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<BCN REPORT>“追い風”はどこに吹いたか、この先は~BCN記者が選ぶIT業界の時々刻々~
2007/12/17 14:53
週刊BCN 2007年12月17日vol.1216掲載
2007年は、「サービスモデル」を変革する気運が生まれた年となった。ソフトウェアの導入コストを軽減するSaaSなどはその代表例だ。ネットワークの可用性にも目が向き始め、「SIとNI」の融合が顕著になった。こうした傾向を背景に、08年にはユニファイドコミュニケーション(UC)が企業システムの「新サービスモデル」として“トレンド”になると予測する。マイクロソフトは、08年春に次世代製品の日本語版を相次ぎ投入する。企業向けでは立ち上がりが遅れたクライントOS「Vista」と合わせ“特需”が期待できる。内部統制需要も本番を迎え、IT需要は堅調さを保ちそうだ。
2007年は、SIとNIの両業界を巻き込む再編が進んだ年だった。4月1日、SIerの三井情報開発とNIerのネクストコムが合併し、「三井情報」として再スタートを切った。これが業界再編の始まり。両社が合併したのは、SIとNIの融合による事業領域の拡大が狙いだ。ネクストコムは、ネットワーク関連のシステム構築を得意とする。一方、三井情報はパッケージソフトを中心にシステム開発やコンサルティングサービスを提供している。ネットワーク技術とコンピュータ関連のシステム構築、運用サービスなどを組み合わせた総合力が武器になると判断した結果の合併だ。
6月には、日本ユニシスがネットマークスを買収した。SIerがNIerを傘下に収めたことで注目を集めた。日本ユニシスグループでは、第一弾としてユニアデックスとネットマークスの連携を強化。ICT(情報通信技術)基盤構築ビジネスの拡大に踏み切っている。
もともとSIとNIは、全く異なったビジネスといわれていた。しかし、NI業界ではスイッチをはじめとしたネットワーク機器のハード売りだけでは儲からない時代へと移行している。一方、SIerを取り巻く市場環境はユーザー企業のシステムに対する投資意欲が回復しているものの、ニーズの多様化で競争がますます激化している。インテグレータが生き残るための方策の1つとして、SIとNIの融合が浮上してきたわけだ。(佐相彰彦)
2.SIer大手集約進む
SI業界の大手集約が進んだ。最大手のNTTデータは2007年3月期の通期連結売上高で過去最高の1兆円を突破。M&Aを含めた積極的なグループ展開や、これまで比較的弱かった一般産業分野を伸ばしたことなどが業績を押し上げる要因となった。グループ会社はすでに100社を上回る。11月にはSAPがシステム構築を得意とするドイツの中堅SIerにTOB(株式公開買い付け)を実施するなど、グローバルでのM&Aにも力を入れる。
年商3000億円クラスのSIerでは、旧伊藤忠テクノサイエンス(CTC)が06年10月にデータセンター事業を得意とする旧CRCソリューションズと合併した。新しく誕生した伊藤忠テクノソリューションズの06年度(07年3月期)の連結売上高は2943億円に拡大。これで3000億円プレーヤーが1社増えた。07年度は前年度比18.2%増の3480億円を見込む。
3000億円プレーヤーを巡っては、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)がITソリューション事業を昨年度(06年12月期)の2倍近い3000億円に増やす方針を打ち出した。SIerトップグループ入りを目指す施策の一環として、07年5月に中堅SIerのアルゴ21にTOBを実施。11月に完全子会社化し、08年4月にはグループ会社のキヤノンシステムソリューションズ(キヤノンSOL)と合併。キヤノンITソリューションズとして生まれ変わる。
