イーサネットスイッチはスイッチ型のハブ(集線装置)で、コンピュータから伝送されたデータから送信先のアドレスを読み込み、データを該当するポートに転送する。イーサネットスイッチ市場は、2010年第4四半期に金額ベースで前年同期比で約17%の伸びをみせるなど、2009年の落ち込みを経て、息を吹き返している。東日本大震災によってデータセンター(DC)需要が高まっているなかで、今後も市場の拡大が見込まれる。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場動向」を読む
2010年通年はプラス成長に回復
調査会社のIDC Japanによると、レイヤー2スイッチとレイヤー3スイッチを合計した2010年通年のイーサネットスイッチ市場は1664億円に及び、前年を上回って、リーマン・ショックによる2009年の大きな落ち込みからプラス成長に転じた。2010年のイーサネットスイッチ市場を四半期別でみれば、第1四半期(1~3月)に売上高が最も大きく、500億円を突破した2008年の第3四半期(7~9月)に近いレベルに達した。また、2010年の第4四半期(10~12月)は、売上高が434億9900万円となり、前年同期比で16.8%増と大幅な伸びを記録した。
2010年の第4四半期には、イーサネットスイッチの通信事業者向け売り上げと企業向け売り上げのいずれも増加した(IDC Japan調べ)。通信事業者向け売り上げでは、NTTの次世代ネットワーク(NGN)サービス向け需要が持続したことや、モバイル通信事業者のLTE(携帯電話の次世代通信方式)サービス用設備投資が市場を押し上げている。
イーサネットスイッチ市場の推移
figure 2 「主要プレーヤー」を読む
トップベンダーのシェアは40%水準
イーサネットスイッチを展開するベンダーのトップ5(2010年)をみると、40%以上のシェアを誇るシスコシステムズが首位を占めており、続いて、アライドテレシス、富士通、日立電線、アラクサラネットワークスがランクインする(IDC Japan調べ)。ハイエンド市場での事業展開を得意とするシスコシステムズは、イーサネットスイッチの通信事業者向けビジネスで高いシェアを有している。同社は、イーサネットスイッチと一緒に導入するケースが多い法人向けルータ市場でも強く、複数のネットワーク(NW)機器を統合的に展開するビジネスモデルによって、NW機器の多くの分野で高いシェアをもっている。文教や医療を得意業種とするアライドテレシスは、2010年の第4四半期にフィックスドポート型のレイヤー2スイッチが好調に売れたことを追い風に、ベンダーシェアの2位を獲得。2004年に日立製作所とNECが設立したアラクサラネットワークスはサービスプロバイダや通信事業に向けたスイッチ/ルータを強みとしている。
イーサネットスイッチベンダーのトップ5(2010年)
figure 3 「トレンド」を読む
モバイル通信事業者向けが有望
モバイル通信キャリアは、今年に入って、スマートフォンやiPadなどのタブレット型端末の利用が個人・法人のいずれの市場においても急増していることを受け、大量のトラフィック量が処理できるよう、ネットワークインフラの強化に向けた投資を拡大している。イーサネットスイッチ市場が活気をみせた2010年の第4四半期には、売上高がNTTのNGN向け投資にけん引されていたが、今年前半からは、「NTTのNGN向け投資の一巡に伴い、需要の中心がモバイルネットワークや通信サービス向け投資に移行してきている」(IDC Japanコミュニケーションズグループの草野賢一シニアマーケットアナリスト)という。イーサネットスイッチのメーカーや販社は、モバイル通信キャリアに向けた事業展開を強化することによって、NGN向け売上の減少を補うことが必要になっている。
モバイル端末の急増に加え、もう一つ、イーサネットスイッチ市場の刺激剤となるのが、データセンター(DC)の普及だ。今後、消費電力の削減を図る小スペースのコンテナ型DCなどが広がり、小スペースでも高性能を発揮できる小型スイッチなど、新しい形態のDCに適したイーサネットスイッチのニーズが高まるだろう。
イーサネットスイッチ需要のシフト
figure 4 「震災のインパクト」を読む
DCの需要拡大に手応え
東日本大震災によって企業がIT投資を抑制し、とくにハードウェアでは市場の一時的な落ち込みが確実視されていた。だが、ここにきてハードウェアを含めたさまざまな“ITの特需”が浮き彫りになりつつある。ディザスタ・リカバリや節電対策の重要性が企業の間で改めて認識されており、DCの需要が急拡大している。そうしたなかで、イーサネットスイッチをはじめとするDC向けネットワーク機器のニーズが高まる可能性が高い。
シスコシステムズは、震災後のDC向けビジネスの状況について「プラスとマイナスが混在し、結果は震災前とほぼ変わらない」(データセンタ/バーチャライゼーション事業統括の石本龍太郎専務執行役員)としている。一方、DC向けのスイッチに強いフォーステンネットワークスや、F5ネットワークスジャパンは、震災によるDC特需に確かな手応えを感じており、DC特需を刺激剤として、スイッチ事業の拡大を見込んでいる。
ただ、日本で震災が発生するリスクの高さや、当分続く見込みの電力供給不足などを受け、企業がDCを完全に海外に移設して国内でのDC需要が減るという見解もある。このように、スイッチ市場の今後の動きは、DCの事情に大きく左右されるといえそうだ。
スイッチ市場とDC事情との関係