日立製作所(中西宏明社長)の情報・通信システム社ソフトウェア事業部が、海外市場向け事業を加速していく。2015年度(16年3月期)に売上高を10年度比で約3倍に増やす計画を立てた。北米、欧州、アジアの各地域で、ストレージ関連ソフトウェアを中心に販売を伸ばしていく。今年4月1日付でソフトウェア事業部のトップに就いた阿部淳事業部長がインタビューに応じ、プランを語った。(木村剛士)
海外売上高を5年で3倍に
日立製作所の情報・通信システム社は、IT機器とソフトウェア販売のほかにSI、ITサービスを手がける社内カンパニーだ。カンパニーの2010年度(11年3月期)の売上高は1兆6520億円で、そのうちハードが32%、ソフトが10%、SI・ITサービスが58%を占める。国内と海外の売上高比率は国内が76%で、海外が24%。海外売上高の地域別構成比率は、北米が45%、アジア・その他が30%、欧州が25%となっている。15年度までの中期経営計画を推進しており、最終年度に売上高を2兆3000億円、海外売上高比率を35%まで高めることを目標に置いている。
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| 4月1日付でソフトウェア事業部事業部長に就いた阿部淳氏 |
情報・通信システム社の約10%の売り上げをもつソフト開発・販売の陣頭指揮を執るソフトウェア事業部は、約2000人のスタッフを擁する。主力製品は、運用管理ソフト「JP1」やSOA(サービス指向アーキテクチャ)プラットフォームの「Cosminexus」、データベース「HiRDB」、ストレージ管理の「Hitachi Command Suite」。その社内カンパニーのトップに、今年4月1日付で、副事業部長から昇格した阿部淳事業部長が就任。氏はこのたび、成長戦略として「高付加価値の追求」「サービス化」「グローバルビジネス」の三つのポイントに言及した。
とくにグローバルビジネスに対する意気込みは強い。阿部事業部長は、「情報・通信システム社全体の海外売上高比率は24%だが、ソフトウェア事業部はまだその水準に達していない」と説明。そのうえで、ソフトウェア事業の海外売上高を、15年度には10年度の約3倍に引き上げる考えを示した。
伸ばす地域は北米、欧州、アジア。「先進国、新興国を問わずに広く攻める。アジアに多い新興国は伸びしろは大きいが、ボリュームがまだ小さい。一方、北米と欧州は、成長率は低いけれどもマーケットが広い。北米で実績を残さなければ世界で戦えないので、北米地域にも力を注ぐ」としている。
アジアでは、中国に加えてインドに照準を合わせている。インドは社会インフラを構築するための情報基盤の整備を「政府主導で急速に進めている」(阿部事業部長)という。こうした社会システムの案件を、インド企業と組んで獲得する考えだ。パートナー企業の代表例はインド大手企業のL&Tインフォテックで、日立はオフショア開発先として同社を10年ほど前から活用している。
海外市場で販売する主なソフトは、日立の100%子会社でストレージ開発・販売事業の日立データシステムズ(カリフォルニア州)が、世界でストレージの販売を伸ばしており、付随する管理ソフトが中心になる。また、運用管理ソフト「JP1」の販売も強化する。「JP1」は、国内では24・8%のシェアでトップ(09年度、テクノ・システム・リサーチ調べ)だが、阿部事業部長は「アジアでナンバーワンを目指す」としており、中国を中心としたアジア新興国で「JP1」の拡販に力を注ぐ。
グローバルビジネスの強化に向けて、組織体制も変更する。ソフトウェア事業部は、傘下に7本部を配置する体制を敷いている。今年度期首にグローバルビジネス推進組織「グローバル推進企画部」を立ち上げたが、この部隊は「ストレージソフトウェア本部」と称する部隊のなかにある。これを下期がスタートする10月1日付で人員を増強し、ストレージ関連ソフト以外の世界販売を伸ばす体制に変更する。
国内IT市場の低成長が見込まれ、世界市場の攻略はすべてのコンピュータメーカーにとって至上命題。ハードやITサービスの世界販売では高い実績をもつ日立だが、ソフトでもこの5年で一気に存在感を示そうとしている。
表層深層
グローバルビジネスの推進に意気込みを示す阿部淳事業部長だが、ビジネスポテンシャルを感じているもう一つの分野がある。それは、新興国の社会IT基盤の整備だ。
「スマートシティ」と呼ばれる最先端の土木・建築技術と環境テクノロジー、スマートグリッド(次世代電力網)、ITを組み合わせた先進都市を構築しようとする動きが世界各地でみられるようになってきている。阿部事業部長は、そこに入り込もうと考えているのだ。日立はすでに中国で建設中の「天津エコシティ」に協力しており、他地域で予定しているスマートシティ建設にも強い意欲を示している。
「社会インフラの構築とITのビジネスを両方とも手がけられる企業は、世界的にみてもまれ。その両方をもつ日立には競争力がある。IT、とくにソフトが次世代都市開発に貢献できる部分は多いと感じている。長期的な観点で事業プランを練っていきたいと考えている」──阿部事業部長はこう語っている。
1962年にコンピュータ事業部を設立し、1969年に「世界で初めて」(日立広報)ソフトウェア専門事業所を設け、国鉄(現JR)の座席予約システム「MARS」、気象庁の気象観測システム「AMEDAS」を開発してきた日立。社会インフラを構築することを主な目的として立ち上がったソフトウェア事業部は、次世代社会インフラの構築という観点で、今はソフト事業を伸ばそうとしている。(木村剛士)