日立製作所(中西宏明社長)の情報・通信システム社は、x86サーバーの拡販を狙って地方市場を攻め始めた。サーバー拡販部隊と協業会社(パートナー)との関係を強化する組織、全国10か所に配置した支社が連携し、地方のユーザー企業にx86サーバーを売ろうと動いている。その戦略はどぶ板を踏んで攻略するというもの。x86サーバーの販売台数シェアで、NECや富士通といったライバルに大きく水をあけられている状況を打開しようと、地道な拡販活動に着手した。(木村剛士)
日立製作所は、地方を開拓するために、まずは組織体制を整えた。主にパートナーを経由した間接販売の強化を手がける「ゼネラルマーケットビジネス統括本部」内に「エリアビジネス推進センタ」と呼ばれる組織を約100人体制で新設した。同センタは「東日本」「中部」「西日本」に区分されており、それぞれの地域に応じた支援策を考案する。そのうえで、サーバーの拡販をミッションとする「エンタープライズサーバ事業部」内の「統合プラットフォーム販売本部販売推進部」および全国10か所の支社と連携する。
支援内容は、(1)評価・デモ施設の用意(2)地方パートナー・支社向けの情報発信強化(3)地方市場に適したセミナーの開催(4)パートナーのマッチング──が柱。これらの施策を、各地方のパートナーや支社に在籍する日立の営業担当者に向けて展開する。
評価・デモ施設については、関西、九州、中部、中国地区にブレードサーバー「BS320」とスリム型タワーサーバー「HA8000 SS10」を利用した環境を整備した。また、仮想化ソリューションに特化した体験施設「仮想化工房」を、北海道、中部、関西、中国、九州地区の合計5拠点に設置。また、セミナー活動では、ブレードサーバーの提案ポイントを説明する「BladeSymphony提案ポイント説明会」や、支社向けの勉強会を定期的に開催している。顧客やパートナーの要望に合わせて、個別の勉強会も実施していく。
津寺省児・ゼネラルマーケットビジネス統括本部エリアビジネス推進センタ長は、「地方は首都圏とは異なるユーザー企業の課題・要望がある。一般的な施策ではあるが、それぞれに適した販売支援活動を手がけることで、地方のビジネスを活性化することができる」と説明する。また、統括本部パートナービジネス推進センタの南和男センタ長は、「これまで、支社との連携が不足していたと指摘されれば、否定できない部分がある。また、古くからつき合いのある地域のパートナーに対して、日立がしっかりとサーバーを訴求できていたかといえば、そうではない部分もあった。それらを改める。的確な情報・施策を迅速に手がければ、課題は十分に解決できる」と説明している。

地方開拓のキーマンとなるセンタ長の3氏。(左から)高橋美則・西日本販売推進センタ長、津寺省児・エリアビジネス推進センタ長、南和男パートナービジネス推進センタ長
高橋美則・エンタープライズサーバ事業部西日本販売推進センタ長は実状を踏まえてこう話している。「日立のシェアは低い。だからこそ、競合他社よりも伸びしろがある」。
国内x86サーバー市場で今年度上期(2010年4・9月)、日立のシェアは台数ベースで5.0%、金額ベースは6.4%で、順位はともに6位(図参照)。この数字と順位は、ここ数年変動がなく、鳴かず飛ばずの状況が続いているといわざるを得ない。理由は主に二つあって、(1)台数を伸ばしやすいローエンド機種の販売が弱いこと(2)地方市場を攻めあぐねていること。日立は今回の地方市場の開拓施策をテコにして、こうした弱点をカバーしようとしている。 部門の壁を越えて複数の事業部門が連携し、地方攻略に挑む日立のサーバー拡販戦略。まずは、ここ数年打ち破れない上位5社の枠に入れるかどうかが、試金石となる。
2010年度上期、x86サーバーのメーカー別シェア
表層深層
日立製作所が今回打ち出した戦略は、多少の違いはあるものの、競合他社がすでに推進している内容と同じだ。シェアが物語るように、日立のx86サーバー事業は、競合他社に比べて施策が手薄だった面が否めない。中堅・中小企業(SMB)に向けた戦略、パートナー企業への支援施策、そしてローエンドモデルのPR戦略、いずれにとっても他社に比べて見劣りしていた。
しかしながら、プラス面ももち合わせているのが日立の特徴だ。販売台数は少ないものの、2010年8月に発表されたある顧客満足度調査で、日立はPC(x86)サーバー部門で1位を獲得している。購入したユーザーの満足度は、NECや富士通を抑えて、いちばん高いという結果が出ている。
外資系企業にはない強固な販売網、ブランド、そして支援組織。もともと日立はシェアを伸ばせるポテンシャルをもっている。もしこれらが機能すれば高橋美則・西日本販売推進センタ長が言うところの「他社よりも伸びしろがある」だけに、競合にとっては怖い存在になるだろう。
調査会社のノークリサーチによれば、x86サーバー市場は2010年度(10年4月~11年3月)、2年ぶりにプラス成長に転じ、54万2244台に達する見通し。過去10年で3番目に多い数字になると予測している。市場環境が好転した今、日立がどこまで新規顧客を獲得できるか。カギは従前からの日立パートナーと、グループを再編した情報通信システム社のグループ会社の販売力にかかっているはずだ。