GB出身初の橋本・新社長就任
日本IBMは、同社の新年度(2009年12月期)が始まる2日前に迫る08年12月30日、都内で記者会見を開いて社長交代を発表した。新社長には中堅・中小企業(SMB)事業開発のゼネラルビジネス(GB)出身で初となる橋本孝之・取締役専務執行役員を起用。大歳卓麻社長は代表権のない会長に退いた。突然の交代劇は三菱東京UFJ銀行のシステム統合などが一段落したタイミングを図ったとみられる。橋本・新社長に差し迫る課題は、皮肉にも得意分野のSMB向け販売チャネル「ビジネス・パートナー(BP)」の引き締め策となりそうだ。
SMB事業の責任者として長年経験した橋本・新社長は「現場を走り回るのが私の信念であり、原点」と、顧客・現場志向と自らを評する。大歳・前社長が橋本氏を後任に選んだ理由も、こうした志向で「軸がぶれず一貫性がある」(大歳・前社長)点だ。
日本IBMの07年度(07年12月期)業績は、売上高1兆1926億円で純利益940億円を計上。苦戦した前年度に比べ減収したものの大幅増益となった。08年度は「経済危機」の影響もあり厳しい決算が見込まれる。そんななかでの新社長就任。橋本・新社長は体制立て直しのキーワードとして「『スマータープラネット(Smarter Planet=賢い惑星)』という言葉を掲げる。日本の現地法人(惑星)としてIBMのグローバル力を存分に発揮し、付加価値を付けて日本市場に馴染むソリューションづくりをすることを宣言したようだ。
日本IBMは07年10月、米本社のアジアパシフィック(AP)から独立させ米国直轄へと変更。煩雑だった「日本→AP→米国」のレポートラインは、直轄に移行することで決定が迅速になると期待された。しかし「米国直轄」は、むしろ決定を「遅延させている」との声が同社内部やBP(ビジネスパートナー)から挙がる。
APにいた当時は日本IBM幹部とBPで見込み客先へ行って、要件が整えば「半即決」で案件が動かせた。最近では、米本社の二重三重の決定権者を通過する時間的ロスがあるほか、機器やソフトウェアを日本仕様に変更するにも時間を要するというのだ。競合の大手メーカー幹部は「日本IBMの有力BPから『おたくの製品を取り扱いたい』と相談を受ける件数が増えた」としており、BPの“日本IBM離れ”が懸念される。
日本IBMはここ数年、SMB事業の強化を謳っている。にもかかわらず「軌道に乗った」との話は聞かない。SMB向け販売で核となるBPが離れることは同事業に暗雲が立ち込めることを意味する。橋本・新社長が築く新体制は、こうしたロスをどう防ぐのか対策が急がれる。(谷畑良胤)