国内でSaaSが本格的な「導入フェーズ」に入るには「売り手」の仕組みをどう構築するかにかかっている――。国内の「SaaS論争」で先頭に立つコンピュータソフトウェア協会(CSAJ)の前川徹・専務理事ときっとエイエスピー(きっとASP)の松田利夫社長の専門家2人は、こうした共通見解をもつ。経済産業省のSaaS事業は、SaaS普及のトリガー(引き金)になる可能性はある。しかし、民間レベルを含め課題は山積している。両氏にSaaSを国内で根づかせる手がかりを聞いた。
コンピュータソフトウェア協会(CSAJ) 前川 徹専務理事
「SaaSコンサル」育成すべし
経産省の基盤が起点 ――国内のIT業界では「SaaSブーム」がピークに達している。 前川 IT業界ではこうしたブームが冷めた頃、きちんと使う人の利用が始まり、暫くして活用できていることを見て市場が上昇傾向に向かう。いまはブームがピークを越えた頃と見ている。
――そうすると、次は本格的な「導入フェーズ」に入るということか。 前川 それでもSaaS市場は着実に成長している。次のピークがくるのは、来年のはじめにかけて経済産業省のプロジェクト「SaaS活用基盤利用促進研修事業」などが立ち上がり、中小企業の利用者が順調に伸びる頃と予測している。
――経産省の同事業の普及が円滑に進むかどうか、疑問視するIT業界関係者も少なくない。 前川 従業員20人以下の中小企業では、パソコンが使えない経営者がまだ多い。同事業は、普及段階で「はいどうぞ、使ってください」といって使える状態にならないだろう。そうすると、必ず使い方の指導者やユーザー企業に適したアプリケーションを選定する人の存在が必要になる。
――ITコーディネータ(ITC)などは、その役割を担う人材として適任といえないか。 前川 確かにITCの役割は重要だが、ITCの場合、中小企業の上位層を対象にしているので、零細企業まで手がけるための支援が必要になる。
――同事業は「売る人」を意識した人的体制の整備も行うそうだが。 前川 経産省の実状をいえば、現段階では情報システム(SaaS基盤)の仕組みづくりを急いでいる。次の段階で「普及のための仕組みづくり」に入るはずだ。例えば、「SaaSコンサルタント」というような人を育成することになるだろう。
――CSAJには国内ソフトウェアベンダーが集結している。同ベンダーには多くの販社がいる。したがって、SaaS基盤を提供する「売り手」を考えるうえで重要な立場にある。 前川 CSAJの立場からすると、ソフトベンダーに加え「ユースウェア協会」が昨年7月に合併したので、人的な資産を抱えている。この資産をSaaSの普及で役立てるといい。さらにいえば、中小企業と頻繁に接している日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)などとの役割分担が必要になるはずだ。
――経産省以外にもSaaS基盤は、あちらこちらに出来上がっている状況だが。 前川 各社のSaaS基盤は、SaaSを販売した時のインセンティブをどう配分するかというシステムづくりが、まだ不十分のように思う。米国のSaaSの「売り方」はプッシュ型でなく、Webサイトにユーザー企業が訪れ買い求める方式。しかし、日本のSaaSの「売り方」は何か違う。日本では誰かが使うように仕向けないと導入されない。
きっとエイエスピー(きっとASP) 松田利夫 社長
「売り方」の議論希薄
ストアモデル構築が必須 ――国内でSaaSを提供するプレイヤーは揃った。あとは「どう売るか」だが。 松田 当社はSaaSをデリバリ(配信・提供)する技術モデルを追ってきた。ここにきて、デリバリに必要な技術は見えてきた。ところが、国内市場でどんなSaaSモデルをつくり、どう売るかという議論を誰もしていない。
――どのような形で「売り方」が国内市場で鮮明化するのか。 松田 トリガー(引き金)としては、ITコーディネータ(ITC)協会やコンピュータソフトウェア協会(CSAJ)を中核に組織連携し肉づけすることが一つの方向性になる。こうした組織化がなければ、ユーザー企業サポートを伴った普及にならない。
――富士通やNECなどのPaaS(Platform as a Service)ベンダーは、「売り手」を確保する手段としてITCなどと連携できないのか。 松田 不思議なことに、大手コンピュータメーカーは『売り方』を仕掛けていないようだ。PaaSを構築した某メーカーの担当者の話を聞くと、PaaSは「マーケットプレイス(ストアモデル)」だと、その重要性にようやく気づき始めた。多くのPaaSは、データセンター側のサーバーファームにすぎず、ITCなどに利用を提案できない。
――国内でSaaSが本格的な「導入フェーズ」に入るのはまだ先か。 松田 これまでの動きを見ると、来年3月までに、「導入フェーズ」に入ることはあり得ないだろう。経済産業省は国税電子申告・納税システム「e―Tax」につなぐのが目的で、必要なアプリケーションは会計パッケージという範囲。会計パッケージは特に、ユーザー企業の側に立って導入支援する人がいなければ普及するのは難しい。
――まだまだ課題は多い、と。 松田 マルチテナントで「ストアモデル」を実施する場合、ただ売るだけでなくユーザー管理などが必要になり、その複雑さに国内IT業界は気づいていない。当社はITCなどにも、SaaSを商売とする場合、負担のない価格でこうしたストアを提供できる。
――日本の市場に応じたSaaSの流通モデルを真剣に考える時期ということか。 松田 売るモデルを考える場合、現在の流通モデルを変えるのか、それとも生かすのかという議論が個別にはあっても、業界共通認識として展開されていない。そこは、米国と市場の状況が異なるので、同じことをすれば昔のように国内にバラバラのASPが立ち上がり失敗する。ユーザー企業からすれば、1社のベンダーから購入しワンストップでサポートを受けたいと考えているはずだ。