ソフトメーカーにとって、製品出荷前の検証、バグの修正、そして販売後のユーザーサポートは必要不可欠だ。このうち、バグ修正は付加価値を生む作業ではないので、メーカーにとっては避けたい工程だ。とはいえ、バグのまったくないソフトを作ることは現実的には無理な話。「テストはどこまでやればいいのか」というのは、ソフトメーカーの永遠のテーマ。ここでは、インターコムのテスト工程・サポート担当者たちによるソフト品質向上に向けた取り組みを紹介する。
“能動的な姿勢”の一環として
8月上旬、インターコムの会議室では、「テストはどこまでやれば終了して良いのか?」をテーマに、同社の「品質管理部会」がパネルディスカッションを実施した。
「品質管理部会」は、「SMB」「セキュリティマネジメント」「企業情報システム」など各事業部の検査・サポート担当者を横串で束ねた組織で、製品の品質向上とユーザー満足度を高めることを目指し、2008年9月に発足した。毎月1回、各事業部の状況や課題を話し合うなど、検査・サポート担当者の情報共有の場になっている。同部会が掲げている今年度の方針は、「受動的姿勢から、能動的な姿勢への転化」。これを受けて、今回初めてパネルディスカッション形式で議論を行った。
パネリストは、「まいと~く VoiceFAX Center」などを担当するSMB事業部の齋藤裕介氏、「SmartHDD Manager」などを担当するセキュリティマネジメント事業部の岩品裕一氏、「FALCONシリーズ」や「Biware シリーズ」を担当する企業情報システム事業部の大塚隆氏の若手担当者3人。また、中川紘次・情報セキュリティシステム事業部・品質・サポート部係長が、モデレータ(司会者)を務めた。また、聴講者として品質管理部会の部員のほか、高橋啓介社長、須藤美奈子取締役も出席した。さらに、ソフト検証のスペシャリストとして、第三者検証サービスを行うエス・キュー・シーの倉田克徳社長がゲストとして招かれた。
“最悪のケース”をなくすことが重要
開催にあたり、エス・キュー・シーの倉田社長が「今回は、私の知っている限りの知識を吐き出します」と挨拶。本題に入ると、各パネリストたちは、日ごろから抱えている悩みや疑問を早速、倉田氏に投げかけた。
パネリストの齋藤さんは、現在のテスト方法として「旧バージョンの実績を基にしている」など、過去のデータから致命的なエラーを確認しているというスタイルを説明。しかし、テストの終了基準についは、適正かどうか不安に感じていることを打ち明けた。品質を高めるために、よりよい方法を模索し、必死に答えを見つけようとしているパネリストたち。ディスカッションは、次第に倉田氏への質問コーナーへと変わっていた。
倉田氏は、「基本的に不具合は出してはならないもの。しかし、出てしまう」という実態を踏まえ、「バグがあってもサポート体制がしっかりしていればユーザーは怒らない。しかし、開発元が未知で、ユーザーが既知のバグは最悪のケース」として、ユーザーから不具合を指摘されてから検証するケースをなくすことの重要性を強調した。最善を尽くしても、こうした事態が避けられないことはある。モデレータの中川係長は、“最悪のケース”を経験しているが、テスト工程とユーザーサポートの両方を担当することで、「ユーザーサポートを通じて得た情報をテスト工程に取り入れることができる」ため、こうした最悪のケースも品質管理に生かせるという観点をパネリストや聴講者に伝えた。
パネリストの切実な質問と倉田氏の経験談やアドバイスなどで、会場は熱を帯びてきた。18時に開演したディスカッションは、気がつくと予定の1時間を過ぎ、終了時刻を迎えた。

「品質管理部会」は、ソフトのテスト工程、サポート担当者たちで結成 倉田氏によると、「パッケージソフトビジネスで重要なことは、クオリティ、コスト、デリバリーのバランス」だそうだ。これを考えながら「テストはどこまでやれば終了して良いのか?」を追求しなければならない。「品質管理部会」での討議を重ねていくことで、おのずとその答えに近づいていくのだろう。
インターコムの高橋社長は以前、週刊BCNの取材に「ソフトのバグがメーカーに与えるダメージは、以前よりも大きくなっている。品質管理能力は、開発力と共にソフトメーカーには欠かせないものとなるはずだ」と答えている。こうした見方をする高橋社長は、「社員が自主的に動いてくれたことがうれしい」と記者に感想を述べ、会場を後にした。
インターコムの品質管理部会の取り組みは、ソフトメーカーとして当たり前のことかもしれない。しかし、テスト工程という作業のなかで発生する疑問について、一人ひとりが真剣に考え、課題を解決していくことが、最終的に品質向上に繋がるのは確かだ。問題意識をもっているかどうかが、品質向上の原点ではないかと、同社の取り組みを通して強く感じた。