年商規模が大きい総合SIerと、特定分野や業種に特化した専門SIerとの二極化がより鮮明になってきた。(安藤章司)
3.ISVのビジネスモデル変革へ
パッケージソフトウェアのビジネスモデルを覆す可能性のあるSaaS(Software as a Service)への注目度が増した。国内ISVは、「新たなIT流通網をどう構築すべきなのか」といった検討を余儀なくされた。
「シングルテナント」のASPと異なり、SaaSは「マルチテナント」であるため、ISVの収益性を高め、ユーザー企業にとっても導入・運用管理コストの削減が図れるなど、メリットが大きい。しかし、大多数のISVは、パートナー経由の「間接販売」が主体である。これまでのチャネルビジネスを壊してまで、インターネットを介してソフトを従量課金で提供するSaaSビジネスに参入すべきか、選択を迫られることとなった。
SaaSが本格的に普及する「元年」となるのは、2008年になりそうだが、07年中にも国内ITベンダーのSaaS事業が相次いで開始された。普及を見込んだ富士通やNEC、日本IBM、マイクロソフト・KDDI連合など、大手ITベンダーによる「SaaS基盤」用のデータセンターの整備が進んだほか、IT関連団体や任意団体の動きも活発で、予想以上に早い速度で「SaaSの波」が押し寄せたことが分かる。
企業のITシステムは今後、社内に置く「所有」から“電気・ガス・水道”のごとく「利用」へのシフトが顕著になった。こうした変革に歩調を合わせたSaaS事業など、新しいビジネスモデルを創出するISVが生き残る時代に突入した。(谷畑良胤)
4.5年ぶりの新OS、WindowsVista発売
5年ぶりの新バージョンとなるマイクロソフトの新OS「WindowsVista」が2007年1月30日、発売された。全国の主要都市で恒例の深夜発売イベントが行われ、秋葉原では前日の昼頃から、ビジネスマンの町・有楽町では夕方から仕事を終えたサラリーマンなどがVistaを求めて列をつくった。
特に秋葉原ではパッケージよりも、PCやパーツにバンドルされた「DSP版」に高い関心を示したユーザーが多かったようだ。
当時はいたるところで「(Vistaの発売待ちで)PCの買い控えが起きている」と騒がれていた時期でもあった。販売店側からも「OSはメジャーバージョンアップするごとにその勢いが落ちている」などの声があがっていたが、マイクロソフトはVistaを「業界全体における大きな革新の波」とし、周辺機器やソフトメーカーなどパートナーとの連携によって、PC市場全体の底上げを図っていきたいと表明した。
コンシューマ向けは、Vistaへのバージョンアップがまずまずのペースで進んでいる一方で、法人向けでは、プリンタドライバなどの対応が遅れていることなどを理由に、XPや、なかには2000のままの企業があるなど、旧バージョンのOSをいまだ使用し続けるケースもまだある。「Vistaが法人に普及するには、3年ほどの期間を要する」というのが業界の大勢の見方だ。(鍋島蓉子)
5.日立、PC生産から完全撤退
2007年3月9日、日立製作所は法人向けPCの自社生産撤退を発表し、10月には個人向けモデルの生産も中止することが明らかになった。法人に限っていえば、米ヒューレット・パッカード(HP)に開発を委託し、日立ブランドとして販売を継続するわけで、PCビジネスから撤退はしない。ただ、83年に16ビットPCを発売した老舗コンピュータメーカーが、自社生産をやめる事実はIT業界に衝撃を与えた。04年12月に発表された米IBMのPC事業売却に次ぐPC生産撤退のニュースとなった。
調査会社の米ガートナーは、米IBMの売却報道直前の04年11月下旬、世界のPCメーカー上位10社のうち、「07年までに3社が撤退を余儀なくされる」との予測レポートを発表していた。現時点でガートナーが示した上位10社のうち、PC事業をやめたのはIBMだけ。その予想は外れている。ある大手国産PCメーカー幹部は、「ユーザーとの接点としてPCの役割は大きく、撤退はありえない」と説明し、事業継続に強い意気込みを示している。
