カラープリンタ需要が堅調だった2006年の反動などで、07年のプリンタ業界は低迷した。08年の同業界は、この傾向のまま「曇り」の空模様だ。企業内プリンタのリプレイス需要が一巡し、印刷コストの削減を目指す大手企業が増えたことなどが影響した。しかし、在宅ワーカーが増加することを見越した製品・販売の仕組みなど、新たなモデルが定着すれば、「晴れ間」も見えそうだ。(谷畑良胤●取材/文)

IDCジャパンによれば、07年7-9月の国内企業向けレーザープリンタの出荷台数は、前年に比べ12.3%減少し、大きな落ち込みとなった。06年には、カラープリンタの出荷量や収益性の高いサプライの供給が増え、プリンタベンダーの業績を大幅に押し上げた。07年はこの反動をまともに受けたといえる。また、企業内のレーザープリンタのリプレイス需要が一巡し、印刷コストや環境に配慮してモノクロ機をカラー機に置き換えることを躊躇する企業が増えているようだ。
国内プリンタ業界のプレイヤーとしては、世界のプリンタ市場を制するヒューレット・パッカード(HP)日本法人の日本HPが、国内プリンタ事業に本格参戦。まず、中堅・中小企業(SMB)向けにインクジェットプリンタで、既存市場のリプレイスを目指す。この動きが、エプソン販売やブラザー販売、OKIデータなど、SOHOやSMB向けを得意分野とするベンダーに影響を及ぼすのは必至とみられる。
それでも、「曇り」のあとに「『晴れ間』が見えてくる可能性がある」と、期待を込めて見通しを語るベンダーが目立つ。エプソン販売の平野精一社長は「労働環境が変化しそうで、在宅ワーカーが増える。少子高齢化の進展具合をみれば、この傾向はさらに強まる。ここに向けたソリューションを提供したい」と、企業の事務所内だけでなく、在宅向けという新市場を切り開こうとしている。ブラザー販売の神谷純社長も、「通信環境が整備され、ユビキタス時代が本格的に到来し、在宅ワーカーなどに向けた新たな展開ができる」と、通信関連の強みを発揮して、競合他社と異なるユニークな展開を開始する予定だ。
プリンタ業界にとって、08年にキーワードとなりそうな言葉は「環境」である。レーザープリンタは、トナー定着時に温度を高める必要がある。CO2排出量の低減に敏感な大手企業や官公庁・自治体などは、プリンタ導入時にこうした問題を指摘し、導入を見合わせる例も出てきた。リコーの近藤史朗社長は「当社が開発した『PxPトナー』は、ポリエステルを用いた重合トナー(化学反応を利用して生成したトナー)で、高画質を実現し、省エネにも貢献する」と、環境対応が問われる時代になり、全機種への適応を図るという。
環境問題への対応は、開発コストの上昇を招く。一方で、大企業や官公庁・自治体などのリプレイス需要を生み出す可能性があり、膠着状態にあるプリンタ市場を切り開くことにもつながりそうだ。

エプソン販売やブラザー販売が「新市場」と位置づける在宅ワーカー向けが立ち上がれば、市場は盛り上がりそう。また、各ベンダーは環境対策を施したプリンタ開発に余念がなく、こうした機器が大企業や官公庁・自治体向けの需要を切り開く。印刷ボリュームの大きいハイエンド機も立ち上がる可能性は高い。
カラー機の利用用途や環境配慮を的確に提案できれば、再びカラー機需要を呼び起こすことで、例年並みのリプレイス需要を掘り起こせる。一方、モノクロ機は、印刷コストを削減する傾向にある大企業に根強い需要があり、カラー機との兼ね合いで、トータルな提案ができれば「曇り」から「晴れ」に転じそう。
従来通りの「右から左」にプリンタを販売するビジネスにとどまったり、価格競争に巻き込まれることになれば、縮小する印刷需要のパイの奪い合いに終始し、共倒れもあり得る。情報漏えいや内部統制対策などが重視され、ここに向けた取り組みを強化しなければ、低迷に歯止めはかからない。