)である。IT関連企業における技術者のキャリアパスとして活用する一方、ユーザー企業が技術者の技能を評価する“目安”として設定された。運営はNPO法人ITSSユーザー協会だ。 その発展形としてエンベデッド・システム向けのETSS(組込みスキル標準)、ユーザーの立場でのUTSS(ユーザースキル標準)が個別に設定され、国が認定する情報処理技術者試験との整合性が問われている。経済産業省は来年にもITSS、ETSS、UTSSを一本化した「新スキル標準」を策定し、情報処理技術者試験を新スキル標準に準拠する案を示しているが、認定資格の枠組みそのものを改革するわけではない。 IT技術者資格を免許制にするには、ユーザーが納得できるMBAや公認会計士のような裏づけが欠かせない。当面は民間主導で進むことになりそうだが、気がついたときそれが事実上の標準になっているかもしれない。
「情報処理技術者資格に免許制の導入を検討すべき段階ではないか」──10月1日、東京・六本木のホテルで行われた2007年情報化月間記念シンポジウムのパネルディスカッションで、パネラーからこんな発言が飛び出した。企業経営にかかわるITコンサルタントや、システム設計の上流工程を担うシステムアナリストが対象で、米欧ではすでに一部に免許制が適用されている。規制の強化につながるとの異論もあるが、IT産業の価値創出には必要なことなのかもしれない。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)
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