ただ、PCは価格下落が顕著で、利益捻出が極めて難しい。日立は、生産撤退の理由を「コスト削減による利益向上」と述べ、利益を出すのが難しい現実を印象づけている。
今後この状況が一変して販売額が一気に伸びるとは考えにくい。PCメーカーは引き続き厳しい環境での事業継続を迫られる。撤退は、決して対岸の火事ではないはずだ。PC事業に対するコンピュータメーカーの姿勢は来年以降も注目に値する。(木村剛士)
IP電話や携帯電話、メールなどビジネスコミュニケーションを1つのインターフェースに統合する「ユニファイドコミュニケーション(UC)」を切り口としたビジネスに拡大機運が高まりそうだ。メーカーやインテグレータ各社は、VoIP(音声のIP化)をはじめとして、ネットワークインフラ構築やアプリケーションサービス、サーバーのホスティング、コンサルティングなど、さまざまな切り口からUC関連の製品・サービスを提供し、新規顧客の開拓に力を注いでいる。現在は、ユーザーとして大企業を対象にしているケースが多いが、2008年からはSMB(中堅・中小企業)でも普及する可能性が高いといえそうだ。
というのも、UC関連の製品・サービスは、ワークスタイルを抜本的に改善するといわれているからだ。社長を含めて社員のほとんどが外出するケースが多い中小企業の場合、オフィスの固定電話にかかってきた取引先からの通話を携帯で受けられるようになれば迅速に商談を進められる。出張が多い職種でもWeb経由で、いつでもどこでもテレビ会議で打ち合わせが可能だ。携帯電話を使って上司への業務報告が行えるようになれば、業務の効率化にもつながる。
マイクロソフトが「OCS(マイクロソフト・オフィス・コミュニケーションズ・サーバー)」を市場投入したことで、普及がいっそう進むとの見方も出ている。(佐相彰彦)
2.新サーバーOSで“特需”到来
マイクロソフトの「次世代プラットフォーム」(日本語版)が2008年春までに出揃うことで、IT業界に“特需”が到来しそうだ。次期サーバーOS「Windows Server 2008」の「日本語版Bata3」は、07年4月下旬から9月までに約9万5000を配布するなど、前版OSのリリース時に比べ、IT業界が自社製品へ対応・検討する率が大幅に高まった。
07年1月下旬に出荷が始まったクライアントOS「Vista」は、法人市場での立ち上がりが遅れた。しかし、Windows Server 2008に搭載されたNAP(ネットワークアクセス保護)と「Vista」を利用した「検疫ソリューション」など、次世代プラットフォーム製品間の相乗効果で「新たな需要を喚起できる」という声がIT業界で大勢を占める。07年初めに“Vista特需”に期待を寄せたSIerなどが、マイクロソフト製品の販売に改めて力を注ぐための準備体制は万全になりつつある。
次期データベース「Microsoft SQL Server 2008」の販売では、マイクロソフトが「3年以内に売り上げが倍増する」と皮算用するほど、加速度的な普及に手応えを感じている。これまで高いシェアを誇っていたSMB(中堅・中小企業)だけでなく、苦手領域の中堅・大企業への浸透が進みそうだからだ。
すでに、オラクルDBから移行する自動化ツールなどを提供開始。早期に市場を立ち上げる準備は整っている。今までにないパートナーシップが拡大しており、IT需要を生み出しそうだ。(谷畑良胤)
3.SaaS、メインストリームへ
ソフトウェアをサービスとして提供するSaaSが幅広い業務システムで使われるようになる。SaaSはもともとコンシューマー向けのサービスとして、グーグルなど先進的なネットサービス企業が積極的に採用してきた。SOA(サービス指向アーキテクチャ)などの基盤技術をベースとし、異なるベンダーのサービスを有機的に組み合わせることができるのが特徴だ。
