中小規模のシステムでもサーバー仮想化技術の活用が日常的なものになる──。マイクロソフト(樋口泰行社長)が10月中旬に発表したサーバー仮想化戦略「Microsoft 360 Virtualization」では、ライバルのVMware(ヴイエムウェア)の同等製品に比べてコストを約3分の1に抑えた。マイクロソフトは、市場への浸透を加速するため、仮想化技術者向け認定プログラムで約2500人、セールス・エンジニア向け認定プログラムで約8000人を今後1年間で認定する大規模な“地上戦”を展開する。このうち後者は年内1000人を目標とする意欲的なもので、仮想化市場のすそ野を一気に拡大させる策に打って出た。(安藤章司/谷畑良胤●取材/文)
“地上戦”でVMwareを追撃
■中小規模領域へ浸透を 複数の仮想サーバー(=仮想マシン)を単一プラットフォーム上に動作させるサーバー仮想化技術は、これまで大規模システム向けが主だった。増えすぎたサーバーを統合し集中的に管理できることが評価され、この分野で先行するサーバー仮想化ソフトベンダーのヴイエムウェアが勢いよくシェアを伸ばしてきた。
だが今回、マイクロソフトが中小規模のシステムでも適用しやすいサーバー仮想化製品の品揃えを拡充。コストもライバルのヴイエムウェアの「約3分の1に抑えた」(マイクロソフトの五十嵐光喜・業務執行役員サーバープラットフォームビジネス本部長)と、価格競争力の高さを打ち出す。並行して主力製品のWindowsサーバーの販売でタッグを組んできたパートナーを具体的に支援して引き込み、サーバー仮想化製品を急拡大させて市場を制覇する計画だ。
マイクロソフトは仮想マシンのプラットフォームを比較的早くから打ち出していた。加えて、仮想マシンを統合的に管理する仕組みを10月中旬から大幅に強化。ヴイエムウェアに比べて弱いと指摘されてきた統合管理機能を充実させたことで互角の戦いにもっていく考え。
そこで期待されるのが、マイクロソフトが得意領域とする中小規模のシステムでのサーバー仮想化である。仮想化の技術面と導入ノウハウに関する認定プログラム「マイクロソフト認定テクノロジースペシャリスト」と「マイクロソフト認定アソシエイト」の関連コースを拡充。パートナーには、同社技術などを利用して仮想化ソリューションをしっかり提案できるエンジニアを育成する。マイクロソフトは、今後1年間での認定を目指す認定エンジニア約2500人、セールス・エンジニア約8000人を動員することで販売増を目指す。五十嵐・業務執行役員は「顧客の仮想化導入のハードルを下げることが普及のポイント」と、“地上戦”に臨むパートナーに戦術ノウハウを徹底伝授する。
■パートナーとタッグ組む NECや富士通、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、日本IBMなど主要サーバーベンダー9社も、マイクロソフトのサーバー仮想化システムへの対応を急ぐ。「ローエンドの1機種を除いて、ほぼすべての機種で『Hyper-V』に対応済み」(デルの宮本啓志・エンタープライズ&ソリューション・マーケティング本部長)としており、幅広い機種で対応が進むことになる。
サーバー仮想化はシステム負荷を計算し、必要なリソースを予測するなど一定の知識とノウハウが必要で、中小システムへの適用が遅れがちだった。しかし、サーバー仮想化は「拡張性が高く、変化適応型のインフラとして今後必須になる」(日本HPの松本芳武・執行役員エンタープライズストレージ・サーバ事業統括)と、すそ野の拡大が求められていた。Windows製品の技術者やビジネスパートナーの多さを武器に展開することで仮想化市場へのビジネス拡大が急ピッチで進みそうだ。
 | 大塚商会 認定者400人へ |
技術面や導入ノウハウまで具体化したマイクロソフトの仮想化戦略が示されたことを受け、実際に顧客の仮想化環境を提供するSIerや販売会社などが、相次ぎ対応策を表明している。 大塚商会は仮想化技術に関する認定資格者を400人に増強すると発表。サーバー仮想化機能「Hyper-V」を搭載した「Windows Server2008」の出荷を機に、「サーバー仮想化の導入が大幅に加速する」と判断したためだ。同社は、仮想化環境上でアプリケーションを動作確認する既存の機材・施設を「仮想化オープンラボ」に発展させ、無料のハンズオンスクールも開催する。 NECソフトは、マイクロソフトのクライアント仮想化技術の「SIパートナー」になることを決めた。マイクロソフトの「Windows Server2008 ターミナルサービス」などを使用し、クライアントOSの種別やリソース差異に左右されず仮想アプリケーションを使える環境を実現するという。同社のほか、「Hyper-V」のSIパートナーは、現時点で19社が登録している。 一方、アプリケーション開発側では、オービックビジネスコンサルタント(OBC)が中堅企業向けERP「奉行V ERPシリーズ」が「Hyper-V」での動作に正式サポートし、早期対応したと発表した。同社は「顧客のシステム環境の集約化によるコスト削減や電力消費低減などをPRし、導入を促進する」と、既存の販売パートナーやSIerと仮想化環境の提供を拡大する方針だ。 |