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【SaaS特集】SaaSは誰が売るのか?
2008/12/08 14:53
週刊BCN 2008年12月08日vol.1263掲載
2007年に「離陸」した国内のSaaS市場。ここから約2年を経て、国内には「SaaSプレイヤー」が急速に現れた。各ベンダーは「SaaS」を“枕詞”にした製品やサービス、アウトソーシングなどの提供を開始。しかし、国内IT業界のかけ声は大きくなる一方で、「誰が売るのか?」という議論が決定的に不足している。SaaS先進国の米国と異なり、わが国にはソフトウェア販社の「再販モデル」が存在する。これを生かすか壊すか――それが問われている。
SaaS提供、系列経由で始動
富士通とNECの「再販モデル」
富士通とNECのSaaSビジネスは、開発体制や系列販社を介した「再販モデル」を進めることを含め、酷似した展開が予想される。一方、経済産業省が巨費を投じて推進するSaaS基盤事業では、ITコーディネータ(ITC)や税理士など「士業」と呼ばれる販売経路を模索。両系統を含め国内IT業界の特質に応じてさまざまなSaaS販売が展開されそうだ。
国内コンピュータメーカーのうち、富士通とNECのSaaSビジネスに関する動きは酷似している。システム開発だけでなく「売り手」が伴う「再販モデル」も含めてだ。今春、両社はアプリケーションをSaaS型でサービス提供するためのIT基盤を自社開発すると発表。その段階で自社基盤で動かす他社製アプリケーションも公表した。SaaS基盤は自社開発し、アプリケーションは自社製品に限らずISV(独立系ソフトウェアベンダー)を募集しメニューを揃えるというわけだ。両社ともすでに、SaaS基盤を共に開発するための協力会社と基盤上で動かすアプリケーションの募集に動いており、順調に開発が進む。今後の焦点は「どう売るか」、つまり「再販モデル」をどう構築するかに移っている。
両社は、オフコン時代から関係がある全国規模の販社を多く抱える。従来、ハード販売でつき合いがあるこれら系列販社にSaaS型のサービスを取り扱ってもらえるように策を練っている。富士通は、今回のSaaS事業のパートナー制度の1メニューとして、「リセールパートナー」を整備。販売パートナーを事業成功の重要な柱と位置づけている。一方のNECは従来、富士通が他社アプリケーションを自社系列販社で拡販するのに対し、系列経由よりISVの販路に重きを置いていた。今回のSaaS展開では系列販社からアプリケーション販売することを明言している。
一方、経済産業省も自らSaaS基盤構築に動いている。中小企業のIT化の遅れを解決するためにSaaSに着目。同省自らがSaaS基盤を構築、普及・啓蒙を手がけることで、50万社の中小企業にSaaS型サービスを利用してもらおうと構想している。今年度から3か年計画で始まったプロジェクトで、すでに基盤上で動くアプリケーションも決まり、基盤の開発会社が富士通に決定。現在、基盤を開発している真っ最中で、早ければ今年度内にいくつかのSaaS型サービスが始まる見通しだ。
経産省が進めるSaaS事業は、国が進める施策だけに、売る方法もNECや富士通とは動きが異なる。約7000人いる全国のITコーディネータ(ITC)や商工会/商工会議所、税理士などが中小企業ユーザーに提案・販売する仕組みを構築しようとしているのだ。12月からは約2億円を費やして、今回のSaaS型サービスの概要やメリットを中小企業に説明する研修事業をスタートさせる予定だ。あるITCは「SaaSは手離れがよく、ぜひ売りたい」と話す。全国規模で点在するITCや税理士の多くが関心を持てば、一気に普及する可能性も見えてくる。
クラウド前夜のSaaS基盤
日本ユニシス、「売り手」に食指
日本ユニシスが構想する「PaaS(Platform as a Service)事業」は、単にSaaS(Software as a Service)を提供する場をつくるデータセンターの“場所貸し”とは異なる。ハードウェアやソフトウェアメーカー、SIer、通信事業者らと技術力を結集するほか、将来的に販売代理店が他の「クラウド・サービス」を組み合わせて、SIerなど「売り手」が新サービスをユーザー企業に提供できる仕組みにしようとしている。
