シスコシステムズ(エザード・オーバービーク社長)は、複数のディストリビュータを1次店として確保したことにより、中堅・中小企業(SMB)向け事業の拡大を図る。これらの販社とのパートナーシップを深めるために社内体制の整備を進めており、1次店のメリットにつながる施策を打つことに加えて2次店の支援強化にも力を注ぐ方針だ。データセンター(DC)を活用してクラウド・サービスの提供に着手しようとしている事業者とのアライアンスで、SMBに対するサービス創造も模索。これにより、SMB向け事業の売上高について2ケタ成長を維持していく。
支援強化に向けた体制整備も
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| パートナービジネス事業統括の安田誠副社長は「販売パートナーが増え、SMB事業を拡大することができる」と自信を示す |
シスコシステムズがディストリビュータとして確保しているのは、ダイワボウ情報システムとソフトバンクBB、ネットワンパートナーズの3社。パートナービジネス事業統括の安田誠・副社長は、「ディストリビュータ3社は、それぞれ強みをもっている。さまざまな角度で当社の製品・サービスを提供できる」とアピールしている。
明確な区分ではないが、ダイワボウ情報システムがハードとソフトなどIT関連製品の販売、ソフトバンクBBがソフト販売とサービス提供に強いSIerを2次店として確保している。ネットワンパートナーズは、ネットワングループがもつNI(ネットワークインテグレーション)の強みを生かしながら、SIerと組んでインフラ構築ビジネスを手がけている。さらに、ダイワボウ情報システムとソフトバンクBBの2社は、中小企業をユーザーに据える販社網を全国規模で形成。ネットワンパートナーズは、中堅企業を中心に顧客開拓を図っているSIerとのパートナーシップを深耕。この3社と組むことで、シスコはSMBに対して製品を普及できるようになっただけではなく、地域やユーザー層を拡大できることから、「SMB市場で事業拡大できる基盤が整った」と、安田副社長は自信を示している。
また、SMB向けサービスの提供拡大に向け、通信事業者やSPをはじめとしてSIerのなかでサービス型モデルを前面に押し出し、クラウド・サービス提供を進める事業者が所有するDCを増強していくほか、「このようなDC事業者が当社のパートナーになってもらうように話を進め、SaaSと当社のネットワーク機器などと組み合わせたサービスの創造を模索していきたい」という考えを示している。DC事業者とのパートナーシップ構築後の具体的なビジネスモデルは今後詰めるが、事業者が提供する月額課金のアプリケーションサービスを導入するユーザー企業に対して、ネットワーク機器も月額課金でレンタルすることなどが考えられる。ユーザー企業が、社内のネットワークインフラ増強にコストをかけることなく、クラウド・サービスを利用できるようになる仕組みを創造していくようだ。
社内体制については、専門組織の設置で営業担当者によるユーザー企業への直接的なアプローチで案件を獲得、販社のビジネスにつなげる取り組みを進めている。ほかにも、2次店のパートナープログラムへの参加を促していくため、インセンティブを含めた支援制度の改善を検討しており、2次店との直接的なコンタクトでコミュニケーション向上などを図っているという。あくまで1次店のメリットになることを前提に、2次店の販売意欲を高めていく方針だ。
昨年度(2009年7月期)は、SMB向け事業の売上高について「2ケタ成長を実現した」という。「この成長率を維持していく」と、安田副社長は断言する。そのために、ディストリビュータを1次店として確保したほか、ユーザー企業に対する販売のアプローチ、2次店への支援強化を図っていくことになる。
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「WebEX」と「UCS」を軸に拡販
シスコシステムズが中堅・中小企業(SMB)向け事業を拡大していくうえで柱に据えている製品は、ウェブ会議システムの「WebEX」と、ネットワークとサーバー、ストレージ、仮想化技術を統合した「UCS(ユニファイド・コンピューティング・システム)」の2製品。この2製品の販売モデルは異なっているものの、「SMB市場を掘りこしていくうえで重要な製品」と、パートナービジネスジ事業を統括する安田誠・副社長はアピールしている。
最近では、出張費や交通費の削減などコスト面から映像を使った会議システムのニーズが高まっている。「WebEX」は、リーズナブルな価格で会議が行える点や導入が簡単なことから、「SMBが導入する傾向が高まっており、順調に伸びている」。販社にとっても、売りやすい商材であることから、「できるだけ多くの販売パートナーに売ってもらいたい」考えを示している。また、今後は製品価値を高めるために「販売パートナーが提供しているアプリケーションとマッシュアップできる機能を追加する」計画。また、会議システムを含めた「コラボレーション」の分野では、「IP電話をはじめとしたUC(ユニファイド・コミュニケーション)にも力を入れる」方針だ。
「UCS」は、現状ではデータセンター(DC)所有のSIerを中心に検証している段階だ。ただ、「SIerのなかで次世代DCを構築してサービス型モデルの提供に着手する機運が高まっている。『UCS』がクラウド時代に対応した製品として評価を得るだろう」とみている。シスコは、あくまでもクラウド・サービス提供の“黒子”としてのポジションを確立。「UCS」を導入したDC事業者とネットワークを含めた新しいビジネスモデルの創造を模索する。また、「製品ラインアップとしてローエンドモデルを計画している」という。これにより、中規模DCに対しても導入を促していく。(佐相彰彦)