日本IBMと同社のビジネス・パートナー(BP)である国内ITベンダー約70社は5月19日、IBM製品群などを利用したSOA(サービス指向アーキテクチャー)ビジネスを国内で発展・浸透させる協力組織「SOA Partner Community」を設立した。国内の企業システムは、大手を中心にスクラッチ(手組み)開発が多くを占める。しかし、これでは企業システムが複雑化し、運用コストが増えるばかりだ。一方、自社システムの機能を柔軟に変更・追加するニーズは高まっている。日本にSOAビジネスが上陸したのは5年ほど前。「柔軟なシステム」を構築するうえで期待された設計手法だが、依然として浸透度は低い。このため同組織では、参加ベンダー間の開発・販売協力を通じてSOAを普及し、システムの拡販を目指す。本連載は、参加ベンダーの取り組みを主にSOAビジネスの先進事例や課題を紹介する。(谷畑良胤●取材/文)
SOAパートナー・コミュニティーが発足 「全員参加型」で営業・技術面論議
日本IBMは“黒子”
「SOA Partner Community」は、アクセンチュアやユーフィットなど理事ベンダー16社をはじめとする日本IBMのビジネス・パートナー(BP)約70社で構成する非営利団体。半年ほど前にベンダー有志と日本IBMで「設立準備会」を開催し、設立趣旨や運営方法など詳細を決めて発足に至った。「日本IBMは、あくまで“黒子”の立場」と、同組織を担当する伊藤昇・ソフトウェア事業理事ソフトウェアパートナー事業兼GBソフトウェア営業は、日本IBM主導の組織でないと説明する。複数ベンダーを集め、こうした組織を立ち上げるのは日本IBMで初めてという。
日本IBMには、アプリケーション・サーバーの「WebSphere」など、付加価値の高いSOAシステムを構築するうえで有用なミドルウェアがあり、本社のある米国のSOA導入事例などを基に技術革新が進む。これらIBM製品群をシステム開発に利用するベンダーに限らず、SOAビジネスで高い収益力を上げた国内SIerは限られている。 このため、同組織では、日本IBMがIBMのSOA戦略を基にした製品群の技術や設計手法、米国の先進実績約8000件などの事例を参加BPに情報提供するとともに、これらを参考にして「会員参加型」のリアル・サイバー両面で、具体的な導入シーンに結び付けるための議論を定期的に行う。つまりは、「売れるSOAビジネス」を両社が平等な立場で協力してつくり上げるようとしているわけだ。
営業、技術の両面で分科会 「SOA Partner Community」の具体的な初年度活動は、営業系の「SOA事例研究分科会」と技術系の「SOA技術研究分科会」に分けて研究を行う。「多くのSIerは、まだまだお客様に価値訴求できるSOAベースの提案をできていない」(伊藤理事)ことから、日本IBMのエバンジェリストをアドバイザーに招聘し、成功・失敗の両事例を参考に意見交換をする。
日本IBMの宮田直幸・ソフトウェア事業インダストリー・ソフトウェア事業部SOAビジネス開発部長は「基幹システムの共通部分にERP(統合基幹業務システム)を導入しただけでは差別化できない。共通の業務機能についてはERPを活用し、他社と差別化を図る部分については独自機能を再利用可能なサービスとして開発しアセット化する」と説明する。つまり、企業にとって「競争力の源泉」になる部分は市場や企業の環境を踏まえて適宜改善することが必要で、そのためにSOA環境を備える必要があるというわけだ。
各分科会では、こうしたSIerやユーザー企業の実状に応じた議論を行う。「SOA事例研究分科会」では、SOAの成功事例を聞き導入のポイントやSOAシステムをクローズする術を学んだうえで、意見交換をする。「SOA技術研究分科会」では、SOAの部分技術や製品技術だけでなく全体設計に自信のもてることを目的に、技術的な問題を相談する場としての役割を果たす。このほか、リアルな場面では、総会と定例会を年4回開催する計画だ。

一方、サイバーな場面での意見交換の場としては、「IBM ID」取得者が使える日本IBMの「Lotus Connections」を無償利用できるようにした。この場では、プロフィール欄に自分情報を掲載でき、複数の人と議論できるフォーラムの「コミュニティー」や自分情報を発信する「ブログ」、グループメンバーにメールを出す「アクティビティー」などの機能を使える。すべての活動内容は月1回発行の「Monthly News Letter」で伝える。
最終的には100~150社の加盟へ 5月19日に東京都内のホテルで開催した「設立総会」で挨拶した伊藤理事は「作り込んだシステムを全部作り直すのは困難。徐々にSOA環境へ移行する手段をIBMのポートフォリオはもっている。国内企業のITシステム投資は76%が運用・保守の『守り』。『守り』の投資分を削減し、『攻め』の投資ができるようにしたい」と述べた。
これに対し、同組織の理事長に就任したアクセンチュアの立花良範システムインテグレーション&テクノロジー本部ITストラテジグループ統括エグゼクティブ・パートナーは「5年経ってSOAビジネスが国内に浸透しているとは限らない。SIerやIT業界全体にとって有益な情報を発信し、ユーザー企業と向き合えるようにしたい」と、活動に対する期待を語った。参加した理事からも「本当にSOAがビジネスになるようにしたい」「SOAの成功事例は少なく、情報を得る場として期待する」――などのコメントが寄せられていた。
「SOA Partner Community」に入会するには、IBMのパートナー制度「PartnerWorld」に登録し、プロファイル管理者(APA)情報を入手する必要がある。同組織では常時会員募集を行い、加盟社の拡大も目指す方針だ。