中堅・中小企業(SMB)市場を新開拓する領域として、日本ユニシスは「PaaS事業」に踏み切った。今秋、「次世代IDC(データセンター)基盤」と銘打ち、PaaS構築をスタート。シングルサインオンや課金機能などを有するSaaSプラットフォーム「Kit Application Service Platform」を提供するきっとエイエスピー(きっとASP)と協業したほか、SIerなど複数ベンダーと手を組んだ。しかし、日本ユニシスにとってSMBへの「攻め」は得意分野ではなく、「売り手」となる販売代理店経由のビジネスモデルの構築が課題だ。
日本ユニシスはこれまで、中堅・大企業を中心としたビジネスに傾注してきた。そのためSMBを開拓するために代理店施策などの体制が不十分。今回の「PaaS事業」では、この問題点を克服するため「ビジネスパーク」と称する中小SIerなどを代理店として囲い込む仕組みを構想した。
同社の角泰志・常務執行役員ICTサービス本部長は「SMB市場という新しい事業領域に参入し開拓するためにPaaS事業をつくる。当社が掲げるSI(システム構築)とNI(ネットワーク構築)を融合させたICT(情報通信技術)サービスを拡大するのが最大の目的。並行して代理店を確保することも主眼としている」と、新たな領域への進出に向けSaaSの「売り手」確保が最大の焦点となっている。
一方、きっとASPと協業して展開するのも日本ユニシスにとって代理店を獲得するうえで有利になる。きっとASPでは、データセンターを借りて同社のSaaS基盤を乗せることで従量課金制のSaaS事業を容易に開始できる「SaaS事業提携グループ構想」を掲げている。この構想に「売り手」の多くが賛同することで、日本ユニシスのPaaS基盤上に場所を借りてビジネスを展開するプレイヤーを増やすことができる。このような形で代理店開拓の苦手な日本ユニシスでも「売り手」を集めることが可能となる。
この「ビジネスパーク」に参加する具体的なベンダー名や数は現段階で明らかにしていない。ただ、「現在、精査をしている段階。年明けをめどに発表できる」(広報関係者)と、今年度(09年3月期)で「売り手」を含めた基盤や体制にめどをつけ来年度早々の本格稼働を計画する。既存事業で、すでに販売代理店網を構築している富士通やNECなどとは異なる戦略で、SaaSを含め将来の「クラウドサービス」に向けた事業化を目指す。
既存ITとSaaS融合で活路
開発系SIerの新サービス
これまでクライアント/サーバー(C/S)型で動くユーザー企業の既存システムに他社製品をアドオンしたり受託システム開発などで生計を立ててきたSIer。セールスフォース・ドットコムが国内に普及したここ1~2年は、既存システムとSaaSを“つなぐ”ビジネスで活路を見い出している。SaaS製品を出すアプリケーションベンダーは、新たな販路として開発系SIerの存在を視野に入れる必要が出てきた。
SIerのSaaSビジネスが拡大している。SaaS型で提供されているメールやグループウェア、SFA(営業支援システム)などフロントエンド系システムの販売代理を手がけるケースが増えている。ユーザー企業の基幹業務システムや既存システムとSaaSのつなぎ込みをSIer自らが実施。特に、これまで受託システム開発を得意としてきた開発系SIerでは、主力のSI(システム構築)案件や自社データセンターを活用したアウトソーシングビジネスに呼び込み収益力を上げるビジネスモデルに仕立てる動きが鮮明になっている。
11月に都内で開催されたグーグルのイベント「Google Enterprise Day 2008」には、富士ソフトやサイオステクノロジー、富士通グループのジー・サーチなどがビジネスパートナーとして参加。サイオスはイベントに先立ち、立教大学に既存システムと「Google Apps」(電子メールやカレンダーなど)を連携させるSIを行ったと発表した。学生や教職員など3万4000人が登録・利用を開始。同社は、立教大学に先だって京都府立医科大学でも同様のSIを手がけるなどSaaS型のサービス展開をベースとしたビジネスに結びつけている。
