NTTコミュニケーションズ(NTT com、有馬彰社長)は、事業継続計画(BCP)と節電を簡単・安全に短期間で利用できるクラウド型仮想デスクトップサービス「Bizデスクトップ Pro」の販売を強化している。東日本大震災の影響で、電力不足や災害などに備えて従業員を在宅勤務させるなど、ワークスタイルを変える動きが企業で活発化。NTT comはこれら“ポスト3・11”のニーズに応えるため、「Bizデスクトップ Pro」を顧客のシステムを多く手がけるシステムインテグレータ(SIer)やパッケージソフトウェアベンダーなどにOEM供給する数を増やす。販売会社は、自社のBCP・節電関連のソリューションと融合した展開が可能になる。(取材・文/谷畑良胤)
「Bizデスクトップ Pro」戦略
2~3年後にパートナー300社へ
簡単・安心・短期に導入可能  |
| 中山幹公 担当部長 |
「Bizデスクトップ Pro」は、NTT comが展開するクラウドサービス「BizCITY」の一環として、2010年6月に開始したクラウド型仮想デスクトップサービスだ。クラウド上に仮想パソコンを作成し、インターネット環境のある場所なら社内と同じデスクトップ環境を利用することができる。専用のUSBを自宅のパソコンなどに差し込めば、VPN、インターネット、モバイルネットワークなどを経由し、パソコンなどの端末にデータを残さずセキュアに利用することが可能だ。
料金は、ID数やサーバーリソース単位の低廉で、従業員数に応じて必要なだけ追加・拡張して利用できるほか、人数が減ればサービスをユーザー単位で停止することもできる。同社によれば、「『Bizデスクトップ Pro』は、専用端末や自前のサーバー設備などインフラ投資が不要で、震災後から急速に導入が進んでいる。たとえ会社が停電しても稼働するので、安価で、しかも簡単な、他社にはないリモートデスクトップだ」(中山幹公・ビジネスネットワークサービス事業部販売推進部担当部長)ということで、BCPや節電という観点からだけでなく、クラウド環境を早期に導入できるサービスとしてニーズが高まっているという。
各種調査会社の調べでは、震災に備えて自社システムで改善が必要な部分として、在宅勤務に必要なシステムや節電に対応したシステム運用などに関する仕組みを求める傾向がある。中山担当部長は、「今回の震災でBCPや節電が喫緊の課題になっている。また、それをクラウドを活用して実現したいと考えている。ただ、自社でインフラ導入からサービスを立ち上げるまで、数か月を要する」と指摘し、NTT comのサービスを使えば1~2週間程度で導入でき、電力供給不足が懸念される今夏や今冬に間に合うと勧める。
1ID/3391円で導入できる 一方で、社外の端末で自社内のデータを扱うことになるため、安全性を疑問視する向きも少なくない。同社の「Bizデスクトップ Pro」は、仮想パソコンの画面情報だけをセキュアに転送し、プリントスクリーンの取得や印刷ができない。SSL-VPNとRDP(Remote Desktop Protocol)による二重化と三つの認証で防御しているので、安心して社外で利用できるのだ。このサービスが、30人利用のケースで初期投資が約50万円、月額利用料金が1IDあたり3391円(税込)で実現する。中山担当部長は、「『BizCITY』が提供するメール、ストレージなどのサービスを組み合わせれば、閉域接続で安全・安心・快適に会社にいるのと同じように仕事ができる」と話す。同社では、企業の利用が拡大している「BizCITY」をタブレット端末でも利用できるサービスなども拡充しているところである。
現在、NTT comでは、「BizCITY」のサービスを融合したソリューションを展開する「BizCITYパートナー支援プログラム」を展開している。参加ベンダーには、パートナーの販促物にロゴを提供するほか、同社のサイト上でアプリケーションを紹介したり、共同セミナーを開催したりしている。また、「BizCITY」上で提供するアプリケーションとパートナーの自社アプリのシームレス連携を実現するための検証機能と検証環境も提供中だ。
中山担当部長は、「現在のパートナーはSIerを中心に約60社。ソフトベンダーも含めて、今後2~3年で300社まで拡充したい」と展望を話す。
調査会社のITRによれば、2010年の国内DaaS(Desktop as a Service)市場のベンダー別シェアは、NTT comが35%以上を占めてトップの位置にあり、富士通やインターネットイニシアティブ(IIJ)、エスアンドアイなどを引き離している。NTT comのリモートデスクトップは、「Bizデスクトップ」簡易版を含め、これまでに約1100社/1万5000IDが導入している。震災後、この領域のサービスは需要が増している。トップベンダーのNTT comがパートナー拡充に本腰を入れたことで、市場獲得に向けた争いがさらに激化しそうだ。