富士通グループで精密機器メーカーのPFU(輪島藤夫社長)は、国内工場を巧みに活用してビジネスを伸ばしている。情報キオスク端末など顧客企業ごとに個別のつくり込みが求められるIT機器を中心に、石川県の主力工場で生産。設計と製造を一体化した最新鋭の設備を揃え、最短1週間でプロトタイプ(試作機)を顧客に手渡せるのが強みだ。事業拡大を支える主力工場ProDeS(プロデス)センターを取材した。(安藤章司●取材/文)
国内工場の強み生かす
“超スピード”で顧客ニーズに対応
■IT機器の個別開発が好調 PFUは業務用スキャナで世界シェアのおよそ50%を占める有力メーカーである。スキャナと並び、近年、主力ビジネスのもう一つの柱として急成長しているのがプロダクトデザインサービス(ProDeS=プロデス)事業だ。昨年度(2007年3月期)同事業の売上高は前年度比20%近くの伸びを示した。スキャナなどは仕様が決まった製品を量産するが、ProDeSは顧客企業ごとに設計・製造する点が大きく異なる。

石川県にあるProDeS事業の生産拠点「ProDeSセンター」では、顧客からの依頼にもとづいてプロトタイプを開発。実機に触れながら改良を重ねることで、「満足度の高い製品」(輪島社長)に仕上げている。たとえば、60度の高温に耐える耐熱性や防塵・防滴の機能をパソコンに付加したり、石けん箱ほどの小さなケースにCPUやメモリなどパソコンの主要機能を組み込んだりと、「顧客の用途に合わせたIT機器を開発する」(松岡勝成・ProDeSグループシステムプロダクト事業部第一技術部長)ことを得意とする。 ProDeS事業のなかでも、ここ数年、とくに伸びが大きいのが情報キオスク端末(写真)だ。簡単な操作でさまざまな情報が取り出せる端末で、ATM(現金自動預け払い機)や自販機と並ぶ有望市場に成長し、コンビニなどのチェーン店や公共団体、病院などに納入実績を積み重ねている。PFUは、情報キオスク端末の分野では自社の国内シェアが50%近くにまで達していると推計する。

これまでは、一般の個別開発製品がProDeSセンターの出荷金額の約6-7割を占めていた。だが、情報キオスク端末の伸びが大きく、ビジネスの構成が急速に変わりつつあるほどだという。とはいえ、スキャナがグローバル展開を果たしているのに対して、情報キオスク端末をはじめとするProDeS事業の多くは国内でのビジネスにとどまる。「スキャナ同様のグローバル展開を念頭に置き、現在、北米など主要マーケットでの調査を始めているところ」(蓮田豊・ProDeSグループ情報KIOSK事業部長)で、今後は海外への本格進出も視野に入れている。
■“楽しい端末”で試行錯誤 量産型のスキャナは主に海外で生産し、世界市場に向けて出荷する。一方、ProDeSはその性格上、どうしても顧客の近くで設計・製造を一体化した拠点を構えなければならない。“地の利”を生かし、柔軟性が高い生産体制を成長の原動力としているからだ。同事業でグローバル展開をするには、海外でもProDeSセンターの機能を持つ生産拠点を立ち上げることが求められる可能性が高い。
事業推進のエンジン役を担うPro DeSセンターは、2006年7月の開設当初から海外進出を睨みながら先進的な取り組みを数多く行ってきた。開発と製造の機能の一体化は最大の特徴の1つ。2階建て工場の2階部分で設計開発を行い、1階部分で製造する。最新型のレーザー加工機をおよそ2億円かけて導入。金属加工の必需品だった金型をつくらなくても加工できるようにした。設計データをレーザー加工機に流し込めば、半日で外枠ができあがってくる。大きさや使い勝手などを顧客と打ち合わせながら、完成度を高めていく手法をとる。
こんなエピソードがある。アミューズメントの一種のプリントシール機(プリクラ)を受注したとき、仕様書に「楽しい端末」と書かれていた。外枠をつくるに当たって「楽しい高さ、幅って何センチなんだ!? と、まったく分からなかった。恐らく顧客もはっきり分からなかったのだろう」(高田裕昭・テクノロジ開発部主席技術員)と振り返る。まずは三次元CADを使い立体的な絵柄をアニメーション風に顧客に示し、次の段階でより具体的な試作機で見せる。顧客にしてみれば、「実際に見て、触れて初めてイメージが湧いてくる」(同)というものだ。
■独自ソフトでCO2を4割減
設計と製造が一体化するメリットを生かし、上限500万円までなら稟議なしで試作できる制度も設けた。日々の業務のなかで思いついたアイデアを具現化し、最終的には新製品の開発に結びつけるのが狙いだ。年間平均で40-50件の利用がある。ここ数年、実績が増えており、持ち運びができる小型スキャナや、スキャナで取り込んだ文書を管理するソフトウェア「楽2ライブラリ」などが製品化に結びついた。
小型スキャナは、「出張に行くときに“自社のスキャナが重い”と発案担当者が感じたところから始まり、楽2ライブラリは取り込んだ文書の管理をもっと容易にしたいという思いがきっかけだった」(高田主席技術員)。
楽2ライブラリは、ProDeSセンター自身でも活用する。設計図や仕様書、製造工程での作業指示書、部品カタログなど、設計・製造の各工程でさまざまな資料が必要になる。自社のスキャナと楽2ライブラリを組み合わせてペーパーレス化を推進すれば、オフィススペースや、紙の消費量の削減など環境対策効果も期待できる。

ProDeSセンターとほぼ同規模の製造現場で検証したところ、紙文書の保管・活用などで排出する温室効果ガスを、CO2換算ベースで4割近く削減できることが分かった(図)。自ら率先して「環境負荷の軽減に取り組む」(製造担当のPFUテクノワイズの北村寿史・総務部長兼情報システム室長)ことで、顧客企業に対する自社製品の訴求力を高める考えだ。実際、CO2削減効果が評価され、スキャナ製品と楽2ライブラリをセットにした案件の引き合いも増加している。
国内で急成長する情報キオスク端末は、スキャナ同様のグローバル展開を早い段階で目指す。実現するうえでカギとなるProDeSセンター機能の完成度を高め、海外拠点へ展開しやすくする必要がある。「いつでも海外へ展開できるようProDeSセンターにより磨きをかける」(北村室長)と鼻息が荒い。