SaaSを巡っては、日立ソフトウェアエンジニアリングが業界に先駆けてセールスフォース・ドットコムと提携。富士ソフトは今年6月、大手SIerとして初めてグーグルと販売代理契約を結んだ。11月には東京・秋葉原の事業所内に「クラウドコンピューティングセンター」を開設。シンクライアントやサーバー仮想化、データセンタービジネスなど「クラウド関連ビジネス全般を拡大」(同社)させる。富士通ビジネスシステム(FJB)もSaaSベンダーのネットスイートのビジネスパートナーに加わり、「SaaS事業の強化」(鈴木國明社長)を図っている。
データセンター事業に強い日立情報システムズは、自社データセンターをベースにした「プール化構想」を着々と具現化する。プール化構想は、「クラウドコンピューティング」に通じるアーキテクチャ。その実現に欠かせない基盤技術のサーバー仮想化に率先して取り組む。10月には仮想化ソフトベンダーのヴイエムウェアの販売パートナー向け最上位資格「VMwareプレミアムパートナー」を取得。SaaS型のサービスと既存の業務システムを組み合わせた独自のサービス体系を構築しようと作業を急ピッチで進めている。ユーザー企業から引きが強いSaaS型サービスを切り口に「主力のSIやアウトソーシングにつなげる」(原巖社長)と、意欲を示す。
一足早くSaaS提供が浸透
セキュリティ大手3社の展開
セキュリティメーカー大手は、ユーザー企業各社にセキュリティ製品をパッケージ販売する方式から、ASP/SaaS型で脅威を防止・監視するサービスの提供を強化している。すでに多くの販売会社から国内に展開されており、普及は他のSaaSサービスに比べて早いようだ。
外資系セキュリティ大手は国内でSaaS普及に向けた製品・販売戦略を本格化している。マカフィーとトレンドマイクロはウイルスや迷惑メールなどさまざまなリスクのセキュリティ対策環境を提供するSaaS製品をユーザー企業に販売。一方、シマンテックは買収したストリーミング製品と仮想化製品で、既存アプリケーションをWebサービスとして利用できる環境などを提供する。
シマンテックは昨年、SaaS事業に本格進出すると発表した。Windowsアプリケーションをオンデマンドでストリーミング配信する技術を有する米アップストリーム社を買収し、今年に入って自社製品として「Symantec Workspace Streaming」を世界に向けて売り出した。シトリックス・システムズやマイクロソフトの「ターミナル・サービス」に類する製品として、SaaS事業の展開を検討する業務アプリケーションベンダーに「すぐにSaaSが始められる」手段として利用を促していく。さらに今年10月には、SaaS型メールセキュリティ大手の英メッセージラボ社を買収。シマンテックのSaaS基盤「Protection Network」にメッセージラボの技術や製品が搭載される。
外資系ベンダーのうち国内のSaaS展開で先行するマカフィーは、アンチウイルスやデスクトップファイアウォールなどをSaaS型で提供可能なサービスとする「トータルプロテクションサービス(ToPS Service)」を展開。販売店のブランドなどに置き換えられて顧客に利用されている。同社はSOC(Security Operation Center)から提供する。すでに、リコーテクノシステムズやダイワボウ情報システム、NECフィールディングなど全国展開する保守サービス会社や、ディストリビュータ経由で販売されている。
トレンドマイクロは、主に中規模企業向けに同社データセンターからホスティング方式で提供するメールセキュリティ対策サービス「InterScan Messaging Hosted Security」を展開している。迷惑メールがユーザー企業に届く前にブロックするASP/SaaS型システムで、現在は大塚商会やリコーなどから普及が図られている。この先はビジネス拡大のため、ISP各社との協業も視野に入れている。最近では、同社のウェブ、電子メール、ファイルの評価データベースを連携して脅威を防ぐSaaS型セキュリティアーキテクチャ「Smart Protection Network」を利用したソリューションの国内提供を計画。SaaS事業の拡大・拡充を目指す。すでに、パートナー経由で、ユーザー企業にサービスとして展開を強化している。