この仕組みがいよいよ業務システムの分野で本格的に広がる。顧客情報管理システム(CRM)を世界に先駆けてSaaS型オンデマンドサービスで売り出した米セールスフォース・ドットコムの勢いはさらに加速。国内でも日立ソフトウェアエンジニアリングや新日鉄ソリューションズなど、大手SIerがセールスフォースなどのSaaS型ソフトウェア・サービスの売り込みに力を入れていく動きをみせている。
一方、セールスフォースのライバルで、SMB(中堅・中小企業)を主力ターゲットとする米ネットスイートは来年度、日本での売上高を倍増させる。SMBに強力な営業チャネルを持つ大手SIerと組むことで販売力を強化。米ネットスイート独自の業務アプリケーションの品揃えを拡充することで利便性を高め、シェア拡大を目指す。
また、サーバーベースドコンピューティングであるSaaSを支えるサーバー仮想化技術や安価で高性能なデータセンターサービスが相次いで登場。国内SIerやISVも独自のSaaSビジネスを本格的に立ち上げる見込みである。(安藤章司)
4.内部統制需要、本番迎える
「金融商品取引法(金商法)」の適用が始まる2008年は、内部統制関連の需要が本番を迎えることになる。
「金商法」に対応するには、内部統制の仕組みが必須で、その仕組みの構築には情報システムの活用が有効だ。ITベンダー各社は法の成立と同時に、特需を生むとみて内部統制関連の商品・サービスを拡充させてきた。
「金商法」は06年6月に成立し、上場会社などの対象企業は、すでに1-2年前から内部統制の仕組み構築に動き始めていた。内部統制関連ビジネスはすでに立ち上がっており、08年が「内部統制需要元年」というわけではない。とはいうものの、07年の年末に取材した有力ITベンダートップの声を集約すると、「今年以上に盛り上がる」という予測でほぼ一致する。
その根拠は、いくつかある。たとえば、「準備不足で、本格的な取り組みはこれから」という企業のケースをはじめ、「常に改善を要求されるため、継続的な投資が必要だから」「急いで間に合わせたため不備が顕在化し、補うためのIT投資を余儀なくされる可能性がある」など。理由はさまざまだが、ITベンダーは、07年以上の需要を期待しているからだ。
内部統制の仕組み構築は法律上の義務であり、企業は実現に向けて必要なIT基盤の整備も強いられる。特需とはいえないまでも、安定したニーズは見込めるだろう。情報システムの根幹を成すプラットフォームの再構築や、必要性を訴求しやすいセキュリティ、ワークフロー、認証管理ソフトなどが伸びそうだ。(木村剛士)
5.ファイル暗号化製品が活況に
拠点間や取引先とのやり取りなどでネットワークを介したデータの移動が増加した昨今、ファイル暗号化製品はデータを安全にやり取りするための有益なツールでもある。
経済産業省の策定する個人情報保護に関するガイドラインが改正されたことで、暗号化製品、特にファイル暗号化の分野が伸長しそうだ。
経産省が管轄している分野で事業者の個人情報の適正な取り扱いを支援する指針を定める「経済分野を対象とする個人情報保護ガイドライン」が2007年3月に改正された。
同ガイドラインの改正によって、万一、外部に情報が流出したとしても、高度な暗号化による秘匿など対策が講じられていて、その情報を保有する事業者以外では個人情報の識別ができない場合、本人への通達や事実関係などの公表を省略しても構わないとされた。
同ガイドラインによる後ろ盾は暗号化製品を販売するベンダーにとってはメリットになる。ファイル暗号製品を提供するベンダーでは、ガイドライン改正を前面に出し、導入促進に力を入れる。ガイドライン改正に関する説明会は、盛況を極めたことからすれば、ITベンダー、事業者ともに関心が高いようだ。
ファイル暗号関連の製品を開発しているベンダーの担当者は、「小規模の情報漏えいでも騒がれる時代。08年には、ファイル暗号化製品が伸びるのは間違いない」と見通しを語る。(鍋島蓉子)
