伸び盛りの仮想化ビジネスが多様化し始めた。現状では、物理システムから仮想システムへの移行ニーズが市場の盛り上がりをけん引しているが、それに加えて仮想システムの運用・保守サービスの需要が高まってきた。理由は明らかで、ユーザー企業に仮想システムを運用するスキルと体制が備わっていないためである。ITベンダーに支援を求めるケースが増えているのだ。右肩上がりの仮想化ビジネスは、仮想システムの構築だけでなく、運用・保守にまで広がりつつある。
情報システムの仮想化ニーズは、4年ほど前から高まってきた。1台のサーバーを複数のコンピュータであるかのように仮想的に分割し、そのなかに別のOSやアプリケーションを動作させるのが仮想化。システムを構成する物理的なサーバー台数を削減し、管理コストを引き下げる効果がある。2008年秋以降の景気後退でIT管理コストの削減意欲がユーザー企業のなかで高まり、システムの仮想化は一気にIT業界の主役に躍り出た。
IT調査会社からも景気のいい数字が飛び出す。IDC Japanの調べによると、仮想化ソフトの市場規模は3年間で5倍に拡大すると分析されている。仮想化サーバーの出荷台数は2013年には14万台に達し、全体の23%を占めるとみられている(08年は6万5000台)。さらに、11年には仮想サーバーが物理サーバーの台数を逆転し、13年には全体の3分の2を占めると予測している。
物理から仮想への移行、仮想システムの構築案件は中期的にみて伸びることは間違いなさそうだ。ただ、今後はそれだけではない。すでに仮想システムを導入しているユーザー企業から、新たな需要が生まれている。それが仮想システムの運用だ。ユーザーは導入後の“お守り”に課題を抱え始め、ITベンダーに助けを求めているのだ。
物理サーバーの管理と異なり、仮想化には独特の運用手法が必要になる。情報システム管理者にも高度なスキルが求められる。物理システムでは容易でも、仮想環境では物理システムと同じやり方は通用しない。仮想システムの運用体制を構築していないユーザー企業が困り始めているのだ。代表的な業務が、障害発生時の問題の切り分け、バックアップの方法、リソース管理などだ。
IDC Japanの入谷光浩・ソフトウェア&セキュリティマーケットアナリストは、「仮想環境の運用管理ソリューションは長期的なビジネスチャンスになる」と断言。そのうえで、具体的なソリューションとして「パフォーマンス管理やバックアップ、リソース管理の管理ソリューションが伸びる」と説明している。仮想環境の管理ソフトの需要も強まり、08年~13年までの年平均成長率は28%と高成長を予測した。
すでに仮想環境の運用に特化したサービスを始めたベンダーも現れている。東芝系保守・運用サービス会社の東芝ITサービスは昨秋、仮想システムの総合運用サービスをメニュー化した。社長直下の専任組織をつくり、垂直立ち上げした事業で、「引き合いが急増中」(井手弘・仮想化推進プロジェクト部長)。順調なスタートを切っている。
仮想化は成長著しい市場だが、その一方で競合も熾烈になってきた分野でもある。「構築+運用」というハイブリッド提案が差別化と単価アップにつながりそうだ。(木村剛士)