SaaS提供、系列経由で始動
富士通とNECの「再販モデル」
富士通とNECのSaaSビジネスは、開発体制や系列販社を介した「再販モデル」を進めることを含め、酷似した展開が予想される。一方、経済産業省が巨費を投じて推進するSaaS基盤事業では、ITコーディネータ(ITC)や税理士など「士業」と呼ばれる販売経路を模索。両系統を含め国内IT業界の特質に応じてさまざまなSaaS販売が展開されそうだ。
国内コンピュータメーカーのうち、富士通とNECのSaaSビジネスに関する動きは酷似している。システム開発だけでなく「売り手」が伴う「再販モデル」も含めてだ。今春、両社はアプリケーションをSaaS型でサービス提供するためのIT基盤を自社開発すると発表。その段階で自社基盤で動かす他社製アプリケーションも公表した。SaaS基盤は自社開発し、アプリケーションは自社製品に限らずISV(独立系ソフトウェアベンダー)を募集しメニューを揃えるというわけだ。両社ともすでに、SaaS基盤を共に開発するための協力会社と基盤上で動かすアプリケーションの募集に動いており、順調に開発が進む。今後の焦点は「どう売るか」、つまり「再販モデル」をどう構築するかに移っている。
両社は、オフコン時代から関係がある全国規模の販社を多く抱える。従来、ハード販売でつき合いがあるこれら系列販社にSaaS型のサービスを取り扱ってもらえるように策を練っている。富士通は、今回のSaaS事業のパートナー制度の1メニューとして、「リセールパートナー」を整備。販売パートナーを事業成功の重要な柱と位置づけている。一方のNECは従来、富士通が他社アプリケーションを自社系列販社で拡販するのに対し、系列経由よりISVの販路に重きを置いていた。今回のSaaS展開では系列販社からアプリケーション販売することを明言している。
一方、経済産業省も自らSaaS基盤構築に動いている。中小企業のIT化の遅れを解決するためにSaaSに着目。同省自らがSaaS基盤を構築、普及・啓蒙を手がけることで、50万社の中小企業にSaaS型サービスを利用してもらおうと構想している。今年度から3か年計画で始まったプロジェクトで、すでに基盤上で動くアプリケーションも決まり、基盤の開発会社が富士通に決定。現在、基盤を開発している真っ最中で、早ければ今年度内にいくつかのSaaS型サービスが始まる見通しだ。
経産省が進めるSaaS事業は、国が進める施策だけに、売る方法もNECや富士通とは動きが異なる。約7000人いる全国のITコーディネータ(ITC)や商工会/商工会議所、税理士などが中小企業ユーザーに提案・販売する仕組みを構築しようとしているのだ。12月からは約2億円を費やして、今回のSaaS型サービスの概要やメリットを中小企業に説明する研修事業をスタートさせる予定だ。あるITCは「SaaSは手離れがよく、ぜひ売りたい」と話す。全国規模で点在するITCや税理士の多くが関心を持てば、一気に普及する可能性も見えてくる。
クラウド前夜のSaaS基盤
日本ユニシス、「売り手」に食指
日本ユニシスが構想する「PaaS(Platform as a Service)事業」は、単にSaaS(Software as a Service)を提供する場をつくるデータセンターの“場所貸し”とは異なる。ハードウェアやソフトウェアメーカー、SIer、通信事業者らと技術力を結集するほか、将来的に販売代理店が他の「クラウド・サービス」を組み合わせて、SIerなど「売り手」が新サービスをユーザー企業に提供できる仕組みにしようとしている。
中堅・中小企業(SMB)市場を新開拓する領域として、日本ユニシスは「PaaS事業」に踏み切った。今秋、「次世代IDC(データセンター)基盤」と銘打ち、PaaS構築をスタート。シングルサインオンや課金機能などを有するSaaSプラットフォーム「Kit Application Service Platform」を提供するきっとエイエスピー(きっとASP)と協業したほか、SIerなど複数ベンダーと手を組んだ。しかし、日本ユニシスにとってSMBへの「攻め」は得意分野ではなく、「売り手」となる販売代理店経由のビジネスモデルの構築が課題だ。
