SIerのグローバルITサービスが拡大期に入ろうとしている。NTTデータを筆頭に、日本のSIerはこぞって海外有望市場での売り上げ拡大を推進。なかでも成長余地が大きい中国・ASEANなどの新興国には、多くの日系企業が投資を加速させており、ITベンダーだけが国内にとどまることは、もはや現実的ではない事情もある。顧客企業とともに海外へ進出し、さらに地場のSIやITサービスの需要取り込みによってビジネスの拡大を目指す。(文/安藤章司)
figure 1 「プレーヤー」を読む
中国・ASEANの旺盛なIT需要に応える
日系SIerのグローバルITサービスの提供先は、中国・ASEAN地区が最も多い。日系企業の進出が盛んで、ソフトウェアのオフショア開発拠点がこの地区に集中していることなどが背景にある。北米・南米やEU、オセアニア、インドへの進出では、グローバル規模で果敢なM&Aを推進するNTTデータが突出しており、日系SIerで最も大規模なサービス・開発拠点を展開している。コンピュータメーカーの富士通と並んで、“日系二大グローバルITサービスベンダー”と称される。
多くの日系SIerにとって、ユーザーの主体は日系企業だ。経済成長著しい中国・ASEANに日系企業が続々と進出している。地元経済の発展や人件費高騰を受けて、生産ラインの管理レベルの向上や、当該地区をマーケットとして販売攻勢をかけるユーザー企業が急増していることも、先進的なIT需要の拡大を後押しする。今後は急成長する地場ユーザー企業をどう獲得していくかが、中国・ASEAN地区でのビジネス拡大のカギを握る。
国内主要SIerの海外進出の状況
figure 2 「売り上げ規模」を読む
脱“マルドメ”で5000億円規模の潜在力
日本の情報サービス業は、長らく国内市場に過度に依存してきた。この体質を揶揄して“マルドメ(まるでドメスティック)”なる言葉も出てくるほど。だが、近年では大手日系SIerが公の場で海外売り上げ目標を公表するケースが増えている。NTTデータは2013年3月期の海外売上高を3000億円にする目標を掲げ、すでに2400億~2500億円までのめどをつけている。富士ソフトは2016年3月期に年商の10%に相当する180億円、JBCCホールディングスは同時期に同じく年商10%に相当する100億円超えを目指す。日立製作所は2016年3月期に情報・通信システム事業で海外売上高比率を35%と設定しており、グループSIerの日立ソリューションズや、今年10月に日立電子サービスと合併する予定の日立情報システムズも、この比率を意識している。国内市場の飽和感が強まるなか、“マルドメ脱却”に向けた海外進出が加速する見込みだ。上位SIerの現時点で明らかになっている海外売り上げ目標を合計すると、向こう5年程度で5000億円を超える可能性がある。
海外での売り上げ目標を明確化する大手SIer
figure 3 「売り方」を読む
IBMトップセラーのノウハウで優位に
ITサービスを主体としたSIerが海外進出先で、どのようなビジネスモデルを構築するのが有効なのか──。さまざまなSIerが研究や試行錯誤を重ねているが、今の段階では明確な答えは出ていない。NTTデータのようにグローバル規模でサポートできる体制を構築すれば、同じくグローバルでビジネスを展開する世界トップ企業を顧客として取り込むことも可能だ。しかし、それほど大きな海外リソースをもたないSIerは、自社の現地法人単独でビジネスを展開するだけでなく、地場有力SIerや大手メーカーと協業するケースが多い。
例えば、JBCCホールディングス(JBグループ)は、長年オフショア開発を手がけてきた中国大連にシステム運用・監視センターやデータセンター(DC)サービスの拠点を設置。ここから北京、上海、広州の営業拠点をバックアップする体制を構築してきた。また、地域ごとに地場有力SIerと協業関係を築き、ソフト開発やSIを伴う大規模な案件にも即応することでビジネスの拡大を推進する。JBグループは、日本IBMのトップソリューションプロバイダであることから、そのつながりでIBM中国からの支援も受ける。“IBMトップセラー”のノウハウを駆使することで、海外でも優位性を存分に発揮していく構えだ。
JBCCホールディングスの中国でのITサービス販売網
figure 4 「今後の課題」を読む
協業では自社の国際競争力保有が不可欠
海外進出へのアプローチは、地場有力ベンダーとの協業・合弁、あるいはM&Aの大きく二つに分かれる。ITホールディングスグループのTISは、中国天津の地場企業と合弁で、日系SIer初の大規模データセンター(DC)を2010年4月に開設し、今春には中国スーパーコンピュータメーカーの曙光信息産業と業務提携した。この提携により、TIS天津現地法人のDCと曙光のサーバーを活用したPaaS/IaaS型クラウドサービス「翔雲」をスタートしている。日立情報システムズは、システム運用などのBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービス提供を目的として、地場有力SIerの広東華智科技と合弁会社を設立し、6月に事業を立ち上げた。
一方、NTTデータは主に欧米でのM&Aを積極的に展開。M&A方式による規模拡大を主軸に位置づけている。M&Aでは買収するだけの財務力が求められ、協業や合弁では相手方のビジネスパートナーが魅力に感じるだけの技術力やノウハウをもつことが欠かせない。とりわけ、中国・ASEAN新興国のSIerは、めきめきとその実力を高めており「並大抵の力量では優位性を認めてもらえない」(大手SIer幹部)。海外ビジネスの成否は、国際市場における自社の競争力をいかに発揮していくかにかかっている。
グローバルITサービスのアプローチ