6月9日、朝日新聞社が運営する「asahi.com」がリニューアルした。月間約3億ページビューを稼ぐ老舗ニュースサイトが、開設14年目で初めて大幅なテコ入れに動いた。その背景には「ニュースサイトのままでは大化けしない」という危機感があった。「総合情報サイト」への変貌──。小野高道・asahi.com編集長は、Webメディアの新しい形を追求し始めている。
ニュースサイトからの脱皮

1995年8月の開設で平均月間ページビューは約3億、ユニークユーザー数は800-900万。広告収入ほか有料コンテンツ販売、ネット通販によるアフィリエイトで売り上げを稼ぐ。今回のリニューアルで、社会・経済記事だけではなく娯楽情報などにもアクセスしやすくした。ページビューを毎月3億以上にすることを目標に掲げる。
「asahi.com」は主要新聞社が運営するニュースサイトのなかで最もアクセス数が多い。開設は1995年と古く、他社に先んじてWebメディアに着手した老舗でもある。6月9日、朝日新聞社はこの看板サイトをリニューアルした。「これまでも1年に1度は改良していたが、今回のような大規模なリニューアルは開設以来初めて」と小野高道・編集セクションマネジャーasahi.com編集長は語り、プロジェクトの重大性を強調する。
コンセプトは、「ニュースサイトから総合情報サイトへの転身」(小野編集長)。この背景にはある危機感がある。小野編集長は続ける。「単純なニュースサイトが今後大化けするのは難しい。ニュースを早く届ける姿勢は従来以上に強化する。ただ、それだけではダメ。ネットユーザーが好みそうなコンテンツも提供する総合情報サイトへ変わる必要がある」。
社会、経済記事だけでなくスポーツや芸能、ショッピングなどの娯楽情報も前面に押し出し、幅広いユーザーに受け入れられる総合情報のポータルとして生まれ変わらせようとしているわけだ。ライバル媒体として小野編集長があげるWebサイトは、読売新聞社の「YOMIURI ONLINE」ではなく、日本経済新聞社の「NIKKEI NET」でもない、「Yahoo! JAPAN」だったことに今回のリニューアルのコンセプトがうかがえる。
「asahi.com」の主なビジネスは、広告と有料コンテンツの販売、そしてネット通販によるアフィリエイト収入の3本柱。広告収入が全体の9割を占める。主な収入源の広告売り上げを増やすには、その単価指標になるページビュー増加が必須。そのためには、「朝日新聞」の中心読者である中高年男性だけでなく、若年層や中高年の主婦など新たな読者層を開拓する必要がある。今回のリニューアルは、この未開拓層にアプローチする目論見が込められている。
そのために、リニューアル後のトップページは娯楽やショッピング、スポーツなどのコンテンツにアクセスしやすいデザインに変更。画面の縦配列は従来は2列だったが、見やすさを追求して3列に切り替えた。有料コンテンツにもトップページからアクセスしやすいよう、ボタンを配置した。
Webサイトを運営するための情報システムも改良した。従来からコンテンツ配信として「Akamai」を採用し分散環境でWebサイトを動作させるシステムを稼働させていたが、リニューアルを機に新システムを導入。これまで1つのコンテンツに関連する記事やリンク、キーワードなどのレコメンド(推薦)情報の付加は手作業だったが、自動でコンテンツに紐付けられるようにした。サイト運営に携わる北元均・デジタルメディア本部編成セクションサイトディレクターは、「24時間稼働し更新が頻繁で、しかもアクセス数の変動が激しいWebメディアを維持するためには、分散環境でシステムを動かす必要がある。また、特にアクセス変動に対応するためにリソース管理も徹底している。SEOなど認知を高めるための仕組みに答えはない。手探りで改良している」と話している。
新聞社や雑誌社は今、発行媒体の部数減少と広告売り上げの減少が頭痛のタネ。それをカバーしようとWebメディアに活路を見出そうとしている。「『asahi.com』の売り上げは全社の売上高中、まだ数%。ただ、紙媒体の縮小傾向が続くなか、全社的な視点で見るとWebメディアは大きな可能性がある。いろんなことを試してダメだったらどんどん変える」と小野編集長は意欲を示している。
■プロフィール
1958年、東京都生まれ。84年、朝日新聞社入社。東京社会部記者や「be」編集部副編集長、「どらく」編集長などを経て07年4月から現職。共著に「孤高の王国」(朝日新聞社)、「入門ビートルズドリル」(ダイヤモンド社)など。
谷畑良胤/聞き手
木村剛士/文
大澤邦彦/写真