デル(ジム・メリット社長)が、パートナーとの協業で中堅・中小企業(SMB)市場を攻略しようとしている。SMBに特化した新組織を設け、他社からSMB向けマーケティングやチャネルセールス(パートナー開拓)を得意とする人材を招き入れて、組織体制を強化した。SMB市場でデルの認知度を向上させる販促施策と、SMBに強いパートナーのリクルートを来年度(2011年1月期)から本気で進めようと準備を始めている。従来の「Web直販のデル」というイメージからは想像もつかない“ドブ板”戦略を推進する目論見だ。
“ドブ板”戦略でパートナーを確保
デルは今年2月、グローバルレベルで組織を顧客層や規模別に4区分した。(1)コンシューマ、(2)SMB、(3)LE(ラージエンタープライズ=大企業)、(4)パブリック(公共部門)がそれで、日本法人もその方針通りに組織を4つに分けている。
SMB事業部門の傘下には、マーケティングやセールス(営業)、サービス、財務など、職能別でチームが構成される。従業員数500人までの企業が対象で、全製品・サービスを扱う。製品・サービスを問わず、SMB市場での売り上げ拡大がミッションだ。
SMB事業部門の立ち上げにあたり、有力な人材を招き入れ、組織力強化に力を注いできた。キーマンは二人。マーケティングを統括する原田洋次・SMBマーケティング本部北アジア地区本部長と、チャネルセールス(パートナー開拓)を指揮する鈴木謙彰・SMBセールス本部チャネルセールス本部長がその人物だ。

原田洋次本部長。デルからレノボ・ジャパンに移籍して執行役員を務めた後、今年2月にデルに復帰し、現職に就いた
原田氏はデルからレノボ・ジャパンに移り、今年2月にデルに復帰した。マーケティングに強く、レノボではマーケティング部門のトップを務めていた。一方、鈴木氏は、パートナー開拓が得意で、シスコシステムズやトレンドマイクロなどでパートナーの新規開拓を全国規模で展開。今年10月にデルに移籍した。
SMB市場での製品販売には、「ITベンダーを経由した間接販売が必要不可欠」と鈴木氏は説明する。SMB市場に強いシステムインテグレータ(SIer)などのITベンダーを、販売パートナーとして取り込み、間接販売体制を築こうと目論んでいる。
パートナー開拓では、Web直販で成長した従来のデルの路線とは異なる戦略を打つ。パートナーとして取り込みたいITベンダーを選んで、1社ずつ訪問し提案する“ドブ板戦略”だ。
サーバーやストレージ、PCなどのハードを2次店、3次店の位置づけで調達しているITベンダーを戦略的に狙い、他社に比べてパートナーのビジネス拡大につながる施策や条件を提示。他社のパートナーであったり、マルチベンダーで調達しているITベンダーをデルのパートナーとして招き入れるつもりだ。この“ドブ板”リクルートを全国規模で展開する。

鈴木謙彰本部長。シスコシステムズ、トレンドマイクロなどを経て今年10月デルに移籍した
鈴木氏は、「1社ずつ訪問し、そのITベンダーの事業戦略を聞き、デルができることを照らし合わせて協業プランを共同で練ることが大切。製品価格を下げるような短絡的な提案はしない。パートナーの事業戦略にデルが関わるようなイメージだ」と説明。パートナーには、製品紹介や提案方法を伝授するワークショップをパートナーそれぞれの要望に沿って個別に展開するという。また、東名阪に加え、札幌、仙台、福岡の6拠点で新規パートナー開拓のためのイベントを開催することも計画している。
一連の施策で、来年度上半期中に100社をパートナーとして組織し、間接販売網を構築。目標の一つとして「昨年同時期に比べて、サーバーは最低でも2倍以上伸ばす」(鈴木氏)とぶち上げている。
Web直販で成長したデルも、ここ数年は伸び悩み、シェアの低下が著しい。それを打開するために、デルも日本流の販売戦略に動き始めた。
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パートナー開拓は別部門でも推進
デルは、SMBセールス本部チャネルセールス本部以外にも、パートナーを開拓するための専門組織を設置している。「パートナー統括本部」がそれだ。
SMBセールス本部チャネルセールス本部は、従業員500人以下のSMB市場で売り上げが伸ばせると判断した協業先の開拓と支援を目的としている。一方、パートナー統括本部は顧客層・規模を問わず、全社的にビジネス拡大に貢献しそうなパートナーのリクルートとそのサポートを担当している。結果的に、パートナー統括本部で開拓したパートナーは大手のITベンダーになり、チャネルセールス本部のパートナーは、中堅規模以下のSIerやIT機器卸商社になる。
開拓先となるITベンダーの規模は異なるものの、両部門では共通した戦略をとっている。ともに、デル自らがパートナー候補企業の1社ずつに対してアプローチし、それぞれのITベンダーに意見を取り入れた協業プランを作成してパートナー契約の提案を進めていく点だ。一見、手厚く手間がかかるようにみえるが、「それが間接販売体制を築くための近道」(鈴木謙彰本部長)と考えている。
絞り込まずに広くパートナーとして囲い込んでも、結果的にそこが販売してくれなければ話にならない。むしろ、少数のITベンダーと密接な関係を築くほうが実利があるというわけだ。
デルのビジネスを象徴するともいえるサーバー事業において、同社は今年4~6月の昨年同期比数値で、主要メーカーのなかで最も落ち込んだ(ガートナー調べ)。実に43.6%減。景気後退の影響が及んでいるにしても、その落ち込み幅は突出している。シェアの低下も著しく、順位は富士通に抜かれて3位から4位に陥落した。
「デルモデル」の国内市場でのビジネス拡大は終幕した──。2部門でパートナー開拓を一気に推進し始めたことは、そのことを物語っているように感じる。(木村剛士)