通信事業者のKDDI(田中孝司社長)、ソフトウェアベンダーのブランドダイアログ(bd、稲葉雄一社長兼CEO)とエイジア(美濃和男社長)の3社は、bd社が提供するSaaS・クラウド型の営業支援SFA/顧客管理CRM「Knowledge Suite(KS)」を中核にしたサービス提供とアプリケーション開発で資本・業務提携した。bd社がKDDIにこのサービス(「KS」)をOEMで提供。KDDIは、今年2月に設立したKDDIまとめてオフィス(佐藤司社長)やパートナーなどを通じ、Android端末などを合わせてサービスの販売を始める。bd社も独自にKDDI以外のOEM提供先と販売網の構築を開始する。今秋にはエイジアの主力製品「WEB CAS」と連携した新サービスを提供する予定だ。3社協業で3年後には、「KS」を8万社に納入することを目指す。(谷畑良胤)
クラウドの“本命”登場
bd社は、KDDIとエイジアを割当先とする総額4億円の第三者割当増資を実施。同社の現行資本金は資本準備金を含めて1億2450万円。増資後の資本金は、5億2450万円(資本準備金は2億5730万円)になる。KDDIとエイジアの出資額は非公表。今回の増資でKDDIは、bd社の第二位株主になる。bd社は、51%以上の自社株を保持して自社の独立性を確保したうえで、将来の株式上場を目指す方針だ。
今回の資本・業務提携では、まずbd社が同社の「Knowledge Suite(KS)」をKDDIにOEM提供し、KDDIのブランド「KDDI Knowledge Suite(KKS)」として、6月下旬に立ち上げた法人向けクラウドの新ブランド「KDDI MULTI CLOUD」の一環でサービスを提供する。
KDDIとbd社は、Android端末向けのアプリも共同開発する。KDDIの法人向けauスマートフォン(スマホ)にプリインストールして、同社の全国営業網で直販する。スマホ専用のSFA/CRMアプリは業界初という。また、KDDIが提供中の中小企業向け会員制プログラム「KDDIまとめてオフィス」の販売を専門に行うKDDIまとめてオフィス社が、オフィス内のOA製品や通信回線などと合わせて、プリインストール版のAndroid端末をソリューション販売。KDDIの直販とKDDIまとめてオフィス社の販売員を合わせて、数千人規模で全国展開し、早期の市場拡大を目指す。

今回の資本・業務提携の立役者である(右から)KDDIの傍島健友課長、ブランドダイアログの稲葉雄一社長、KDDIの山根隆行課長補佐
(右下は、KDDIのAndroid端末とそれにプリインストールした「Knowledge Suite」のアプリ画面)
bd社はこれを契機に、組織体制を見直すとともに新たな販売体制と販売網を築く。同社では、KSのOEM提供先として、システムインテグレータ(SIer)やソフトベンダーを開拓し、KDDI向けと同様に相手先ブランドでKSを提供する販売体制を構築。さらに、パブリッククラウド型やプライベートクラウド型で提供するKSの代理店向け営業体制をつくる。
これに伴って、営業、コンサルティング、マルチプラットフォーム・アプリに準じた開発などができる組織体制に再編。現在、企業内で運用されているさまざまなソフトを仕分け・統合し、「KS」に一本化して全機能が連携したマルチクラウドサービスの提供を目指す。稲葉社長兼CEOは、「パートナーに再販権を付与し、間接販売できる体制をつくる。これまでぜい弱だった再販体制を本格的に始動させる」と話す。
一方、エイジア関連では、同社主力製品でCRMパッケージ市場のメール送信分野で国内シェアトップの「WEB CAS」を「KS」にインテグレーションし、リードナーチャリング(見込顧客育成)エンジンとなる連携サービスを今秋にもリリースする。
今回の提携は1年ほど前、法人向けクラウドサービスを強化するKDDIがbd社に働きかけて始まった。KDDIクラウドサービス企画開発部の傍島健友課長は、「スマホの登場で法人市場にパソコンを含めたマルチデバイスの利用が拡大基調にある。当社としてはAndroidをはじめ法人向け端末と一緒に法人市場へ切り込む契機となる。その際にキラーアプリがなく、開発スピードが速く柔軟性のあるアプリとして『KS』を選び、bd社と一緒に販売体制を検討してきた」と説明し、従業員300人以下の中小企業を中心に開拓する意向を示している。
これに対して、bd社の稲葉社長兼CEOは、「当社では無料版のクラウド・SaaS型グループウェア『GRIDY』と有料版の『KS』を出しているが、両方の問い合わせが月間500件以上に達している。これを裁くための販売網構築やマルチデバイス対応をどう進めるかが課題になっていた」という。競合他社に遅れを取っていた販売体制とスマホ対応を急ぐうえで、データセンターからネットワーク、通信環境、デバイス、アプリまで総合的に提供でき、資金と人材が豊富なKDDIと提携したと経緯を話す。bd社はインバウンドで入る月間500件以上の案件をKDDI側に渡し、これまで手薄だった見込顧客の受注を加速させる。
表層深層
調査会社のノークリサーチによれば、2010年の国内中堅・中小企業(年商500億円未満)のグループウェア市場では、サイボウズが20%以上のシェアで首位。同社のユーザー数は、累計約3万社。KDDI、bd社、エイジアの連携で目標とする「Knowledge Suite」の導入社数は、3年間で8万ユーザーで、市場を席巻する数値だ。
クラウド・SaaS型のアプリサービスは、販売する側のメリットがうまく打ち出せず、SaaS提供用の基盤を構築する資金力の関係で、ソフトベンダーが単独でSaaS型サービスを展開するには限界もみえはじめている。ところが今、法人向けにスマホが注目され、様相が一変する可能性がある。
本紙は、クラウド・SaaSの普及は通信事業者の出方がカギを握っていると主張してきた。少額の従量課金制でサービスを提供する売り手には、儲けが見込めるビジネスモデルが描きにくい。しかし、通信事業者はキラーアプリさえあれば、通信や端末、サービスなどを合わせた複合提案によって通信料などのストックを稼げ、ユーザーも安心して利用することができる。事実、「先行営業でいい感触を得ている」(KDDIのクラウドサービス企画開発部・山根隆行課長補佐)という。
一方、bd社は、導入希望が増え続けるが、販売網が未整備。そんなbd社は、最高のパートナーを味方につけて最良のビジネスモデルを築いた。今回の資本・業務提携がIT業界で物議をかもすことは必至だ。(谷畑良胤)