ソフトウェア開発を主体とする開発系SIerの2008年、業界天気は「晴れのち雨」の見通しだ。需要を支えてきた金融業界のIT投資の先行きに不透明感が漂い、頼みの大手製造業はITシステムのグローバル化を急ピッチで進める。国内需要だけに依存した中途半端な事業規模では、もはや生き残れないとの見方もある。08年4月にはキヤノンシステムソリューションズ(キヤノンSOL)とアルゴ21が合併。インテックホールディングスとTISも同じ時期に経営統合する。今後、さらに厳しい再編の嵐がやってくる可能性もある。(安藤章司●取材/文)
“5000億円クラブ”誕生か?

08年、大型の合併・統合が相次ぐのは情報サービス産業を取り巻く市場環境が大きく変化しているからだ。これまで国内IT需要を引っ張ってきた大手金融のIT投資の先行きに不透明感が出ていることも影響している。
メガバンクの基幹系システムの統合プロジェクトが段階的に終息。金融業界でもゼロからスクラッチでソフトを開発するケースが減り、既存システムの再利用や1つのシステムを複数の金融機関で共同利用する比率が高まるとみられている。大口のIT投資が見込める大手製造業では、グローバル規模でITシステムを最適化する動きが加速。国内のIT需要への依存度が大きいSIerは十分に対応できない可能性がある。
一連の大型合併・統合は、規模を拡大することで受注体力や投資余力を高め、より確実な生き残りを狙うものだ。
インテックホールディングスとTISが経営統合して08年4月に設立されるITホールディングスは2015年までをめどに「年商5000億円を目指す」(TISの岡本晋社長)と打ち上げた。元請け(プライム)で大型プロジェクトを受注するには年商3000億円が必要だとされ、中堅SIerは“3000億円クラブ”への仲間入りを目指し、M&Aを含めて事業拡大を進めてきた。だが、今回、ITホールディングスが誕生することで規模拡大競争がより激しくなるのは必至だ。
同じく4月、キヤノンSOLとアルゴ21が合併して誕生するキヤノンITソリューションズでは、当初、年商3000億円への拡大を目指していた。だが、数年後に達成したとしても2番手グループどころか、3番手グループに入るにすぎない。成長のピッチを上げて、親会社のキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)のITソリューション事業全体で、「将来的に年商5000億円を目指す」(キヤノンSOLの武井尭社長)と、ITホールディングスと同様の目標を掲げる。高い収益力を保ちながら成長しつづける実力派の野村総合研究所(NRI)も、M&Aを視野に入れつつ「2015年に年商6000億円規模」(藤沼彰久社長)をイメージする。
有力SIerが事業規模の拡大を進めることで、新たに“5000億円クラブ”が形成される見通しだ。
最大手のNTTデータは、07年11月にドイツの中堅SIerにTOB(株式公開買い付け)を実施するなどグローバル展開を急ぐ。目指すは世界大手のIBMやアクセンチュアだ。「世界トップにふさわしいSIerになる」(山下徹社長)とし、ビジネスモデルの再構築を急ぐ。
一方、再編の波に乗り遅れたSIerは厳しい状況に追い込まれる可能性もある。大手SIerの下請けで利益率が低い中堅中小のSIerはなおさら厳しい。受注環境が良好な時期はともかく、国内IT需要が頭打ちになると立ちゆかなくなることも考えられる。金融業での大型プロジェクトの減少や、大手製造業によるSIerの選別が加速する見通しであるなど、すでに兆候は見え始めた。開発系SIerの業界天気は荒れ模様になる見込みだ。

ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険など郵政民営化に伴う新規IT投資が期待できる。メガバンクの基幹系システムの統合プロジェクトは終息の方向にある。だが、情報系システムはグローバル競争に勝ち残るため新規投資が期待できる。ただ、いつ頃からどういう形で本格化するのかは、不透明な部分もある。
大型の経営統合・合併が相次ぐことで、業界再編に拍車がかかる可能性がある。情報サービス産業は、過剰な多重下請け構造が、技術力や収益力の向上など業界の健全な発展を妨げてきたとの指摘が根強い。再編が進むことで効率化が進み、国際的に競争力があるSIerが複数出てくることが求められている。
再編の波に乗れなかったSIerは、行き詰まる可能性も。合併・統合で受注体力が増した大手SIerに仕事が集中する傾向が強まる。仮に国内IT投資が頭打ちになれば、元請けのベンダーによる協力会社の絞り込みが進む可能性もある。また、開発コストが割安なオフショアパートナーを優遇する選択もあり得る。

●NTTデータは07年3月期、情報サービス産業で初めて連結売上高1兆円を突破。11月にはドイツの中堅SIerにTOBを実施。マレーシアとベトナムにも現地法人を設立し、インドの中堅SIerを連結子会社にすると発表。グローバル展開を急ピッチで進める。
●キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は5月、中堅SIerのアルゴ21にTOBを実施。11月に完全子会社化した。キヤノンMJグループのITソリューション事業の中核会社であるキヤノンシステムソリューションズと合併して08年4月にキヤノンITソリューションズに社名を変えると発表。
●野村総合研究所は07年度中間期(07年4-9月期)、過去最高水準の業績を記録した。得意とする証券や保険など金融業のIT投資に支えられた。
●インテックホールディングスとTISは経営統合に合意すると12月に発表。08年4月に共同持ち株会社ITホールディングスを設立する。インテックのIとTISのTを合わせたものだが、ITサービス産業を代表するSIerになる意気込みもこめた。