5大ニュース in2007
1.SIとNIの融合が顕著に2007年は、SIとNIの両業界を巻き込む再編が進んだ年だった。4月1日、SIerの三井情報開発とNIerのネクストコムが合併し、「三井情報」として再スタートを切った。これが業界再編の始まり。両社が合併したのは、SIとNIの融合による事業領域の拡大が狙いだ。ネクストコムは、ネットワーク関連のシステム構築を得意とする。一方、三井情報はパッケージソフトを中心にシステム開発やコンサルティングサービスを提供している。ネットワーク技術とコンピュータ関連のシステム構築、運用サービスなどを組み合わせた総合力が武器になると判断した結果の合併だ。
6月には、日本ユニシスがネットマークスを買収した。SIerがNIerを傘下に収めたことで注目を集めた。日本ユニシスグループでは、第一弾としてユニアデックスとネットマークスの連携を強化。ICT(情報通信技術)基盤構築ビジネスの拡大に踏み切っている。
もともとSIとNIは、全く異なったビジネスといわれていた。しかし、NI業界ではスイッチをはじめとしたネットワーク機器のハード売りだけでは儲からない時代へと移行している。一方、SIerを取り巻く市場環境はユーザー企業のシステムに対する投資意欲が回復しているものの、ニーズの多様化で競争がますます激化している。インテグレータが生き残るための方策の1つとして、SIとNIの融合が浮上してきたわけだ。(佐相彰彦)
2.SIer大手集約進む
SI業界の大手集約が進んだ。最大手のNTTデータは2007年3月期の通期連結売上高で過去最高の1兆円を突破。M&Aを含めた積極的なグループ展開や、これまで比較的弱かった一般産業分野を伸ばしたことなどが業績を押し上げる要因となった。グループ会社はすでに100社を上回る。11月にはSAPがシステム構築を得意とするドイツの中堅SIerにTOB(株式公開買い付け)を実施するなど、グローバルでのM&Aにも力を入れる。年商3000億円クラスのSIerでは、旧伊藤忠テクノサイエンス(CTC)が06年10月にデータセンター事業を得意とする旧CRCソリューションズと合併した。新しく誕生した伊藤忠テクノソリューションズの06年度(07年3月期)の連結売上高は2943億円に拡大。これで3000億円プレーヤーが1社増えた。07年度は前年度比18.2%増の3480億円を見込む。
3000億円プレーヤーを巡っては、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)がITソリューション事業を昨年度(06年12月期)の2倍近い3000億円に増やす方針を打ち出した。SIerトップグループ入りを目指す施策の一環として、07年5月に中堅SIerのアルゴ21にTOBを実施。11月に完全子会社化し、08年4月にはグループ会社のキヤノンシステムソリューションズ(キヤノンSOL)と合併。キヤノンITソリューションズとして生まれ変わる。
年商規模が大きい総合SIerと、特定分野や業種に特化した専門SIerとの二極化がより鮮明になってきた。(安藤章司)
3.ISVのビジネスモデル変革へ
パッケージソフトウェアのビジネスモデルを覆す可能性のあるSaaS(Software as a Service)への注目度が増した。国内ISVは、「新たなIT流通網をどう構築すべきなのか」といった検討を余儀なくされた。
「シングルテナント」のASPと異なり、SaaSは「マルチテナント」であるため、ISVの収益性を高め、ユーザー企業にとっても導入・運用管理コストの削減が図れるなど、メリットが大きい。しかし、大多数のISVは、パートナー経由の「間接販売」が主体である。これまでのチャネルビジネスを壊してまで、インターネットを介してソフトを従量課金で提供するSaaSビジネスに参入すべきか、選択を迫られることとなった。
