開発系SIerの2009年の業界天気は「雨ところにより曇り」。メガバンクの基幹システム統合の大型プロジェクトがほぼ終了した後で、かねてからSE・プログラマの余剰感が強まると見られていた。この“2009年問題”に追い打ちをかけるかのように“世界同時不況”が開発系SIerに襲いかかる。大手SIerトップには、前者の影響で数%、後者で数%の引き下げ要因になるとすれば、開発系SIerの市場規模は前年同期比でマイナス5%程度に達する可能性を指摘する見方もある。(安藤章司●取材/文)
開発系SIer 雨ところにより曇り
ダブルパンチが直撃 “マイナス5%”あり得る
サスペンド案件が表面化 経済産業省の特定サービス産業動態統計による2008年9月の情報サービス業の売上高は前年同月比で9か月ぶりのマイナス成長になった。10月も引き続き前年同月を下回っており、開発系SIerにとっての受注環境は「月を追うごとに悪化している」(SIer幹部)と切実だ。NTTデータの山下徹社長は、「2009年問題と世界同時不況が重なったことで、単月ベースでみて最悪マイナス5%程度の落ち込みは覚悟すべきではないか」と受け止めている。
1990年代のバブル経済の崩壊、2000年台のITバブルの反動など、過去20年弱の間に情報サービス産業は2回の大きな試練を経験した。これまでは顧客ターゲットの業界の景気変調から半周(半年)遅れでIT業界に影響が現れると言われていたが、今回はほぼリアルタイムに伝播。08年9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻、トヨタ自動車の業績悪化が引き金となった11月の“トヨタショック”と、実体経済への打撃と歩調を合わせる形で情報サービス産業にも影響が出てきた。ある大手SIer幹部は、「第2四半期(08年7~9月期)から異変は感じていたが、08年10月からは受注環境の悪化が現実のものとして目の前に現れた」と明かす。
こうした状況から09年の業界天気は「雨ところにより曇り」。今期(09年3月期)中は、赤字転落を回避するために「計画した投資案件を一時サスペンド(停止)するケースが少なくない」(JFEシステムズの岩橋誠社長)と話す。
ただ、すべての投資案件が来期も引き続き凍結されるわけではなさそうだ。09年4月以降はサスペンドした案件のなかから優先順位がつけられて徐々に動き出す可能性がある。JFEスチールをはじめ鉄鋼メーカーも減産体制に入っているが、「これまでの能力限界の生産から巡航速度に戻したという段階に過ぎない」(岩橋社長)と冷静に受け止める。生産能力の増加につながる投資は先送りされても、コスト削減や経営の透明性を高めるIT投資の再開は期待できる。
「攻め」と「守り」の明確化 市場の変化を受けて、SIerの自己防衛策も次々打ち出されている。日立ソフトウェアエンジニアリングは、不測の事態に備えた「緊急時対応プラン」を全社に発令。商談の状況や進行中のプロジェクトのリスク洗い出しに努める。「少しでもリスクが顕在化したら対応策を発動する」(小野功社長)仕組みを稼働させている。受注競争が激しさを増すと、どうしても価格競争に陥りがちである。かつユーザー企業から進行中のプロジェクトのコストダウンや一時保留を要請されることもあり得る。危機管理体制を強固にすることで、赤字プロジェクトを未然に防ぐ。
コアは09年1月から緊急対策プロジェクト「RE NEW 2009」を発動した。新規案件を開拓する「NEWプロジェクト」と、事業の再構築に着手する「REプロジェクト」の二つの班に分かれて、徹底的な事業の見直しを行う。プロジェクト名は、NEW(新規案件)とRE(再構築)を合わせた造語だ。前者は少しでも可能性がある案件に対して果敢に営業攻勢をかける“攻め”の動作で、後者は間接費の削減や人員の再配置など“守り”の役割を果たす。
実体経済の失速感が顕在化して以降、コアでは全社を挙げて顧客企業のキーマンのもとに足繁く通ってきた。現場の技術者、部長、役員級と相手先の主要な役職に聞き込みを行い、向こう数年の予算状況を探った。その結果、来年度(10年3月期)の売上高は、「前年度比2割減の最悪のケースを想定した体制づくりを行う」(コアの井手祥司社長)方針だ。最も悪いパターンを前提にして予算を組み、さらに「RE NEW 2009」プロジェクトの遂行によって少しでも売り上げ、利益の改善を図る。実際、そこまで悪化する可能性は低いという見方もあるが、「手を打たないわけにはいかない」と気を引き締めている。
2009年は回復への潮目
回復は早くて2010年まで待たなければならないという見方が支配的。ただ、09年中にはおおよその方向感が見え、金融業界に回復の兆しが現れるという予測もある。みずほ銀行の常務取締役を務めた経験のある富士ソフトの白石晴久社長は、「世界の金融システムの立て直しに半年、実体経済の修復に1年」と、2010年半ばになれば状況は変わってくるという見方を示す。
さらに、SaaSやクラウドコンピューティングなどユーザーの初期投資を抑えるサービス型のビジネスは不況に強い側面がある。コスト削減にはアウトソーシングも有効だろう。こうした不況対応型のビジネスを伸ばせば、収益へのプラス効果が期待できる。
技術革新によってビジネス基盤は整いつつある。顧客企業の収益力を高めるのに“即効性あるITシステム”としてユーザーニーズをつかめる可能性は高い。