情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長(NTTデータ相談役)が、グローバル化が急速に進む情報サービス業界の将来像を示した。現状の多重下請けモデルは、産業構造の変化に対応できずに崩壊。勝ち残ったSIerは、世界各国の現地法人と設計や開発などの役割を分担しながら、「グループ企業の内部でITライフサイクルを完結できる仕組み」が、主流になると予測する。すでにNTTデータやITホールディングス(ITHD)などの大手SIerは、グローバル補完の構築に着手しており、浜口会長の予測は、日増しに現実味を帯びる。
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| 浜口友一会長 |
情報システムには、設計→開発→運用のITライフサイクルがあるが、最も人手が必要なのが開発フェーズである。これまでは、元請けSIerが開発部分を下請けに出したり、中国などオフショアの開発会社に発注したりするケースが多かった。JISAの浜口会長は、こうした「設計と開発の分離、元請けと下請けの多重構造は、早晩、成り立たなくなる」との見解を示す。開発などを国内外の下請けに発注するのではなく、同一企業内の現地法人でライフサイクルを補完しあう欧米先進SIer並みのグローバル・デジバリーモデルのスタイルが、日本のSIerにも適用され始めているというのだ。
多重構造の問題点は、社内にノウハウが蓄積されず、受注した下請け企業も、設計に関わっていないだけにコーディングのみの単純作業に陥りやすいことにある。「ITゼネコン」や「ITドカタ」と揶揄される由縁でもある。だが、元請けはコストのより低い国内外の下請けに発注しなければ価格競争に勝てないのも実際のところ。この課題を解決するのが、「現地法人との相互補完の方式」だと浜口会長はいう。グループ内でノウハウを蓄積することができ、かつ現地法人が独自に受注した開発案件に、コスト構造が異なる他の現法が得意分野で支援する相乗効果を発揮しやすい。現地法人は、開発メインの“オフショア拠点”ではないところがミソである。
例えばNTTデータは、欧米で受注した案件の一部を中国・北京で開発している。ITHDは、中国で受注した案件を天津の自社データセンター(DC)で運用するなどの取り組みに着手した。また、複数の現地法人を抱える力をもたない中小SIerやISV(ソフト開発ベンダー)は、専門特化したノウハウや技術を、大手に提供することで勝ち残る方策が有効になるだろう。開発人員の頭数だけ揃え、下請け、孫請けの仕事を待つ従来型の中小ベンダーのモデルに比べて、はるかに付加価値が高く、収益の向上が見込める。大手ベンダーのグローバル化は、中小ベンダーのノウハウや技術を海外へ売り込むルートになることも期待できる。
課題は現地法人の人材確保や体制づくりだ。日系SIerの多くは現地法人運営の経験が浅く、体制づくりには時間がかかる。それだけに、業界発展の方向性をしっかり見定めたうえで、腰を据えた取り組みが求められる。(安藤章司)