日本のITベンダーは、SI・ソフト開発のコストを抑えようと、オフショア開発に取り組んでいる。中国やインド、ベトナムなど、開発者の人件費が安い国に外注先をつくったり、現地に開発子会社を設置したりして、オフショア開発体制を整えている。およそ20年前から始まった国内ITベンダーのオフショア開発。果たして、現状はどうなっているのか。情報処理推進機構(IPA)が発行した最新の調査レポートをもとに俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「市場規模」を読む
2010年度は前年度比プラス
図では、国内のオフショア開発総額を年度ごとに示した。最近の傾向をみると、2008年度までは、大手のITベンダーだけでなく、中堅規模のSIer・ソフト開発企業も積極的にオフショア開発を開始したことで、右肩上がりに増えていた。だが、リーマン・ショックの影響で、2009年度に大幅に減少。そして、直近の2010年度は、ITベンダーの業績回復と開発プロジェクトの増加に合わせて、再びプラス成長に転じた。今後については、現在よりも「オフショア開発を増やす」という回答が59.8%、「現在と同程度でオフショア開発を継続する」が29.5%という結果が出ている。この回答をみると、増えることはあっても減少することはなさそうだ。ただ、IPAでは、「新規開発案件が従来よりも減少しており、案件が小口化している。伸びは緩やかだろう」と分析。急拡大するような状況にはならないと予測している。国内のオフショア開発額は900億~1000億円規模というのが妥当な見方だろう。
オフショア開発発注額の推移
figure 2 「利用傾向」を読む
IT企業の3割が標準採用
日本国内のITベンダーがオフショア開発を利用し始めたのは、今から20年ほど前だ。最初は首都圏の大手ITベンダーが取り入れ、その後、中堅クラスが使い始め、今では、中小のITベンダーと地方のITベンダーも開発プロセスの一部として、オフショア開発を組み込んでいる。下の図は、オフショア開発の位置づけをITベンダーにたずねた結果である。最も多い回答が、「個々の案件のなかの個別の取り組みと位置づけている」で、全体の44.6%を占めた。つまり、開発プロジェクトの内容に合わせて、必要であればオフショア開発を使っているということだ。その次が「標準的な開発プロセスの一部として位置づけている」で、30.4%。約3割のIT企業は、ほぼすべてのプロジェクトで、オフショア開発を開発工程に組み込んでいる状況がみえる。すでにオフショア開発体制が整備されており、海外にプロジェクトの一部を外注することがあたりまえになっていることがわかる。
オフショア開発の位置づけ
figure 3 「現地の業務」を読む
グループ企業以外からの受注が増加
日本のIT企業は、海外の開発子会社でどのようなオフショア開発プロジェクトを進めているのか。それを把握するのに適しているのが下図である。図は、海外開発子会社の有無と、設置している子会社がどのような開発業務を手がけているかを聞いた結果である。現地法人を設置している企業の回答で、自社のオフショア開発業務を請け負っているケースが最も多く、全体の42.9%を占めた。次が「現地市場向けのシステム開発業務」。日本の親会社から請け負った業務ではなく、子会社独自に獲得した現地のプロジェクト案件を手がけているケースで25.0%を占めている。その次は、「自社以外の日本企業からの開発業務」(20.5%)。「日本以外の海外企業からのオフショア開発業務」も7.1%ある。親会社の下請け仕事に終始するのではなく、自ら営業してグループ企業以外の仕事を獲得しようとする動きが顕著になってきているのだ。中国・済南市に本社を置くNECソフト(済南)の木田橋龍総経理は、「親会社のオフショア開発先にとどまっていては成長はない。今後の計画では、中国現地の企業の開発案件を獲得することを重視している。親会社もそれを求めている」と語っており、ソフト開発力の“外販”に力を注ぐ考えだ。日本のITベンダーの海外開発子会社は、単なる開発拠点ではなく、現地の営業基地としての役割も果たそうとしている。
オフショア開発の海外子会社の業務内容
figure 4 「問題点」を読む
慢性的な問題は「コミュニケーション不足」
では、オフショア開発の問題点は何か。開発方法や商慣習、文化が違う外国で、日本で開発したものと同じ品質を維持するためには、日本とは違った施策が必要になる。図では、オフショア開発を行っているITベンダーに開発遅延や想定外のコスト増加などのトラブルに至った原因を聞いている。最も多いの回答は、「言語や文化の違いによるコミュニケーション不足」。64.9%と突出して高い。オフショア開発先と共同開発体制を組むためのコミュニケーションの欠落が、トラブルのもとになっているケースが多いことがわかる。この問題は以前から高い比率を占めているが、依然として解決しにくい課題である。次が、「発注仕様に対するオフショアベンダー(日本のITベンダーから仕事を請け負った海外のソフト開発会社または現地子会社)の理解不足」(43.8%)、3番目が「品質や進捗に対するオフショアベンダーの認識不足」(41.1%)。この二つの回答は、日本のITベンダーの言い分で、オフショアベンダーにいわせれば、「発注先(日本のITベンダー)が仕様や進捗・品質について基準やルールを明確に伝えていない」とも指摘することができるだろう。“阿吽の呼吸”が通じない外国のソフト開発会社と組むには、日本以上に密なコミュニケーションが必要ということが重要な課題というのは変わらない。
オフショア開発におけるトラブルの原因