日本マイクロソフトと日本IBM、サイボウズの三強時代が続いてきたグループウェア市場。企業規模に応じて、ある程度はベンダーの棲み分けができていた。しかし今、各社が対象とする企業規模を広げる動きが強まっている。ベンダーは、クラウド/SaaS対応やグローバル対応、業務アプリケーション間連携、ソーシャルサービスなど、付加価値の提案で優位性を打ち出そうとしている。(文/信澤健太)
figure 1 「市場動向」を読む
景気が上向き、リニューアル案件が増加
グループウェアは、中堅規模以上の企業ではすでに導入率が高く、ベンダーシェアや出荷金額の変動が比較的少ない。ただ、調査会社アイ・ティ・アール(ITR)によると、国内グループウェア市場の2010年度の出荷金額は、前年度比13.0%増で2ケタ成長の約237億円。08年度から09年度にかけては、景気の停滞に伴って低迷していたが、10年度は景気が上向き、これまで凍結していたリニューアル案件が増加する結果となった。近年、出荷金額が伸び悩んでいたパッケージ型は、前年度比12.2%増の約213億円だった。SaaS型は前年度比20.0%増(24億円)で、伸び率はパッケージ型を上回ったが、30%超の伸びを示していた09年度と比べるとやや勢いが落ちている。パッケージ型と比べて、金融機関や公共機関での導入が少なく、サービス業での導入が多くみられる。年商100億円未満の中堅・中小企業(SMB)に加え、年商1000億円以上の大企業でもSaaS型の導入が徐々に進んでいる。
国内グループウェア市場の出荷金額推移
figure 2 「提供形態」を読む
パッケージ型とSaaS型で異なるプレーヤー
ITRによると、2010年度のパッケージ型市場の成長を支えたのは、日本マイクロソフトの「Microsoft Exchange Server」と日本IBMの「Lotus Notes/Domino」だった。「Microsoft Exchange Server」は、09年に出荷を開始した「Exchange Server 2010」の浸透が進み、大口のバージョンアップ案件を獲得。「Lotus Notes/Domino」もV6.5/7.0の11年4月のサポート切れが後押しするかたちで、同様に案件を積み上げた。一方でSaaS型は市場規模が大きいとはいえず、市場の成長をけん引するほど突出したベンダーが見当たらない状況だ。「Applitus」ブランドをもつネオジャパンや、「WebOffice」の富士通マーケティングが比較的多くの導入実績を挙げている。また、後発であるものの、「GRIDY」のブランドダイアログが健闘している。ただ、ここにきて日本マイクロソフトと日本IBMがSaaS型の販売を推進。外資系大手ベンダーが本腰を入れることで、SaaS型市場の勢力図が変わる可能性がある。
国内グループウェア市場の提供形態別出荷金額シェア
figure 3 「主要製品のシェア」を読む
日本マイクロソフト、日本IBM、サイボウズが三強
調査会社ノークリサーチによると、年商500億円未満のSMB市場の導入社数シェアでトップを走るのはサイボウズの「サイボウズOffice」で、23.1%のシェアを獲得している。2位は日本IBMの「LotusNotes/Domino」(16.6%)、3位は日本マイクロソフトの「Microsoft Exchange Server」(9.6%)、4位はネオジャパンの「desknet's」(7.9%)、5位は富士通の「TeamWARE」(6.8%)と続く。「サイボウズOffice」と「LotusNotes/Domino」「Microsoft Exchange Server」を合わせると、SMB市場で半数弱のシェアを占める。
年商規模別の分布をみると、年商100億円未満では「サイボウズOffice」、年商100億円以上では「LotusNotes/Domino」がトップ。「Microsoft Exchange Server」は年商規模にあまり偏りがなく、10%弱の比率で導入が進んでいる。ITRによると、国内グループウェア市場全体を通して、日本マイクロソフトと日本IBM、サイボウズは高い支持を得ており、なかでも大企業に強い外資系ベンダー2社は出荷金額が突出している。ITRの藤巻信之シニア・アナリストは、サイボウズについて「マーケティングに力を入れているが、伸び悩んでいる。大企業市場では、Lotus Notes/Dominoのシェアを奪うことができていない状況にある」と指摘する。
年商500億円未満のSMB市場のグループウェア導入社数シェア
figure 4 「事業戦略」を読む
差異化策として付加価値を提案
日本マイクロソフトは主な対象だった大企業に加え、SMBへの販売を推進。「Business Productivity Online Suite」の次期バージョンで、「Office Professional Plus」と「Exchange Online」「SharePoint Online」「Lync Online」で構成する「Office 365」を展開している。日本IBMは従業員1000人以下の企業向けエントリー版「Lotus Domino Express」の特別割引キャンペーンを展開中で、モバイルデバイスとソーシャルネットワークの活用を軸とする提案に力を入れている。「LotusLive」には専用データセンターを国内に新設し、今年9月下旬にサービスを開始する予定だ。
サイボウズは、「サイボウズガルーン V3.0」で大企業の新規拡大を狙い、さらに海外事業の強化も進めている。ネオジャパンは、安否確認機能を搭載する「desknet's Enterprise Edition V8.0」と従業員100~700人の企業向け新製品「desknet's Middle Edition」で企業への訴求を強める。ノークリサーチの岩上由高シニアアナリストは、外資系ベンダー製品に加え、サイボウズがウェブデータベース「サイボウズ デヂエ」の後継版と位置づけるPaaS「kintone」やネオジャパンのウェブDB「desknet's DB」を例に、「顧客管理機能を取り込むなどして、グループウェアのプラスアルファで勝負しようとする動きがある」と指摘する。
最近の主要ベンダーの発表