教育を支援するIT機器とサービス、コンテンツを提供する内田洋行(柏原孝社長)は、学校向けITソリューションの大手ベンダーであり、豊富な実績を誇る。同社がメインスポンサーを務める「NEW EDUCATION EXPO」は、国内最大規模の教育関連イベントとして毎年開催される。今年は6月7日~9日の日程が予定されている。このイベントを企画したのが、大久保昇・取締役専務執行役員だ。「NEW EDUCATION EXPO 2012」が開催される前の5月、大久保氏に本紙主幹の奥田喜久男がインタビューし、日本のIT教育についての捉え方やイベントの見どころについて聞いた。
(構成/木村剛士 写真/大星直輝 聞き手/『週刊BCN』主幹 奥田喜久男)
教育イベントにかける熱い思い
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| 「今後の教育にITは不可欠」と語る大久保昇取締役専務執行役員 |
奥田 「NEW EDUCATION EXPO」を企画されたのは、大久保さんと聞いています。どんなきっかけでイベントをスタートしたのですか。
大久保 このイベントは、今から17年前の1995年に初めて開催しました。日本の教育水準を高めるために、教育に携わるすべての人が立場を越えて、互いの情報を交換する場を設けたいと考えたのがきっかけです。
「NEW EDUCATION EXPO」は、小・中・高等学校、大学といった階級は関係なく、すべての教育者と自治体関係者、関連する企業に有益な情報を提供するイベントで、その当時は、こうした催しがなかったのです。学校にIT・教育機器や教材、コンテンツを販売している内田洋行が先導してやらなければいけない、という責任感に突き動かされたのです。第一回目は、内田洋行のオフィスを借りて、わずか九つのセッションで構成したことを憶えています。最初は、社内のスタッフの協力を得るのに苦労しました。
奥田 苦労して立ち上げて、それから17年もの間継続して、今では日本の代表的な教育イベントになったのですから、すばらしいですね。教育現場のIT利用を促進してきた大久保さんは今、学校のIT化でどのような問題意識をおもちですか。
大久保 初めて「NEW EDUCATION EXPO」を開いた頃、学校における日本のIT活用は、諸外国よりも先進的でした。しかし、今は海外のほうが進んでいます。ASEAN(東南アジア諸国連合)地域の国では、シンガポールと韓国がとくに進んでいます。財政が厳しくても、トップが代わったとしても、教育機関のIT化に向けて投資し続けているからです。日本の学校は、今では遅れをとってしまった……。これを何とかして挽回したいです。
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| 「苦労して立ち上げて、今では日本の代表的な教育イベントになったのですから、すばらしいですね」 |
奥田 BCNは、ITに興味をもつ学生を支援する「ITジュニア育成交流協会」というNPOに協力し、若いITエンジニアの育成をサポートしています。教育機関のIT環境が不十分であることは、私も知っています。ITジュニア育成交流協会は、この課題を解決するため、まだ利用できる企業の不要パソコンを回収して、無償提供するプログラムを始め、BCNも協力しています。そんな事情もあって、私も大久保さんと同じ思いを抱いています。
多くの関係者に向けて情報発信できる「NEW EDUCATION EXPO」の役割は大きい。今年はどのようなテーマで、イベントを企画しているのですか。
大久保 イベントは3日間で盛りだくさんですが、今年みなさんと共有したいテーマの一つが、「東日本大震災」です。被災した学校の復興に向けた取り組みなどを紹介するセッションを用意しています。また、海外諸国のIT事情を伝えることもポイントで、中国における教育の情報化の現状を説明するセッションも予定しています。
それと、自治体の関係者に向けて、各地域で学校が果たす役割と、学校のIT化がいかに重要かを理解してもらうセッションも複数用意しました。地域の中心は学校であるべきだと私は思っていますから、この考えを自治体の方に知ってほしいと思っています。
奥田 このイベントを将来的にどのようなものに発展させたいですか。
大久保 教育機関向けに提供する先進のITソリューションが集まる場、教育関係者の方々が情報交換できる場として、さらに成長させたいですね。
奥田 その通りですね。ますますのご発展を期待しています。
内田洋行が誇る未来の学習空間
「フューチャークラスルーム」 今回の取材は内田洋行の本社ビルで行った。本社ビルには、最先端の情報システムとIT機器を取り入れた次世代IT教室「フューチャークラスルーム」という施設がある。無線ネットワークとプロジェクタを通じてパソコンから電子教材を電子看板に映し出し、電子ペンで自由に文字や絵を描くことや、画像の拡大・縮小ができる。教室全体の照明の消灯や明るさの調節は、iPadで行うといった操作も可能だ。取材が始まる前、大久保専務自らが、その利点を説明してくれた。大久保専務は、フューチャークラスルームを学校にもっと増やしたい」と話し、教育現場のIT化に向けた熱意を印象づけた。