SaaSが本格的に普及する「元年」となるのは、2008年になりそうだが、07年中にも国内ITベンダーのSaaS事業が相次いで開始された。普及を見込んだ富士通やNEC、日本IBM、マイクロソフト・KDDI連合など、大手ITベンダーによる「SaaS基盤」用のデータセンターの整備が進んだほか、IT関連団体や任意団体の動きも活発で、予想以上に早い速度で「SaaSの波」が押し寄せたことが分かる。
企業のITシステムは今後、社内に置く「所有」から“電気・ガス・水道”のごとく「利用」へのシフトが顕著になった。こうした変革に歩調を合わせたSaaS事業など、新しいビジネスモデルを創出するISVが生き残る時代に突入した。(谷畑良胤)
4.5年ぶりの新OS、WindowsVista発売
5年ぶりの新バージョンとなるマイクロソフトの新OS「WindowsVista」が2007年1月30日、発売された。全国の主要都市で恒例の深夜発売イベントが行われ、秋葉原では前日の昼頃から、ビジネスマンの町・有楽町では夕方から仕事を終えたサラリーマンなどがVistaを求めて列をつくった。特に秋葉原ではパッケージよりも、PCやパーツにバンドルされた「DSP版」に高い関心を示したユーザーが多かったようだ。
当時はいたるところで「(Vistaの発売待ちで)PCの買い控えが起きている」と騒がれていた時期でもあった。販売店側からも「OSはメジャーバージョンアップするごとにその勢いが落ちている」などの声があがっていたが、マイクロソフトはVistaを「業界全体における大きな革新の波」とし、周辺機器やソフトメーカーなどパートナーとの連携によって、PC市場全体の底上げを図っていきたいと表明した。
コンシューマ向けは、Vistaへのバージョンアップがまずまずのペースで進んでいる一方で、法人向けでは、プリンタドライバなどの対応が遅れていることなどを理由に、XPや、なかには2000のままの企業があるなど、旧バージョンのOSをいまだ使用し続けるケースもまだある。「Vistaが法人に普及するには、3年ほどの期間を要する」というのが業界の大勢の見方だ。(鍋島蓉子)
5.日立、PC生産から完全撤退
2007年3月9日、日立製作所は法人向けPCの自社生産撤退を発表し、10月には個人向けモデルの生産も中止することが明らかになった。法人に限っていえば、米ヒューレット・パッカード(HP)に開発を委託し、日立ブランドとして販売を継続するわけで、PCビジネスから撤退はしない。ただ、83年に16ビットPCを発売した老舗コンピュータメーカーが、自社生産をやめる事実はIT業界に衝撃を与えた。04年12月に発表された米IBMのPC事業売却に次ぐPC生産撤退のニュースとなった。調査会社の米ガートナーは、米IBMの売却報道直前の04年11月下旬、世界のPCメーカー上位10社のうち、「07年までに3社が撤退を余儀なくされる」との予測レポートを発表していた。現時点でガートナーが示した上位10社のうち、PC事業をやめたのはIBMだけ。その予想は外れている。ある大手国産PCメーカー幹部は、「ユーザーとの接点としてPCの役割は大きく、撤退はありえない」と説明し、事業継続に強い意気込みを示している。
ただ、PCは価格下落が顕著で、利益捻出が極めて難しい。日立は、生産撤退の理由を「コスト削減による利益向上」と述べ、利益を出すのが難しい現実を印象づけている。
今後この状況が一変して販売額が一気に伸びるとは考えにくい。PCメーカーは引き続き厳しい環境での事業継続を迫られる。撤退は、決して対岸の火事ではないはずだ。PC事業に対するコンピュータメーカーの姿勢は来年以降も注目に値する。(木村剛士)
5大予測 in2008
1.UCがSMB向け市場でトレンドに
