その他
ストレージの“仮想化”時代がやってきた
2008/03/24 14:53
週刊BCN 2008年03月24日vol.1228掲載
“ストレージ仮想化”の時代に突入した。ブレードサーバーでブームに火がつき、データを蓄積するストレージも仮想化環境を整えたほうがシステム最適化につながるとの機運が高まっているためだ。こうした状況下、ストレージメーカー各社が仮想化を事業拡大の起爆剤と位置づけ、新製品の投入や販売強化に乗り出した。マーケットは、ストレージ全体を網羅して主導権を握る“国盗り合戦”が激しくなる模様だ。
メーカーは事業拡大の起爆剤に
主導権を握る“国盗り合戦”が激化
日立製作所は、独自技術を駆使したディスクアレイサブシステムの「ユニバーサル・ストレージ・プラットフォームV」で仮想化ビジネスの拡大を図っている。複数の異種ストレージを統合管理する同製品は、物理構成にとらわれないボリューム割り当てや空き容量の共有化をストレージ自体で自動的に行うことができる。RAIDシステム事業部販売推進本部の角田仁・販売企画部長は、「簡単な仮想化環境が実現でき、ユーザー企業から導入しやすいとの声があがっている」と自信のほどをみせる。大企業を中心にユーザー企業を獲得。販売面では、導入のシンプル化という点で直販やSIerによるソリューション提供だけでなくディストリビュータによる卸販売のケースもあり、「中堅企業の導入案件も出始めた」としている。
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、独自仮想化技術「EVA」をミッドレンジのモデルすべてに搭載。「EVA」は、RAIDボリュームを再構築でき、追加時に空きスペースを分散してスペアリング領域に割り当てる技術で、システムを止めることなくオンラインで拡張できることが特徴だ。ミッドレンジへの搭載で、「サーバーの販売パートナーがストレージも販売する傾向が高まった」(エンタープライズストレージ・サーバ統括本部の富岡徹郎・ストレージワークス製品本部長)としており、昨年度(07年10月期)にEVA関連ビジネスが台数で前年度比50%増、金額で30%増を達成。「今年度も、昨年度と同程度の成長を目指す」と見通しを語る。
日本IBMは、ストレージ仮想化関連ビジネスとして「SVC(SANボリュームコントローラ)」の拡販を重視。SVCは、さまざまなメーカーのストレージ製品が混在するSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)環境下で、仮想ディスクを設定することによる複数の物理的なディスク一元管理が可能な装置だ。導入企業は、物理的装置への依存を問わず仮想化環境の構築でストレージ使用効率の向上につなげることができる。「日本では、大企業を中心に06年から需要が増えた」(システム・ストレージ事業部製品担当の佐野正和・ソリューション担当部長)。また、欧州で中堅・中小企業の導入が増えていることから「中堅・中小企業がストレージを導入する際、まずはミッドレンジモデルを選択し、データ容量の増加にともないローエンドモデルを追加していく傾向が高い。そのため、日本でも中堅・中小企業でニーズが高まってくるのではないか」とみている。
EMCジャパンは、「仮想LUN(論理ユニット番号)テクノロジー」と呼ばれる、システム内のデータボリュームをシームレスに移動可能とする技術を中堅・中小企業向け製品の「クラリックスAX」シリーズに搭載している。これによりユーザー企業は意識せずに仮想化環境を構築できるのだ。「NAS(ネットワーク接続型ストレージ)最適化や、インテリジェント・スイッチとの連携など、他社が力を入れる仮想化に対しても競争力の高い製品を提供しているが、現段階はLUNによる仮想化のアピールが最適」(マーケティング本部の中野逸子・プロダクトマーケティング部長)とみている。「AX」をベースに販売代理店を拡充していることが要因となり、同製品の拡販で“仮想化に強いメーカー”という評価を定着させるわけだ。
サン・マイクロシステムズは、ミラーリングが可能な低価格ディスクを今年4月から市場投入。ほかにも、データ管理の自動化や無制限の拡張が可能なファイルシステムのコンポーネント「ZFS」で仮想化ビジネスを進める。同コンポーネントのソースコードを公開していることから「OEM(他社ブランドへの製品供給)で当社技術の優位性を訴えていく」(ストレージ・ビジネス統括本部の湯澤芳伸・執行役員統括本部長)方針を示す。
アイシロン・システムズでは、主力のクラスタ・ストレージを武器に仮想化ニーズに対応。クラスタは仮想化環境を実現する製品ではないものの、単一システムによる非構造化データの蓄積が可能という圧倒的な大容量を生かして「SANを構築しなくてもデータの一元管理が容易であることを提案し、ユーザー企業を広げていく」(関根悟・取締役マーケティング本部長)としている。これまで、放送局など映像コンテンツを多く所有する企業の導入傾向が高かったが、一般オフィスなどユーザー企業の領域を広げる。
ストレージ仮想化 仮想化環境構築にさまざまな選択肢
流通経路に変化の可能性も
ストレージメーカー各社が仮想化ビジネスに本腰を入れているだけに、マーケットでストレージシステムの主導権争いが激化することは間違いない。また、製品機能に加えてSANやNASなどのストレージ環境が、仮想化で力を入れる各社によって異なることから、ユーザー企業は導入時にその選択肢が複数ある。
日立製作所や日本IBMが力を注ぐ仮想化は、SAN環境上で提供するもの。ユーザー企業が導入している既存ストレージとサーバー間の“つなぎ役”を果たす。既存ストレージとの互換性を重視し、さまざまなメーカーブランドのストレージとの接続に対応。既存ストレージから乗り換えさせるわけではなく、追加という名目で製品の導入を促す仕組みだ。さらに、サーバー製品も持つことで共通する両社が積極的なのは新たな販売経路の開拓。サーバーを持つメーカーがストレージを販売する際、「サーバーの販売代理店がストレージも売る」といった販売モデルが通例となっているが、今回はストレージ仮想化製品を扱う新規代理店の獲得も進めている。異なるのは技術面で、日立が大容量のハードウェア自体がつなぎ役となり仮想化環境を構築するのに対し、日本IBMでは仮想ディスク機能を搭載したコントローラを提供する形となっている。日本HPも「EVA」でSAN環境の仮想化を実現するが、販売面ではサーバー代理店とのパートナーシップを重要視している点が異なる。
EMCジャパンは、仮想LUNテクノロジー以外にもSAN対応の「インビスタ」やNAS最適化が可能な「レインフィニティ」の拡販も図ろうとしている。現段階で仮想LUNテクノロジーに注力しているのは、「クラリックス」で販売代理店を確保しているためだ。ストレージ専業メーカーのため、競合メーカーのサーバーを扱うSIerやディストリビュータとパートナーシップを組めているという。このところの仮想化ブームで、どうシェアを拡大するかが気になるところだ。
サン・マイクロシステムズは、OEMビジネスに意欲をみせていることから、“縁の下の力持ち”として存在感をあらわすようだ。
SIerやディストリビュータなど売る側にとってユーザーニーズに合わせた提供がビジネス拡大のカギになる。メーカーにとっては販売経路の変革につながるわけだ。このことはストレージ流通の抜本的改革が起こる可能性を秘めている。
“ストレージ仮想化”の時代に突入した。ブレードサーバーでブームに火がつき、データを蓄積するストレージも仮想化環境を整えたほうがシステム最適化につながるとの機運が高まっているためだ。こうした状況下、ストレージメーカー各社が仮想化を事業拡大の起爆剤と位置づけ、新製品の投入や販売強化に乗り出した。マーケットは、ストレージ全体を網羅して主導権を握る“国盗り合戦”が激しくなる模様だ。
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