ロードバランサーとは、ネットワークでサーバーとクライアント端末の間の負荷分散を行う装置である。ロードバランサー市場は、クラウドコンピューティングの普及によるデータセンター(DC)需要の高まりを受け、2010年から息を吹き返している。これまで一般企業を主な販売先としてきたロードバランサーのベンダー各社は、ここへきて、DC事業者をはじめとした新しい市場の開拓に取り組んでいる。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場動向」を読む
DC、モバイル通信キャリアの需要が拡大
ロードバランサーの2010年の日本国内市場の規模については、120億円程度とみる業界関係者が多い。ロードバランサーは他のネットワーク機器と同様、リーマン・ショック以降に市場が落ち込んだが、クラウドコンピューティングの普及が加速し、データセンター(DC)需要が高まったことが追い風となって、昨年から回復傾向がみられる。2011年、市場は約6%の伸びを記録し、およそ128億円に拡大すると予測され、2012年も微増ながら成長が見込まれている。
伸びの原動力となるのは、DC需要に加え、モバイル通信事業者を中心としたハイエンドセグメントの拡大だ。モバイル通信事業者は、スマートフォンなどモバイル端末の個人・法人利用が急増していることへの対応として、ネットワークインフラへの設備投資を積極的に拡大している。これにより、ロードバランサーの高性能・高機能モデルの大型案件の数が増えており、単価は下がる傾向にあるものの、台数・金額ベースともに伸びていく見通しだ。
ロードバランサーの市場規模
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ハイエンドを狙って競争が加速化
ロードバランサー市場には、米国などの外資系ベンダーがひしめいている。「BIG-IP」ブランドを展開するF5ネットワークスジャパンは、「圧倒的に強い業界のリーダー」と認識されている。世界の主要市場で上位3社に入るなどグローバルでも強いF5だが、日本では他の国よりも支配的な地位を占めている。ハイエンド市場を得意とするF5ネットワークスジャパンのマーケットシェアは、ここ数年、競合ベンダーが強みを発揮して少しずつ下がってはいるが、それでも約40~50%を占めているとみられる。2位以下のベンダーは、2009年にサービスプロバイダ向けに強いAlteonを買収して事業を拡大している日本ラドウェアや、大手ネットワーク機器メーカーのシスコシステムズ、シトリックス・システムズ・ジャパンなど。また、これまでミッドレンジに力を入れてきたアレイ・ネットワークスがハイエンド向けの製品展開を強化するなど、ハイエンド市場の開拓を目指して、ベンダー間の競争が激しくなっていく模様だ。
主要なプレーヤーと製品
figure 3 「商流」を読む
主要な販売先がDC事業者へ移行
クラウドコンピューティングのサービスを利用して、自社のネットワークインフラをDCへ移行する企業が増えている。これにより、ロードバランサーの主な販売先が一般企業からDC/クラウド事業者へと変わりつつある。ロードバランサーのベンダーは、DC/クラウド事業者やモバイル通信事業者といった新しい市場の開拓を狙うにあたって、販売戦略やパートナー戦略の再構築を余儀なくされている。ベンダー各社は、DC/クラウド事業者向けの展開に強い1次・2次販売代理店との関係を強めたり、新規パートナーを獲得することを急いでいる。例えば、これまでエンタープライズに強いシステムインテグレータ(SIer)と連携してきた日本ラドウェアは、今後、サービスプロバイダを得意とするSIerを新しい販売パートナーとして獲得していく方針だ。また、パートナー戦略の強化に加え、大型案件の獲得を狙い、エンドユーザーに直接に関わるハイタッチ営業の拡大に取り組んでいるベンダーも多い。「NetScaler」ブランドでロードバランサーを提供するシトリックス・システムズ・ジャパンは、ハイタッチ営業を強化し、これまでのネットワーク管理者だけでなく、ウェブサービスの開発者に対しても自社製品の特徴などをダイレクトにアピールしていく構えだ。
ロードバランサーの商流
figure 4 「戦略」を読む
セキュリティの強化など、機能を向上
DC/クラウド事業者やモバイル通信事業者、サービスプロバイダなどのハイエンド市場を開拓するために、販売面での取り組みだけでなく、製品の機能を引き上げる取り組みが必要となってくる。拡大しつつあるハイエンド市場では、これまで以上に高い性能や堅牢なセキュリティが求められている。ベンダー各社は、それらのニーズに応えるべく、製品機能の強化に力を入れている。シトリックス・システムズ・ジャパンは、ベンダーのなかでいち早くWAF(ウェブ・アプリケーション・ファイアウォール)機能をロードバランサーに統合している。同社は、ソーシャルゲームなどを提供するウェブサービスプロバイダを重要なターゲットに据えており、欠かせないセキュリティ対策としてWAF統合をサービスプロバイダに訴求している。また、同社がもう一つの主要事業として展開している仮想デスクトップとの組み合わせを図り、仮想デスクトップのなかでロードバランサーが簡単にセットアップできることなどを強みとして、差異化を図っている。日本ラドウェアもセキュリティ機能を強化。ロードバランサーに、セキュリティソリューション「DefensePro」を組み込み、強固なセキュリティを前面に押し出している。今後は、WAF統合型の投入も検討していくという。
ハイエンド市場の拡大に向かうロードバランサー