21都道府県の中小ソフトウェア開発会社が加盟する全国地域情報産業団体連合会(ANIA、会長=中村真規・デジック社長CEO)はこのほど、同連合会全体でソフト開発のジョイントベンチャー開発手法「IT‐JV(共同企業体)方式」の研究・実践を推進することを決めた。
6月下旬に札幌市で開催した全国大会で「共同声明」として宣言。下請け構造からの脱却や受注機会の拡大などを目指し、「新たな受注請負構造」の仕組みをつくる。共同受注した際の契約や利益配分の方法、「手戻り」などが発生した際の責任の所在など、課題は山積しているが、同方式を早急に全国展開することで一致した。
“下請け構造”脱却に全力
ANIAには、約1661社(2007年6月現在)が加盟。加盟社のほとんどは、2次、3次以降の下請けベンダーとして機能している中小ソフト開発会社。最近は、大手SIerの下請けであることによる収益配分の少なさや、開発コストが安価な中国やインドなどへの「オフショア開発」拡大の影響を受け、経営危機に直面するベンダーが少なくない。

このため、今回開催した全国大会「ANIA北海道大会」では、北海道情報システム産業協会(HISA)が「IT-JV方式」で大型案件を受注した事例(08年4月21日号で既報)を“叩き台”にして、下請け構造からの脱却や受注機会の拡大、公平な利益分配などを目指し、中小ソフト開発会社が生き残るための最善策として同方式を「業界標準」として定着させるべく議論をした。
同大会では全体会で、HISAで取り組んだ前述の事例が詳細に紹介された。HISAが事業化している「IT-JV方式」は、会員ベンダーが「元請け(プライム)」で道内外から獲得した大型案件をプライムベンダーが「営業情報」として概要を開示するところから始まる。次に、この案件に合致するノウハウ・技術を持つベンダーなどに参加意思表明の機会を与え、参加登録や秘密保持契約の締結を済ませたうえで、要員や受注規模の適正性を検証し、推進体制を組み、具体的な実施計画を立案する。
複数のソフト開発会社が集まり、「共同受注」するやり方は、これまでにも「協同組合」や「社団」「任意団体」などの方法が全国で取り入れられてきた。HISAの「IT-JV方式」が他と比べ特異性があるのは、「IT-JV管理委員会」と呼ぶ評価担当の「第三者機関」を置き、営業・受注、開発・管理、納品・保守などの局面に応じ、進捗状況や最終的な“完成品”の公平な評価と収益分配を行う。
全体会のあとに行われた分科会では、数県の代表者や札幌市の行政担当者らで、HISAの「IT-JV方式」の是非について意見交換した。各県の代表者によると、これまでにも協同組合や任意団体など共同出資を伴う「共同受注」のやり方が取り入れられてきた。こうした方式は、出資を募る土木関連の一時的な共同企業体「JV方式」と同じ方式で、自治体入札に加わるためなどに結成された例が大半という。
関東地方の某県では「6年前の臨時総会で(HISAの方式とは異なる)『IT-JV方式』を建議」して、実行に移し自治体や官公庁のホームページ作成案件などを受注した。しかし、中小ソフト開発会社は、経営難で出資すること自体が難しい。また、開発途中での「手戻り」などの事故の最終的責任をどこが担うのか、システム導入したあとの保守・サポート方法、“紳士協定”的な利益配分などに対する不満の声が依然として大きく、業界全体に浸透するまでには至っていない。
地域の中小ソフト開発会社の場合は、地元に民需が少なく自治体案件から収益を得ることが多い。このため、「入札に加われる方式にすべき」などの声も出た。実際、札幌市では、出資を伴わない「コンソーシアム方式」で入札に参加できるよう市の契約関係規定の見直しに着手した。ANIAは、同大会の議論を基に、「IT-JV方式」を「ITサミット共同声明」に盛り込み推進することになった。
広がりみせる「IT─JV方式」
収益はITSSを参考に配分を

全国地域情報産業団体連合会(ANIA)以外にも、「IT─JV方式」を掲げる団体はある。協同組合から株式会社に移行した約1800人の技術者主体の首都圏コンピュータ技術者(横尾良明会長)も、「下請けを多用する不透明な階層構造を是正し、受注拡大を狙う」と、大手SIerや情報システム子会社から得た案件を「二次請け」してJV方式で受注する活動を本格化。この先、「元請け(プライム)」での獲得も目指すという。
ANIAの場合は、「大型案件のプライムを取りにいく」という点で、規模感が異なる。だが、受注金額や求められるスキルをオープンにして、開発能力やスキルに応じて利益配分する仕組みは同じだ。ANIAでは、開発能力やスキルの判断をITスキル標準(ITSS)などに応じた配分方法を検討している。
土木関連のJV方式は、JVを組む前に設計書が存在し、そこに各業者が出資する。一方、ソフト開発は設計書(仕様書や要件定義、詳細設計)作成段階から共同で行うため、土木方式が当てはまらない。そこで、ANIAでは、開発工程のガイドライン作成方法や受注する営業体制・展開、受注する前後の第三者による評価(審判)などを、今後詰めていくことで一致した。HISAが行った「管理委員会」のような第三者機関については、「実力があり、中立的なITコーディネータに担ってもらうのはどうか?」など、具体的な意見が寄せられていた。
とはいえ、「IT─JV方式」にはまだ多くの課題が内在している。力のあるプライムベンダーが存在し、継続的に案件を獲得できるのかという営業面の課題や開発途中の事故や不採算発生時の責任の所在、官公庁・自治体がJV方式に入札を認めないなど、制度改正を含めて解消すべきことが多い。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)が施行されて以来、プライムの大手SIerが二次請け先へ“丸投げ”し、何もせずに受注額の一部を得るスタイルは消えつつある。逆に、下請けベンダーには仕事が回らず、コストの安い海外の「オフショア開発」に案件が流出。大手SIerは、同法施行に伴い、「協力会社」と称して囲い込んでいた下請けベンダーの数を、内部統制やコンプライアンス(法令遵守)体制が未整備であることを理由に縮小させている。
中小ソフト開発会社が生き残るには、粗利率の高いパッケージを開発したり、パッケージベンダーとの協業、新機軸のソリューションを打ち出すなど、業態変革の必要性が高まっている。しかし、大手・中堅SIerばかりに還流していた案件を、中小ソフト開発会社のノウハウを結集して共同受注することで、業務ノウハウも身につき、適正な利益配分が得られるなどで、この窮状を脱することができる可能性はある。
下請け構造をなくすうえで、ANIAだけでなく、IT業界全体での協力体制を築くべきと考える。
| 「ITサミット 共同声明」(一部抜粋) |
| 地方における下請け構造改善のため、各協会の協力のもとソフトウェアジョイントベンチャー開発手法である「IT‐JV方式」の研究・実践を積極的に推進し、新たな受注請負構造の創造を目指す。 |