全国各地にデータセンター(DC)が林立するなか、持ち前の“技とアイデア”で、いかにユーザーからの評価が高いコンテンツやアプリケーションをつくるかが、売れ行きを大きく左右する。とりわけ、地方圏にDCを設置したケースや、DC専業でないSIerのDCサービス事業の明暗が、コンテンツやアプリの魅力で決まるケースが増えている。DCをつくるだけでは収益に結びつきにくい厳しい実情が垣間見られる。
DC活用型サービスは、SIerにとって有力なストックビジネスである。SIや受託ソフト開発の受注が低調なときも、収益を底支えする役割を担うことがリーマン・ショック以降の不況で実証された。有力SIerはDCへの投資を活発化させており、首都圏のみならず富山や石狩、松江、北九州といった地方圏のDC建設も進む。競争が激しさを増すなか、売り方のキーとなるのが、差異化が可能なコンテンツやアプリケーションである。
例えば、岐阜県大垣市にDCを開設する有力SIerの電算システムがキラーコンテンツとするのは、ネット通販のコンビニ振り込みなどを代行する収納代行サービスだ。昨年度(2010年12月期)の同事業の売り上げは前年度比25.7%増の87億円で、通期の処理件数は初めて1億件を突破した。規模のメリットを生かした一層のシェア拡大が期待できる好ポジションにある。電算システムの宮地正直社長は、「長年培ってきた電算センターとしての“技”と、収納代行サービスという“秘伝のタレ”を合わせた成果」と、胸を張る。
大手SIerの大塚商会は、クラウドやASPなどを含むウェブサービスの利用者が2010年末に103万ユーザーに到達した。100万ユーザー超えは同社初の快挙だ。グループウェアやワークフローなどの「アルファオフィス」や、メールサービスの「アルファメール」、給与明細のウェブ閲覧でペーパーレス化する「たよれーる給与業務支援サービス」といったリーズナブルで使い勝手のいいアプリが会員獲得に貢献。大塚裕司社長は、「昨今、クラウドサービスが注目されているが、当社ではむしろクラウドを前面に出さずとも100万を超えるユーザーを獲得することができた」と、顧客はクラウドを求めているのではなく、コンテンツやアプリで評価していると分析する。
海外大手ベンダーの例では、パブリック型クラウドサービスの先駆けであるAmazon EC2は、ほぼ純粋にITリソースの提供に重点を置いたPaaS/IaaS型。一方で、GoogleやSalesforceはコンテンツやアプリを重視するSaaS型といった棲み分けが定着しつつある。DC専業ではないSIerは、後者のほうが自らの力を発揮しやすい。さらに、都市型DCを好む傾向が強い日本において、地方型DCにおいてもコンテンツやアプリの充実が、有力な販売施策となりそうだ。(安藤章司)