勤怠・就業管理システムは、中小企業から大企業まで幅広く導入が進んでいる。基幹業務システムでお馴染みのベンダーや勤怠・就業管理に特化したシステムを提供するベンダーなどが入り乱れ、市場は混戦模様だ。ベンダーのなかには、クラウド・コンピューティングやスマートデバイスなどの対応を通じて、さまざまな企業ニーズに応えようとしているところもある。ソーシャル・ネットワーキング・サービスに着目するユニークなサービスも登場している。(文/信澤健太)
figure 1 「勢力」を読む
OBCが単独トップ、2位以降は混戦模様
調査会社のノークリサーチによると、年商500億円未満の中堅・中小企業(SMB)市場における勤怠・就業管理システムのシェアトップは、オービックビジネスコンサルタント(OBC)の「就業奉行(21/iシリーズ)」で10.7%。2位以降は、アマノの「TimeProシリーズ、TimeAsset」が8.3%、OSK(大塚商会)の「SMILEシリーズ」が4.8%、日通システムの「勤次郎」が4.8%となっており、順位がめまぐるしく変動しやすい状況にある。基幹系システムと比べて、突出したシェアを獲得する製品が存在しないのも特徴だ。「奉行シリーズ」と「SMILEシリーズ」は、財務会計や販売、人事、給与で多く中小ユーザー企業の支持を得ているベストセラー製品。一方、「TimeProシリーズ」はタイムカードシステムを出自とする製品である。完全にスクラッチベースの独自開発システムの比率も22.7%とまだまだ高く、オープンソースソフトウェアベースの独自開発システムも8.0%のシェアを占めている。
勤怠・就業管理システムの導入社数シェア(年商500億円未満の企業を対象)
figure 2 「運用形態」を読む
オンプレミス型の運用形態に根強い支持
年商500億円未満のSMBの間では、ASP/SaaS形態のサービスとして勤怠・就業管理システムを利用するケースが徐々に増えている。とはいうものの、その利用比率はまだまだ低いのが現状だ。ノークリサーチによると、導入済みの製品/サービスの運用形態では「ASP/SaaS形態のサービスとして利用」が5.6%を占め、新規導入予定では8.5%となっている。運用形態で高い支持を得ているのが、「パッケージを自社で購入し、社内人員にて運用」。この形態は、導入済みで52.7%を占め、導入予定の企業では69.0%が検討している。一方で「パッケージを自社で購入し、運用をアウトソース」は導入済みで9.1%、導入予定でも9.9%と比率が低い。ノークリサーチでは、「タイムカードシステムなど社内に置かれた機器との連携ニーズなどもあって、運用を社外に委託しづらい側面がある」とみている。なお、「自社向けに独自開発し、社内人員にて運用」は導入済みが27.5%を占めるものの、導入予定の企業では9.9%とあまり支持を得ていない。
勤怠・就業管理システムの運用形態
figure 3 「ニーズ」を読む
雇用形態の変化や海外進出が導入の契機に
勤怠・就業管理システムの導入のきっかけとして挙げられるのが、システムの老朽化や法令改正、雇用・勤務形態の変化、海外進出だ。2010年に改正労働基準法が施行され、法定割増賃金率の引き上げや代替休暇制度、時間単位年休制度の創設などを受けて、システムの刷新を図る企業の例がみられる。雇用形態は、契約・派遣・再雇用社員やアルバイトなどと多様化しており、事務処理の効率化に新規システムが一役買っている。オフィスではなく、カフェや自宅などで自由に仕事をこなす「ノマド」といわれる勤務形態も注目に値する。ノークリサーチによると、スマートデバイスの新規導入予定は、スマートフォンが4.2%、タブレットが4.2%。今後は増加傾向にあると予想しており、外勤者などの業務効率を向上する手段としてニーズが高まりそうだ。中長期的な勤怠シミュレーションを通じて、システムの活用法や導入形態は多様化していくだろう。海外進出は支店や現地法人の設置を伴うため、導入の余地が大きいといえる。英語版と中国版の「TimePro-XG」を開発・販売するアマノは、海外グループ企業や国内営業との協業を強化。現地進出の日系企業や現地法人に対してアマノ・シンガポール、アマノ・インドネシアを通じて、東南アジア地域を中心に販売活動を展開している。
勤怠・就業管理システムの導入のきっかけ
figure 4 「可能性」を読む
クラウド、スマートデバイス対応に勝機
勤怠・就業管理システムの運用形態は、オンプレスをはじめ、ASP/SaaS、IaaS、PaaS、ビジネスプロセスアウトソーシングなどさまざまだ。企業規模やカスタマイズの柔軟性に応じて、システムの提案の幅は広がっている。スマートデバイス対応においては、GPSによる位置情報の取得や情報の閲覧機能など、社員の利用シーンに最適化したユーザーインターフェースを採用したアプリが登場してくるだろう。新規分野として、人的資本を管理するタレントマネジメントシステムとの連携が盛り上がりをみせる可能性がある。連携性という点で興味深いソリューションとして、デジタルコーストが開発・販売する「チームスピリット」がある。セールスフォース・ドットコムのコラボレーションツール「Chatter」を組み込み、出退勤時につぶやいて行動管理したり、社内の情報共有ツールとして汎用的に利用したりすることが可能となっている。SNSに着目しているのが大きな特徴だ。プロジェクト原価管理や経費精算ワークフローなどもワンストップで提供する。今後はスマートデバイスへの対応をはじめ、コラボレーションや分析・ダッシュボードなどの機能強化、基幹系システムや位置情報との連携などを進める方針を打ち出している。企業パフォーマンス管理に発展させるのが目標だ。
これからの勤怠・就業管理システム