日本ユニシスはこれまで、中堅・大企業を中心としたビジネスに傾注してきた。そのためSMBを開拓するために代理店施策などの体制が不十分。今回の「PaaS事業」では、この問題点を克服するため「ビジネスパーク」と称する中小SIerなどを代理店として囲い込む仕組みを構想した。
同社の角泰志・常務執行役員ICTサービス本部長は「SMB市場という新しい事業領域に参入し開拓するためにPaaS事業をつくる。当社が掲げるSI(システム構築)とNI(ネットワーク構築)を融合させたICT(情報通信技術)サービスを拡大するのが最大の目的。並行して代理店を確保することも主眼としている」と、新たな領域への進出に向けSaaSの「売り手」確保が最大の焦点となっている。
一方、きっとASPと協業して展開するのも日本ユニシスにとって代理店を獲得するうえで有利になる。きっとASPでは、データセンターを借りて同社のSaaS基盤を乗せることで従量課金制のSaaS事業を容易に開始できる「SaaS事業提携グループ構想」を掲げている。この構想に「売り手」の多くが賛同することで、日本ユニシスのPaaS基盤上に場所を借りてビジネスを展開するプレイヤーを増やすことができる。このような形で代理店開拓の苦手な日本ユニシスでも「売り手」を集めることが可能となる。
この「ビジネスパーク」に参加する具体的なベンダー名や数は現段階で明らかにしていない。ただ、「現在、精査をしている段階。年明けをめどに発表できる」(広報関係者)と、今年度(09年3月期)で「売り手」を含めた基盤や体制にめどをつけ来年度早々の本格稼働を計画する。既存事業で、すでに販売代理店網を構築している富士通やNECなどとは異なる戦略で、SaaSを含め将来の「クラウドサービス」に向けた事業化を目指す。
既存ITとSaaS融合で活路
開発系SIerの新サービス
これまでクライアント/サーバー(C/S)型で動くユーザー企業の既存システムに他社製品をアドオンしたり受託システム開発などで生計を立ててきたSIer。セールスフォース・ドットコムが国内に普及したここ1~2年は、既存システムとSaaSを“つなぐ”ビジネスで活路を見い出している。SaaS製品を出すアプリケーションベンダーは、新たな販路として開発系SIerの存在を視野に入れる必要が出てきた。
SIerのSaaSビジネスが拡大している。SaaS型で提供されているメールやグループウェア、SFA(営業支援システム)などフロントエンド系システムの販売代理を手がけるケースが増えている。ユーザー企業の基幹業務システムや既存システムとSaaSのつなぎ込みをSIer自らが実施。特に、これまで受託システム開発を得意としてきた開発系SIerでは、主力のSI(システム構築)案件や自社データセンターを活用したアウトソーシングビジネスに呼び込み収益力を上げるビジネスモデルに仕立てる動きが鮮明になっている。
11月に都内で開催されたグーグルのイベント「Google Enterprise Day 2008」には、富士ソフトやサイオステクノロジー、富士通グループのジー・サーチなどがビジネスパートナーとして参加。サイオスはイベントに先立ち、立教大学に既存システムと「Google Apps」(電子メールやカレンダーなど)を連携させるSIを行ったと発表した。学生や教職員など3万4000人が登録・利用を開始。同社は、立教大学に先だって京都府立医科大学でも同様のSIを手がけるなどSaaS型のサービス展開をベースとしたビジネスに結びつけている。
SaaSを巡っては、日立ソフトウェアエンジニアリングが業界に先駆けてセールスフォース・ドットコムと提携。富士ソフトは今年6月、大手SIerとして初めてグーグルと販売代理契約を結んだ。11月には東京・秋葉原の事業所内に「クラウドコンピューティングセンター」を開設。シンクライアントやサーバー仮想化、データセンタービジネスなど「クラウド関連ビジネス全般を拡大」(同社)させる。富士通ビジネスシステム(FJB)もSaaSベンダーのネットスイートのビジネスパートナーに加わり、「SaaS事業の強化」(鈴木國明社長)を図っている。
