一部の中堅SIerで、オフショア開発が活発化している。中堅から中小クラスのSIerがオフショア開発を活用する動きは5年ほど前から始まったが、ベンダーによっては思うようにコスト削減が進まず、オフショア開発をやめるケースもあった。だが、ここにきて増加傾向をたどり始めているのだ。成功のノウハウを得た特定のベンダーが、オフショア開発率を高め、全体を押し上げていることが要因と考えられる。
情報処理推進機構(IPA)がまとめた「IT人材白書2010」によると、国内ITベンダーの2009年度オフショア開発実績は1003億円7100万円。02年の調査開始以来、初めて減少した。ただし、ITベンダーの従業員別でみると、従業員1000人以下の中堅・中小規模クラスのオフショア開発額は増えている。
日本のITベンダーは、開発コストを削減するために、一部の大手ITベンダーが10年ほど前にオフショア開発に目を向け始めた。その後、5年ほど前から中堅クラスのITベンダーが追随した。
IPAの調査によると、日本のITベンダーの4社に1社はオフショア開発の経験をもっている。しかしながら、商習慣や文化、言語の違いから、工数が国内よりも多くかかってしまい、計画通りにコストを削減できず、結果的にオフショア開発から手を引くケースもあった。とくに、「ブリッジSE」をもたない中堅SIerが撤退するケースが多かった。例えば、富士通システムソリューションズは、約1年半前まで単独でオフショア開発を展開していたが、メリットを享受できず、他社との協業によるオフショア開発体制に切り替えた。
それでも、中堅クラスのITベンダーの発注額が増えているのは、一部のSIerが発注額を増やし、全体を押し上げていることが考えられる。年商約340億円のSRAホールディングスは、10年ほど前からオフショア開発を開始。インドと中国人技術者を活用している。昨年度は、700人月を発注したが、今年度は1020人月の発注を計画する。
同じく年商約330億円の中堅SIerである富士通ビー・エス・シー(富士通BSC)も、オフショア開発率を高めようとしている。同社は中国に現地子会社を設立し、昨年度末の従業員は185人だが、今年度は215人に増員する計画を示した。「コスト削減に寄与している」と兼子孝夫社長は話している。
両社の共通点は、ともにオフショア開発経験が長いことだ。10年も前からオフショア開発を始めており、そのノウハウを蓄積してきた。
試行錯誤を繰り返し、成功のノウハウを得たITベンダーが、オフショア開発のメリットを享受し、その一方で失敗で萎えたベンダーはオフショア開発を諦める――。中堅ITベンダーのなかで、オフショア開発の活用に差が生じ始めている。(木村剛士)