IP電話や携帯電話、メールなどビジネスコミュニケーションを1つのインターフェースに統合する「ユニファイドコミュニケーション(UC)」を切り口としたビジネスに拡大機運が高まりそうだ。メーカーやインテグレータ各社は、VoIP(音声のIP化)をはじめとして、ネットワークインフラ構築やアプリケーションサービス、サーバーのホスティング、コンサルティングなど、さまざまな切り口からUC関連の製品・サービスを提供し、新規顧客の開拓に力を注いでいる。現在は、ユーザーとして大企業を対象にしているケースが多いが、2008年からはSMB(中堅・中小企業)でも普及する可能性が高いといえそうだ。というのも、UC関連の製品・サービスは、ワークスタイルを抜本的に改善するといわれているからだ。社長を含めて社員のほとんどが外出するケースが多い中小企業の場合、オフィスの固定電話にかかってきた取引先からの通話を携帯で受けられるようになれば迅速に商談を進められる。出張が多い職種でもWeb経由で、いつでもどこでもテレビ会議で打ち合わせが可能だ。携帯電話を使って上司への業務報告が行えるようになれば、業務の効率化にもつながる。
マイクロソフトが「OCS(マイクロソフト・オフィス・コミュニケーションズ・サーバー)」を市場投入したことで、普及がいっそう進むとの見方も出ている。(佐相彰彦)
2.新サーバーOSで“特需”到来
マイクロソフトの「次世代プラットフォーム」(日本語版)が2008年春までに出揃うことで、IT業界に“特需”が到来しそうだ。次期サーバーOS「Windows Server 2008」の「日本語版Bata3」は、07年4月下旬から9月までに約9万5000を配布するなど、前版OSのリリース時に比べ、IT業界が自社製品へ対応・検討する率が大幅に高まった。

07年1月下旬に出荷が始まったクライアントOS「Vista」は、法人市場での立ち上がりが遅れた。しかし、Windows Server 2008に搭載されたNAP(ネットワークアクセス保護)と「Vista」を利用した「検疫ソリューション」など、次世代プラットフォーム製品間の相乗効果で「新たな需要を喚起できる」という声がIT業界で大勢を占める。07年初めに“Vista特需”に期待を寄せたSIerなどが、マイクロソフト製品の販売に改めて力を注ぐための準備体制は万全になりつつある。
次期データベース「Microsoft SQL Server 2008」の販売では、マイクロソフトが「3年以内に売り上げが倍増する」と皮算用するほど、加速度的な普及に手応えを感じている。これまで高いシェアを誇っていたSMB(中堅・中小企業)だけでなく、苦手領域の中堅・大企業への浸透が進みそうだからだ。
すでに、オラクルDBから移行する自動化ツールなどを提供開始。早期に市場を立ち上げる準備は整っている。今までにないパートナーシップが拡大しており、IT需要を生み出しそうだ。(谷畑良胤)
3.SaaS、メインストリームへ
ソフトウェアをサービスとして提供するSaaSが幅広い業務システムで使われるようになる。SaaSはもともとコンシューマー向けのサービスとして、グーグルなど先進的なネットサービス企業が積極的に採用してきた。SOA(サービス指向アーキテクチャ)などの基盤技術をベースとし、異なるベンダーのサービスを有機的に組み合わせることができるのが特徴だ。
この仕組みがいよいよ業務システムの分野で本格的に広がる。顧客情報管理システム(CRM)を世界に先駆けてSaaS型オンデマンドサービスで売り出した米セールスフォース・ドットコムの勢いはさらに加速。国内でも日立ソフトウェアエンジニアリングや新日鉄ソリューションズなど、大手SIerがセールスフォースなどのSaaS型ソフトウェア・サービスの売り込みに力を入れていく動きをみせている。
一方、セールスフォースのライバルで、SMB(中堅・中小企業)を主力ターゲットとする米ネットスイートは来年度、日本での売上高を倍増させる。SMBに強力な営業チャネルを持つ大手SIerと組むことで販売力を強化。米ネットスイート独自の業務アプリケーションの品揃えを拡充することで利便性を高め、シェア拡大を目指す。
