2008年は、国内ICT(情報通信技術)ベンダーによるSaaS(Software as a Service)ビジネスが急速に立ち上がる。年内には、開発系SIerやネットワーク系販社を中心に、SaaSビジネスの新規開始・拡大が相次ぐ。国家プロジェクトや税制優遇措置などが後押しし、企業システムの「所有から利用へ」の動きが一気に加速しそうだ。
サービス乱立時代に突入

SaaSビジネスの新規展開に積極的なのは、データセンター(iDC)を所有し、SOA(サービス指向アーキテクチャ)との連携に期待する開発系SIerや、企業がSaaSを導入するうえで重要となるネットワークやiDCの構築・運用・管理を得意とするネットワーク系販社だ。
システム運用・構築ベンダーの日立情報システムズは、2010年度(11年3月期)までの中期経営計画でオンデマンドサービスを実現する「プール構想」を打ち出しているが、このラインアップにSaaSを加える。短期的には、主力商材のERP(統合基幹業務システム)などをSaaS化する意向である。
開発系SIerのシーイーシー(CEC)は、インターネットソリューションの開発・運用会社、GMOホスティング&セキュリティ(GMO─HS)と昨年2月に提携し、CECが提供する業務アプリケーションをSaaS型で提供を開始した。CECは「08年以降は売り上げ増に結び付く」と、SaaS市場で業界をリードする考え。日立製作所系列のニッセイコムは、ASP/SaaSを利用する顧客の満足度を高めるため、既存iDCを2倍に拡張した。
クレオは、オープンソースソフトウェア(OSS)関連ソリューションを展開するワイズノットと昨年4月に業務提携し、同社のSaaS基盤からクレオの人事・会計システム「ZeeMシリーズ」などをサービス提供するメニューを付加していく。業務ソフトベンダーのピー・シー・エー(PCA)は2-3月頃に、販売管理・在庫管理ソフトの「商魂・商管」など、既存の中小企業向け自社業務ソフト群をすべてSaaS型で提供する。運用・管理が煩雑なサーバー導入に消極的な中小企業に対し、インターネット経由で製品を提供し、市場拡大を目指す。同ソフト市場では先駆的な取り組みとして注目が集まりそうだ。
昨年まで価格競争の煽りなどで市場が停滞気味だったネットワーク系販社。今年は一転、SaaSビジネスで攻勢をかける。昨年4月にネクストコムと合併した三井情報は、自社の金融系の販売管理などのSaaS化を計画している。業務アプリケーションとネットワークの構築・運用の強みをアピールし、iDC事業者との協業を拡充する。
ネットマークスは昨年11月、米ジンブラ社のコラボレーションソフトをベースにしたSaaS型メールサービス「PeacePlanetメール2.0サービス」を開始した。すでに関東学院大学への導入が決定し、ニーズの高い文教市場などを開拓する。また、東京エレクトロンデバイスは、販売パートナーであるSIerがSaaSビジネスへの参入を目指しているため、SaaS基盤などネットワーク環境の製品群を順次拡充する予定だ。
セキュリティベンダーのうち、シマンテックは昨年4月に米本社が発表し、提供中の中小企業のITインフラ保護を目的としたSaaS基盤「Symantec Protection Network─Online Backup Service(SPN)」を、将来的に日本市場へ導入する。トレンドマイクロも、北米で提供中のSaaSビジネスを日本で展開する準備作業を開始した。
販売系SIerでは、富士通ビジネスシステム(FJB)が米ネットスイートのSaaS型業務アプリケーションの提供を開始し、来年度(09年3月期)からの中期経営計画にSaaSビジネスを事業の柱の1つとして明確化する。販売系SIerでは、同社を除くと、ITインフラ販売とSaaSビジネスが相乗効果を生むかどうか模索中で、慎重姿勢が目立つ。
経済産業省は、08年度税制改正で3月末に終了予定の「情報基盤強化税制」を2年間延長し、中小企業がIT化に取り組みやすいようにSaaS型のシステム導入に優遇措置を講じる。さらに、同省は金融庁と中小企業の財務・会計業務の電子化を促進する「中小企業生産性向上プロジェクト」を進め、SaaS導入を促す。昨春に注目され始めた当初、CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)などフロント業務でSaaS型が進むとみられていた。しかし、実際には中堅中小企業を中心に基幹業務へもSaaS型が普及しそうだ。