中国に熱い視線が集まっている。情報サービス産業協会(JISA、浜口友一会長=NTTデータ相談役)が2010年1月上旬、都内で開催した新年賀詞交歓会で、有力会員企業トップから中国市場への進出意欲を示す発言が相次いだ。今年5月に上海国際博覧会が開催されることもあって、これを足がかりとして、中国ビジネスがよりいっそう盛り上がるとの期待が高まっている。
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| JISAの浜口友一会長 |
国内企業が中国でビジネスを展開する際、強力なライバルとなるのがIBMやアクセンチュアなど世界大手IT企業。IBMは「スマータープラネット」をコンセプトに、あらゆる社会インフラをインテリジェント化する方針を打ち出している。今年は都市全体をインテリジェント化する「スマートシティ」にも力を入れる。中国は、今まさに社会インフラの近代化を加速。上海万博をきっかけによりいっそうの需要拡大が期待されているのだ。
振り返って、わが国の情報サービス業界はどうか――。海外のライバルに比べ、“戦略面”でいささか見劣りする印象は拭えない。その代表例が、米国が官民挙げて取り組むITを活用した高効率の次世代送電網「スマートグリッド」など、インフラ面での包括的なビジョンの弱さ。経済発展を続ける中国は、電気や水道、通信、医療、金融など、経済や社会を支えるインフラ面での投資が盛んだ。JISAの大手会員企業では、国内電力会社などへの協業を呼びかける動きもあるというが、「“日本の送電網は安定していて、とくに問題ない”という反応が多い」(大手JISA会員企業幹部)という。
JISAの浜口会長は、「そうではなくて、例えば家庭用ソーラーパネルやエコカーで蓄えた電力を送電線に戻して再活用するなど、これまでの一方通行の送電網の発想を根底から覆すもの。先の事業仕分けでスパコンの予算が危うく削られそうになったことも含めて、米国とはかなりの温度差がある」と、国やインフラ系企業、情報サービス産業の足並みの乱れを強く懸念する。
それだけではない。商慣習が異なる中国では、「比較的手堅く売掛金を回収できる政府や政府系企業との取引をまず拡大させる必要がある」(あるSIer幹部)。政府絡みが大半を占めるインフラビジネスは、リスク管理面でも有利だとみる。
米国などが力を入れるスマートグリッドは、自国経済の振興だけでなく、「世界のインフラ企業や大手企業のシステムのアウトソーシングにつなげる舞台装置」と話すのは岡本晋副会長=ITホールディングス社長。IBMは、次世代アウトソーシングの中核技術のクラウド・コンピューティングで世界をリードする企業であり、官民が連携した舞台装置が有効に機能すれば、JISAにとっても、日本のIT産業にとっても脅威となる。
上海万博で“スマート”な戦略を披露するであろう米IT企業。中国と物理的、文化的な距離が近い日本のIT企業は、この地の利をどこまで生かせるか試されている。(安藤章司)