ITシステム販社によるクラウドコンピューティングのビジネスモデルになり得る協業事例が登場した。S&Iは、このほどサービスプロバイダのジュピターテレコム(J:COM)およびデータセンターと組んで気象庁から「緊急地震速報システム」の案件を獲得。J:COMの回線を使ってデータセンターからアプリケーションをASPで提供する仕組みを構築した。サービスを受ける側に対するクライアント端末の設置やネットワークインフラの構築をインテグレータのS&Iが担当することになる。
S&Iが現場をハンドリング
「緊急地震速報システム」のASP提供は、気象庁が全国の各公共機関に向けての地震情報の通報手段を模索した結果、構想が持ち上がった。本来ならば、気象庁が庁内システムをリプレースする予定だったが、専用システムを構築するとなれば莫大な費用が必要となる。そこで、アプリケーションをASP化して公共機関に提供していくことを選択。ベンダーに発注をかけた。その案件を獲得したのが、J:COMをプライマリーベンダーとし、あるデータセンターとS&Iが加わった3社による協業体制だった。
S&IとJ:COMがパートナーシップを組んだのは、S&Iがサービスプロバイダ向け事業を得意としており、J:COMと取引関係があったことが背景にある。しかも、J:COMとS&Iともに公共機関向け事業を強化しようとしていた矢先だった。また、S&Iは地震速報のコンテンツをASP提供するため、既存顧客でもあるデータセンターに話を持ちかけたのだ。
こうしてできあがった“3社連合”がまず提供していく先は、東京都内の小学校や中学校をはじめとした教育機関。来年度から本格的なサービスを開始する。各学校に地震速報を知らせるためのフォトフレーム型専用端末を設置するほか、ネットワークインフラの増強も進めていく。この“現場”のインテグレーションを担当するのはS&Iとなる。このサービスが成功すれば、東京以外の教育機関にユーザーのすそ野が広がるほか、各地域の公共施設や病院などが導入する確率が高い。また、学習塾やショッピングモールなど企業でもニーズが出てきそうだ。コンテンツに関しては、地震速報だけでなく防災をテーマに拡充できる可能性を秘めている。
現段階では、アプリケーション配信が1種類であることからASPサービスにとどめているが、コンテンツが増えればSaaSプラットフォームを活用したサービス提供にシフトする模様だ。こうした流れで進むなか、3社協業による今回のビジネスモデルは、各社がそれぞれの強みを生かして事業を展開できることがポイントになる。具体的には、J:COMが回線の提供、データセンターがプラットフォームの提供、S&Iがインテグレーションの提供などといった具合だ。
インテグレーション事業をメインとするSIerにとって、カギを握るのがS&Iのポジション。同社にとっては、ユーザーへの端末設置やネットワークインフラの構築を手がけることに加え、課金方式の基本料金を参加ベンダーで配分する“レベニューシェア”の獲得でストックビジネスにもつながることになる。これは、アプリケーション配信が可能な“土台”を整備するためにJ:COMとデータセンターを結びつけたという点で大きな役割を果たした成果といえる。こうした“ハンドリング”は、近い将来に訪れるといわれている「クラウドコンピューティング時代」で製品・サービス販社のビジネスモデルの一つになりそうだ。