また、サーバーベースドコンピューティングであるSaaSを支えるサーバー仮想化技術や安価で高性能なデータセンターサービスが相次いで登場。国内SIerやISVも独自のSaaSビジネスを本格的に立ち上げる見込みである。(安藤章司)
4.内部統制需要、本番迎える
「金融商品取引法(金商法)」の適用が始まる2008年は、内部統制関連の需要が本番を迎えることになる。
「金商法」に対応するには、内部統制の仕組みが必須で、その仕組みの構築には情報システムの活用が有効だ。ITベンダー各社は法の成立と同時に、特需を生むとみて内部統制関連の商品・サービスを拡充させてきた。
「金商法」は06年6月に成立し、上場会社などの対象企業は、すでに1-2年前から内部統制の仕組み構築に動き始めていた。内部統制関連ビジネスはすでに立ち上がっており、08年が「内部統制需要元年」というわけではない。とはいうものの、07年の年末に取材した有力ITベンダートップの声を集約すると、「今年以上に盛り上がる」という予測でほぼ一致する。
その根拠は、いくつかある。たとえば、「準備不足で、本格的な取り組みはこれから」という企業のケースをはじめ、「常に改善を要求されるため、継続的な投資が必要だから」「急いで間に合わせたため不備が顕在化し、補うためのIT投資を余儀なくされる可能性がある」など。理由はさまざまだが、ITベンダーは、07年以上の需要を期待しているからだ。
内部統制の仕組み構築は法律上の義務であり、企業は実現に向けて必要なIT基盤の整備も強いられる。特需とはいえないまでも、安定したニーズは見込めるだろう。情報システムの根幹を成すプラットフォームの再構築や、必要性を訴求しやすいセキュリティ、ワークフロー、認証管理ソフトなどが伸びそうだ。(木村剛士)
5.ファイル暗号化製品が活況に
拠点間や取引先とのやり取りなどでネットワークを介したデータの移動が増加した昨今、ファイル暗号化製品はデータを安全にやり取りするための有益なツールでもある。
経済産業省の策定する個人情報保護に関するガイドラインが改正されたことで、暗号化製品、特にファイル暗号化の分野が伸長しそうだ。
経産省が管轄している分野で事業者の個人情報の適正な取り扱いを支援する指針を定める「経済分野を対象とする個人情報保護ガイドライン」が2007年3月に改正された。
同ガイドラインの改正によって、万一、外部に情報が流出したとしても、高度な暗号化による秘匿など対策が講じられていて、その情報を保有する事業者以外では個人情報の識別ができない場合、本人への通達や事実関係などの公表を省略しても構わないとされた。
同ガイドラインによる後ろ盾は暗号化製品を販売するベンダーにとってはメリットになる。ファイル暗号製品を提供するベンダーでは、ガイドライン改正を前面に出し、導入促進に力を入れる。ガイドライン改正に関する説明会は、盛況を極めたことからすれば、ITベンダー、事業者ともに関心が高いようだ。
ファイル暗号関連の製品を開発しているベンダーの担当者は、「小規模の情報漏えいでも騒がれる時代。08年には、ファイル暗号化製品が伸びるのは間違いない」と見通しを語る。(鍋島蓉子)
2007年は、「サービスモデル」を変革する気運が生まれた年となった。ソフトウェアの導入コストを軽減するSaaSなどはその代表例だ。ネットワークの可用性にも目が向き始め、「SIとNI」の融合が顕著になった。こうした傾向を背景に、08年にはユニファイドコミュニケーション(UC)が企業システムの「新サービスモデル」として“トレンド”になると予測する。マイクロソフトは、08年春に次世代製品の日本語版を相次ぎ投入する。企業向けでは立ち上がりが遅れたクライントOS「Vista」と合わせ“特需”が期待できる。内部統制需要も本番を迎え、IT需要は堅調さを保ちそうだ。
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