データセンター事業に強い日立情報システムズは、自社データセンターをベースにした「プール化構想」を着々と具現化する。プール化構想は、「クラウドコンピューティング」に通じるアーキテクチャ。その実現に欠かせない基盤技術のサーバー仮想化に率先して取り組む。10月には仮想化ソフトベンダーのヴイエムウェアの販売パートナー向け最上位資格「VMwareプレミアムパートナー」を取得。SaaS型のサービスと既存の業務システムを組み合わせた独自のサービス体系を構築しようと作業を急ピッチで進めている。ユーザー企業から引きが強いSaaS型サービスを切り口に「主力のSIやアウトソーシングにつなげる」(原巖社長)と、意欲を示す。
一足早くSaaS提供が浸透
セキュリティ大手3社の展開
セキュリティメーカー大手は、ユーザー企業各社にセキュリティ製品をパッケージ販売する方式から、ASP/SaaS型で脅威を防止・監視するサービスの提供を強化している。すでに多くの販売会社から国内に展開されており、普及は他のSaaSサービスに比べて早いようだ。
外資系セキュリティ大手は国内でSaaS普及に向けた製品・販売戦略を本格化している。マカフィーとトレンドマイクロはウイルスや迷惑メールなどさまざまなリスクのセキュリティ対策環境を提供するSaaS製品をユーザー企業に販売。一方、シマンテックは買収したストリーミング製品と仮想化製品で、既存アプリケーションをWebサービスとして利用できる環境などを提供する。
シマンテックは昨年、SaaS事業に本格進出すると発表した。Windowsアプリケーションをオンデマンドでストリーミング配信する技術を有する米アップストリーム社を買収し、今年に入って自社製品として「Symantec Workspace Streaming」を世界に向けて売り出した。シトリックス・システムズやマイクロソフトの「ターミナル・サービス」に類する製品として、SaaS事業の展開を検討する業務アプリケーションベンダーに「すぐにSaaSが始められる」手段として利用を促していく。さらに今年10月には、SaaS型メールセキュリティ大手の英メッセージラボ社を買収。シマンテックのSaaS基盤「Protection Network」にメッセージラボの技術や製品が搭載される。
外資系ベンダーのうち国内のSaaS展開で先行するマカフィーは、アンチウイルスやデスクトップファイアウォールなどをSaaS型で提供可能なサービスとする「トータルプロテクションサービス(ToPS Service)」を展開。販売店のブランドなどに置き換えられて顧客に利用されている。同社はSOC(Security Operation Center)から提供する。すでに、リコーテクノシステムズやダイワボウ情報システム、NECフィールディングなど全国展開する保守サービス会社や、ディストリビュータ経由で販売されている。
トレンドマイクロは、主に中規模企業向けに同社データセンターからホスティング方式で提供するメールセキュリティ対策サービス「InterScan Messaging Hosted Security」を展開している。迷惑メールがユーザー企業に届く前にブロックするASP/SaaS型システムで、現在は大塚商会やリコーなどから普及が図られている。この先はビジネス拡大のため、ISP各社との協業も視野に入れている。最近では、同社のウェブ、電子メール、ファイルの評価データベースを連携して脅威を防ぐSaaS型セキュリティアーキテクチャ「Smart Protection Network」を利用したソリューションの国内提供を計画。SaaS事業の拡大・拡充を目指す。すでに、パートナー経由で、ユーザー企業にサービスとして展開を強化している。
2007年に「離陸」した国内のSaaS市場。ここから約2年を経て、国内には「SaaSプレイヤー」が急速に現れた。各ベンダーは「SaaS」を“枕詞”にした製品やサービス、アウトソーシングなどの提供を開始。しかし、国内IT業界のかけ声は大きくなる一方で、「誰が売るのか?」という議論が決定的に不足している。SaaS先進国の米国と異なり、わが国にはソフトウェア販社の「再販モデル」が存在する。これを生かすか壊すか――それが問われている。
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